STAY GOLDをもう一度
ちりぬるを
18歳 1
片想いを素晴しいとか、一番美しいとかやたらと美化して言う人がいる。私はそういう人間一人一人を拷問にかけてやりたいと思う。こんなに苦しいのに、それでもあなたは素晴しいと言えるのか? その血まみれになった身体を見て、それでも美しいと言えるのか?
片想いなんて残虐な拷問のようなものだ。少なくとも私にとっては。
「私、先輩のことが好きです! 私を彼女にして下さい!」
ゴールデンウィークを終えたばかりの教室、私の目の前で私が二年間片想いをし続けた人に対し、小柄でツインテールの可愛らしい一年生は言い放った。私がずっと伝えたくて、ずっと二の足を踏んできた言葉を、いとも簡単に、あっさりと。
日常という言葉がピタリと当てはまる清々しい昼休みに突然起こった出来事に驚き、目を丸くしたのは彼と私だけではなかった。弁当を食べながら雑然としていた私達の教室は、風のように颯爽と現れた彼女の告白によって時間が止まった。皆手を止め、口を止め、彼の返事を見守った。もちろん私も例外ではない。予想だにしていなかったこの事件に私は惚けたようになにも考えることも出来ず、その他大勢とともにぽかんと口を開けて彼の様子を見ていることしか出来なかった。
「う……ん。はい」
周囲の視線や重々しい空気に気圧されたように彼は弁当の唐揚げを箸でつまみ、口に運ぶ途中のいかにも間の抜けた顔のまま答えた。
それを合図にしたかのように止まっていた教室の時間が一気に動き出す。嬌声、喝采、口笛で冷やかす者や、椅子の上に立ち両手に持った箸を打ち鳴らす者、さっきまでの静けさがまるで嘘だったかのようなお祭り騒ぎが始まった。
そのお祭りの中心にいる彼は照れたように俯き、彼女はそんな彼を嬉しそうに、健気な瞳で見つめていた。
しかし、そのお祭りの中心から机一つ分離れた私の時間はまだ止まったままで、ぼんやりとしか彼らを見ることが出来なかった。ただ一つだけ、ほとんど空っぽの頭にただ一つだけ浮かんだ言葉があった。「ああ、終わった」長かった私の片想いはこれで終わったのだと。
その言葉通り私はこの喧噪の中で一人、机に伏せて誰にも気付かれないように泣くはずだった。二年間も思い続けてきたのに、ずっと彼のそばでその思いを隠しながらいつか来るであろうチャンスを待っていたのに。まぶたを押さえ、走馬灯のように彼との二年間を思い出していたが、不思議なことに私の目は涙を流すどころか潤いさえしていなかった。多分、私の意に反して本能は分かっていたのかもしれない。
これが終わりではなく、始まりに過ぎないということを。
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