第3話 復活の呪文
まさか、戻って来るとは思わなかった。
私は3月2日の15:00に、ストリエがなくなった瞬間を見ていた。自分が愛した自身の作品が消えてしまう瞬間を見ていた。
クリックしても、自分が書いたはずの作品がもう見られなくなった。あっという間だった。「順次」と書いてあったのに、3月2日の15:00にはまったく観られなくなった。
「順次に使える機能が減っていく」のはすでにお知らせがあった1月から始まっていて、3月2日には全て使えなくなるのだと気づくのは後だった。
どちらかというと、前に考えるプロメテウスではなくて後で考えるエピメテウスタイプである。わからなくても、やってみればわかるだろうな考え方である。
以前に読んだギリシャ神話では物事が起こる前に何でもわかってしまう兄のプロメテウスを持ち上げていたが、後できっちりと考える弟のエピメテウスもすっごく大事だと思う。前もって解っちゃうプロメテウスだって数々の失敗を繰り返したからやる前からわかるわけだし、それは先に生まれた兄の特権というだけなのではないのか。
あれ、でも、確かエピメテウスは後先考えずにパンドラの箱を開けてしまったのではなかったか? ……それは悪く書かれるだろう。否、賛否両論だったはず? 関係ない話なので隅に置く。
運営さんの別のサイトのART streetへのリンク(旧サイト名はメディバン)の画面しか出てこなかった。自画自賛の作品群だが、それが永遠に失われてしまった。
哀しかった。
涙は出てこなかったが、その寸前まで行った。
きっかけがあれば、号泣したかもしれない。しかしひとりでPCに向かって書いていたためか、一緒に嘆いてくれる人もなく、じわっとはしたけれど一滴の涙も出なかった。
自分が初めて書いた……と思っていたけど、もっと前に別のカドカワさんのサイトに書いてたことに気づくが、その少し前に別のゲームのサイトの二次作品に投稿していた時もあったが、それはちょっと置いておいて。
ものすごい喪失感があった。
大切に書いていた、大事な作品たち。愛着があった登場人物が、大事に育てた我が子にも等しいキャラクターたち、もう観ることもできない。他のサイトへの移行のため、イラストレーターさんからお借りしたイラストはあったけれど、それがフキダシで語ってくれることがなくなった。
一応、エクスポート機能というボタンがあって、文字はテキストファイルで手元に残るがイラスト込みでの作品は読めなくなる。
辛い、哀しい、淋しい、悲しい。
自分の大好きな(自分が書いた)作品がもう見られない。
と、非常に嘆いた。
しかし、それから約3カ月弱たった5月25日のメールで、運営会社がメディバン(サイト名は変わったが会社名はそのまま)からパルソラに移ってストリエが年内に再開するという知らせが来た。
それはそれは嬉しかった。
非常にとても嬉しかった。
自分の大切な作品に、また完成形で逢えるのだから。
それは手放しで喜んだ。私はふつうに喜んでいた。
そして、7月2日にストリエ再開のお知らせが届いた。
年内とメールに書いてあったので12月だと思っていたのに早い再開だった。はじめは6月と言っていたのが7月になったので遅れたわけではないのに遅れた印象にはややなったが。
ストリエに行ってみた。
行けた。
嬉しかった。
まずやったのが、エンジェリック・クレーマー(自作の愚痴を書きまくるエッセー)の更新。3月2日に盛大に「さようなら~」を書いていたので「また書くぞ~」を書いた。
そして公開。
「できません」と表示された。
うん。
それはそういうこともあるだろう。
年内とはきっと12月だろうと勝手に思っていたのだ。
その半年も前倒しになったのだ。いろいろとあるだろう。
それでも以前と同じようなレイアウトで、今まで書いていた作品の続きも書けるし、新しい作品だって書けるのだ。それを喜ぼうではないか。
そんなことを思いつつもがんばってみた。
トップページに行くと、他の書き手さんたちがアップしている新しい作品や更新された作品があった。
どうして? と思っていると、自分が使い方を忘れたことが原因のようだった。エピソード情報を公開にしても、ストーリー編集画面に戻って「公開する」ボタンを押さねばならなかった。
しかし、いろいろと急いだのか表示ミスのようなものもあった。それが前述の「公開できません」。それが原因だと言いたいけれど、「公開する」ボタンを押さなかった私が悪い。
そして、なんとか公開できた。
他の作品も読んでみた。再開を喜ぶ作品が多かった。
喜んでいる人、何人かいるんだと思った。
残念だったのが、けっこう作者側からの意見で、私が言いたくても言えなかったことをスパっと書いてくれて、溜飲がス~っと下がった気分になれた作品が消えていたこと。
『どうして?』と少し思ったけれど、誰にも聞けなかった。
何かあったんだろうと思うだけだった。
苦しくても、辛くても、誰にも何も言えずに、嫌なことがあっても愚痴ることすらできない。小説を投稿することが、こんなに辛いんだと思うこともしばしば。
その作品を読むと、それが少し、収まった気がした。
そういう作品を、運営側は求めていないのだろうか? だから人知れず闇に葬られたのか?
本人が削除したのだろう。
でも、そうではないかもしれない。
それすらもわからない。
とにかく、その作品がなくなっていて淋しかった。
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