第232話 圧倒

マゴイットとアルティは、紋次郎を探して敵のアジト内を探索していた……二人とも探索など地味なことが苦手なこともあり、完全に迷子になっていたが、どちらもその事実を認めていなかった。

「紋次郎のやつ、どこ行ったんや」

「気配も形跡もないからこの辺にはいないんじゃないの」

「そんなんわかっとるわ、ほな、どっち行ったらええんや」

「そんなの私にもわからないわよ……」


そんな迷走の中、最初に異変を感じたのはアルティであった。

「二つ……妙な気配が近づいてますね」

「ほんまやな……そこそこ強そうな気やけど……」


二人とも何がきてもいいように、戦闘の準備を始めた……


「二匹……二匹とも人間だな……これはハズレを引いたいかの……」

アルティとマゴイットの前に現れた狐の頭部を持つ旧約悪魔のジモヌはそう言った。

「いや……ジュルダークは人間に倒された……だとすれば当たりかもしれぬぞ」

ジモヌの隣に立っている狸の頭部を持つ旧約悪魔、シュフベがそう言葉を続ける。


「なんや、お前ら、当たりやハズレや勝手なこと言うて、私らはクジやないで」


二人の旧約悪魔は、マゴイットの言葉にさしたる興味を示すこともなく、唐突に攻撃を開始した。


シュフベは両手を上にあげ、巨大な斧を召喚した──それを両手に持つと、アルティとマゴイットとの間合いを詰める──それと同時に、ジモヌは無数の剣を空中に召喚する……ジモヌが手を振ると、無数に浮かんでいた全ての剣が、高速でアルティたちへ向けて放たれた。


シュフベの斧の攻撃を、マゴイットが剣で弾き返す──

「に……人間がこの斧を弾き返すだと!」

超級冒険者くらいであれば剣ごと一刀両断されたであろう一撃を簡単に弾かれ、流石にシュフベも驚きを隠せない。


無数に放たれたジモヌの剣は、アルティの雷撃魔法で全て撃墜されていた──

「召喚した剣は、全て魔法耐性のある魔法剣なのだがな……」

通常の魔法攻撃では撃墜など不可能な剣を撃ち落とされ、目の前の敵が普通の人間でないことをようやくジモヌも認識した。


シェフべが振り回している武器は、魔神の斧と呼ばれるラレーヴェン級の魔法武器で、並みの武器では打ち合うこともできないのだが、マゴイットの剣はさらにその上をいく……ラグリュナ級魔法武器、ビュホーンに住む魔竜の牙を鍛えて作り出された刀身に、精霊神ファルナの加護を受けた、精霊真剣の名を持つ神剣であった。


マゴイットの剣技と剣の威力に、三度ほど打ち合わせただけで、魔神の斧は粉々に粉砕した。

「ば……バカな!! 魔神の斧が砕けるなど……」

「斧のせいやないで、お前の腕が悪いだけや!」

マゴイットはそう指摘しながら、武器のなくなったシェフべを一刀両断に斬り伏せた……精霊真剣に斬られたシェフべは、黒い墨となり消え去る……


新たな剣を自らの周りに生み出したジモヌはそれを全てアルティに向けて放った──さらに生み出した剣に対魔の術を付与して、さっきのように魔法で追撃されないようにしていた。


アルティは剣に対魔法のコーティングがされていることを察していた、もちろん、強引にそのコーティングごと剣を粉砕する威力の魔法も持ってはいたが、敵の剣を利用して一気に勝負をつけることにした。

「ストーム・ゼフィロス!」

驚異的な暴風の魔法は、全ての剣の進行方向を反転させる──無数の剣は、それを生み出した本人へと牙を向けた。


ジモヌが召喚した剣に驚異的な殺傷能力があることを、ジモヌ本人が示すことになった……アルティに跳ね返された剣の中の3本が、ジモヌの体を貫く……

「ぎゃああああ!!」

剣に貫かれた箇所から炎が巻き上がり、稲妻が吹き出る……貫いた剣はどれも強力な魔法剣であった、流石の旧約悪魔も、三本の魔法剣に同時に貫かれては一溜まりもなかった……そのまま真っ黒いカスとなり、消えていく……



「旧約悪魔も大したことなかったな」

マゴイットの感想にアルティも同意する。

「そうね……これなら紋次郎さんも倒される心配はなさそうね」


二人とも、魔界の強化合宿によって、思っている以上の強化がされていた、それにより強力な旧約悪魔をも楽に退けたのだが、二人には旧約悪魔が想像以上に大したことない相手として感じていた。

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