第230話 返り討ち
魔族たちを倒した紋次郎は、上に向かってスフィルドたちと合流するか、このまま周辺を調べるか迷っていた。
「どうするのですか紋次郎、私は一度上に戻った方がいいと思いますわよ」
アスターシアが紋次郎に釘を刺すように助言する。
「そうだよな……クロートスもいるし、みんなと合流するのを優先しようか」
しかし、皮肉なことに、安全策として考えたその行為は、逆にみんなとの合流を遠ざけてしまった。
上へ行くルートを探す為に周りを探していたのだが、その階層から上に直接行く道は見つからなかった……
「おかしいな、どうやっても上へ行けないぞ」
「もしかしたら一度下へ降りないとダメなんじゃないの」
アスターシアが言うように、ここは下からしか来れないフロアーかもしれない、俺たちは一度下へ行って違うルートを探すことにした。
しかし、下のフロアーにも別ルートは存在せず、俺たちはどんどん下へと進んでしまった──そして五階層ほど降りた場所で、これまで感じたことない禍々しい気配に足を止める。
「紋次郎……何かいますわ」
「わかってる……」
アスターシアに言われるまでもなく、目視できるんじゃないだろうかと言うほどの殺意の気配を感じていた。
「ふっ……わかるか……自らの死が現れたことが……」
そう言いながら紋次郎の前に現れたのは黒豹の顔を持つ旧約悪魔のジュルダークであった。
「何よあんた、私たちに何か用ですの!」
アスターシアが敵意むき出しでそう言うと、ジュルダークは不敵に笑いながらこう返す。
「妖精や人間に用などない、俺はお前たちの仲間の神族を屠りに来たのだ」
「神族? ああ、スフィルドのことかな」
「名など、どうでもいい、その神族はどこにいるのだ」
「それは俺たちが聞きたいよ、はぐれて困ってるんだ」
「ふっ、見え透いた嘘だな……旧約悪魔のこの俺が近づいたのを察知して、逃げたのだろう……」
「いや……本当にはぐれてるんだって……」
「そこまで白を切るならそれでもよかろう……痛めつけて居場所を吐かせてやる」
「旧約悪魔か何か知らないですけど、逆に痛い目に会う前に謝ったほうが良いですわよ」
「やってみるがいい……痛みなど……この数千年……感じたこともないわ」
「だそうです紋次郎、ちょっとガツンとやっておしまい!」
アスターシアに言われる前に、紋次郎は動いていた、仲間のスフィルドを屠るなんて言う奴に遠慮はいらないとばかりに一気に間合いを詰めて斬りかかる。
ジュルダークは紋次郎の踏み込みの早さに反応できなかった──そのまま強烈な一撃を頭部に受ける。
「ぐはっ!!!」
頭を半分吹き飛ばされたジュルダークはその場でうずくまる……
「あらら、随分痛そうですけど大丈夫ですの」
「う……うるさい! ふっ……少しはやるようだな……それでは本気で相手をしてや……」
言い終わる前に紋次郎の二撃目がジュルダークを真っ二つにした……ジュルダークは小さく呻くと、そのまま黒い灰となり、消滅した。
「何か言ってる途中でしたのに……紋次郎も容赦ないですわね」
「スフィルドに何かしようとする奴に遠慮する必要ないだろ」
「まあ、そうですけど……」
旧約悪魔のジュルダークが簡単に倒されたのを見た魔族のジュニオは、自分では紋次郎には歯が立たないとすぐに悟る……それでも戦うべきか悩むが、やはりここはズオルドに報告することを優先した。
その報告を聞いたズオルドは額に汗を浮かべ、焦りの表情で他の旧約悪魔たちの元へと向かった。
ジュルダークが倒されたのを聞いた旧約悪魔たちは、さすがに動揺を隠せなかった。
「信じられん……我らの中で一番非力とはいえ、ジュルダークが敗れるとは……して、倒した神族とは何者なのだ」
「倒したのは神族ではない、人間の男だ」
「なんだと! そんなバカなことがあるわけないだろう、我ら旧約悪魔が人間ごときに遅れをとるなど……」
ただ、敗れただけではなく、圧倒的な敗北を期したのだが、それを言ったところで旧約悪魔たちは信じはしないだろう。
「ジュルダークを倒した人間だけではなく、神族も敵側にはいる……ここは戦力を出し惜しみするのではなく、全力で敵を殲滅しようと思うのだがどうだろう」
旧約悪魔たちは、ズオルドのその提案を渋々受け入れた……
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