第229話 神鳥の羽搏き
スフィルドとリンスの前には十人ほどの魔族。さすがにリンスは焦りの顔を見せるが、スフィルドは表情すら変えない。それは圧倒的実力の差が、その魔族と自分にあることを知っているからである。
スフィルドは、リンスに少し下がるように言うと、魔族に向けて、暴風の魔法を放つ。途轍もない速さで、強烈な風圧が魔族に襲いかかる。真空で魔族の体を切り刻みながら、後ろの壁まで吹き飛ばした。
圧倒的な強さを感じた、魔族たちであったが、それでもスフィルドに反撃を試みる。二人の魔族が、ボロボロの体で、スフィルドに向かって跳躍する。二人の体は、スフィルドに近づくごとに体を硬化させていく。すぐ、目の前までくると、両腕は金属の剣のように変化していた、かなりの硬度のある金属のようだが、スフィルドはそれを生身の体で弾き返す。
魔族をはじき返すとすぐにスフィルドは右手を軽く振り上げる、振り上げた手の軌跡に沿って空間が歪み、猛烈な空気の刃が生まれた、その刃が二人の魔族に襲いかかる。
鋼の剣でも傷もつかない魔族の体を、空気の刃はたやすく切り裂いた──二人の魔族は、四つの肉片と変えられる。
それを見ても魔族たちは怯むことはなかった、残りの魔族が一斉にスフィルドに襲いかかる──襲いかかる魔族たちに対して、スフィルドは背中に光の翼を出現させると、大きく羽搏き、光の風を巻き起こした。
聖なる光の風が、魔族の黒衣のオーラを芯から浄化していく──物質が分解するように、全ての魔族の体を小さな光の粒に変えて消滅させていく。
全ての魔族を消滅させると、スフィルドはリンスに声をかけた。
「リンス、紋次郎を追いかけましょう、こんなところでこれほどの魔族がいるとなると、奥にはどんな強敵が待ってるかわかりませんから……」
魔族に対して楽に勝利したように見えたが、その危険性を感じたスフィルドは少しの不安を感じてそう言った。
そんなスフィルドの言葉にリンスも頷き同意する。
「そうですね……今の紋次郎様はお強いですが……それでも心配です……」
リンスの同意を得ると、スフィルドはリンスを抱きかかえて紋次郎の落ちた穴へと飛び込んだ。
マゴイットは黒い瘴気によって変形した魔族たちに向かって走り寄る──近づけば近づくほど、気持ちの悪い声は大きくなり、マゴイットを不快にさせた。
変形した魔族は、気持ちの悪い声を変化させる、それは特殊な詠唱で、魔法を発動させるものであった。
マゴイットの足元から火柱が上がる──数千度の高熱の炎を、マゴイットは体をひねって避ける。
避けた場所の足元からも火柱が上がり、それも間一髪のところで回避する。5本目の火柱を避けた時、マゴイットは魔族たちの元まで接近していた。
オーラの力で強化された剣を一閃させる──魔族の一体は横に真っ二つにされ、黒い墨となって消滅した。
マゴイットはさらに他の魔族たちも次々に撃破していく……一分ほどで、全てを消滅させると、ドヤ顔で親友に微笑んだ。
「お疲れさん、さて、それでは行きましょうか」
アルティの素っ気ない言葉に、マゴイットは少し強めの言葉で言い返す。
「なんや、アルティ、そのそっけない言葉は、もっと褒めてくれてもええねんで」
「あれくらいあんたにとっては軽いものでしょう?」
「まあ、そやけど、うちは褒められて伸びるタイプや」
「別にこれ以上伸びなくていいわよ」
「そやな、これ以上差がついたら追いつけんようになるもんな」
マゴイットの言葉に半ば呆れたような表情をすると、アルティは話を切り替える。
「……まあ、そんなことどうでもいいんだけど、さっきスフィルドとリンスが紋次郎さんの落ちた穴に飛び込んでいったわよ……あの二人、これを機会に得点稼ぎする気かもしれないわ……だから私たちも急ぎましょう」
「ほんま、あれやな、素直やないというか……それより、アルティ、お前、紋次郎に自分の気持ち伝えとんか?」
「なっ! 何よ自分の気持ちって! わ……私はそんなんじゃないわよ……」
「不器用なやっちゃな……まあ、ええわ、早よ行かんと、あの二人に先を越されるで、さっさと行こうや」
マゴイットはそう言って紋次郎の落ちた穴へとダイブした。アルティもブツブツ言いながらそれに続いた──
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