第202話 またまたダンジョン不動産
アルマームの街、いつもの迷宮横丁に、俺とリンスとポーズ、そしてデナトスが訪れていた。これで3度目の訪問か、煉瓦造りの二階建ての建物へと訪問する。
「こんにちわ・・・」
「いらっしゃいませ。あれ、お客さん。お久しぶりですね。今日はどうしたんですか」
ホビットのマッシュは、印象的なお客である紋次郎を覚えていた。
「ちょっと、新しいダンジョンを探してまして・・・」
「ほほう。今のダンジョンはどうするんですか」
「今のダンジョンは気に入ってますので、そのまま使用するつもりなんですけど、ちょっと所帯が大きくなってきたので、二軒目を探そうかと思って、ご相談に・・」
「なるほど・・それでお予算はいくらくらいをお考えですか」
「予算は五千万ゴルドで、できるだけ大きなダンジョンを探しています」
なるほど、なるほど、とブツブツ言いながら、マッシュは何やら資料をチョイスする。そこへ女主人のクローネがマッシュにそっと近づく。そして小声でこう話をする。
「おい。マッシュ。あれは前に来ていたカモのヒューマンじゃないか・・」
「はい。そうです、問題物件を悩むことなく買ってくれる優良な客人です」
「だよな」
そう言ってクローネは、物件の中から買って欲しい問題物件を選んでマッシュに渡す。
「ちょっ、クローネさん。さすがにこう問題物件ばっかりじゃ、不自然ですって・・これなんか10年売れてないやつですよ・・」
「いいんだよ。いいか、今までまともな物件を紹介してないんだから、ここで本当の優良物件なんか紹介してみろ、あれ、前まではなんだったんだろうって話になるだろうが。あの客には問題物件だけ紹介してればいいんだよ」
鬼だ・・この女狐、本当の鬼だ・・そう思ったが、主人には逆らえない。マッシュは、言われるままに、問題物件を紋次郎の元へ持って行く。
「お待たせしました。どうですか、お話しするより、直接、物件を見た方が良いと思いますので、お時間よろしければご案内しますけど」
「はい。是非見せてください」
最初に案内されたダンジョンは、塔タイプのダンジョンであった。それは丘の上に高く聳え、エラスラの塔に匹敵するほどの高さを誇っていた。総面積は今のダンジョンの10倍くらいあるらしい。
「高いですね・・・」
「はい。高いです」
「でも・・・狭いですね・・・」
「はい・・狭いです」
その塔は、すごく高いのだけど、1フロアーの面積が恐ろしく狭い。一応中に入ってみるけど、20畳くらいの広さしかない。階段も、縄梯子みたいなものだし・・さすがにこれは無理だろうと他のみんなも言ってくる。
「ここはパスで・・」
「はい。そうですよね・・」
次に案内された物件は、洞窟タイプのダンジョンであった。入り口は壁画で装飾されていて、中々良さそうな雰囲気を出していた。だが、その印象は中に入って激変した。
「明るいっすね・・・」
「はい。明るいです」
「いや・・明るいっていうより眩しくねえか」
「はい・・眩しいです。この洞窟には大量に剛光ゴケが自生していまして、昼間の10倍の明るさで、常に洞窟内を照らし出しています」
「パスで」
「はい。そうですよね・・」
さすがにこの眩しさは目を悪くしそうなので、早々にパスする。次に案内されたのは巨大な遺跡であった。
「すごい大きい遺跡ですね」
「はい。巨大遺跡ですから、大きさだけは自慢です」
「だけど、あれですね、屋根が全部崩れてますし、壁もボロボロで今にも崩れそうですね」
「さすがに古い遺跡ですので、もう老朽化が激しく・・・築年数が推定5000年ですから・・・」
「パスだこの野郎」
「はい。ですよね・・・」
さすがに今回の物件はひどいところばかりで、ポーズが担当さんに文句を言い始めた。
「おい。不動産屋、もうちょいまともな物件ないのかよ・・最高の掘り出し物をそろそろ出せよ」
「はい・・・では、今回用意した物件では最高の掘り出し物にご案内いたします」
「よっ、待ってました!」
それで案内された物件が・・とてつもない場所に存在した。まず、不動産屋の馬車で3時間、キュウレイ・ダンジョン群の東部にあるユルア山に到着。そこから徒歩で細い山道を3時間。垂直の崖を2時間かけて降りていき。そこからさらにトンネルを1時間かけて抜けて、垂直の壁を今度は4時間かけて登る。そこから険しい山道を2時間ほど登って行った先に、その物件はあった。
「すごい・・」
それは圧巻の巨大な城であった。大きさもそうだけど、しっかりとした作りの城で、城の裏にある庭園はよく整備されていて美しかった。
「上層部が5階層、地下が4階層の全9階層。1階層の広さだけで、今、紋次郎様が運営されていますダンジョンの三倍の広さになります。運営事務所も、城の最上部と、裏の庭園内、地下最深部と三か所、存在しまして、それぞれ秘密の通路で繋がっています。さらに地下と、庭園内には温泉があり、しかも地下の温泉場には、岩盤を利用した、岩盤浴なる施設も用意されています。そして気になるお値段ですが、本来は1億ゴルドの定価のところ、なんと! 五千万ゴルドで売り出し中です」
「買った!」
「決めんの早えよ主!」
「もう少し検討しませんか紋次郎様」
「そうだよ紋次郎、さすがにこの規模のダンジョンで、五千万は安すぎる・・いや一億でも安すぎるくらいだから、絶対に何かある」
デナトスの指摘は正解であった。ここからさらにマッシュの話が続いた。
「ここが安いのは、皆様もここまで来るので気がついたと思いますけど、場所が辺鄙すぎて、冒険者が来ないってところです。ユルア山は、キュレイ・ダンジョン群の一部ですから立地が悪いってことはないんですけどね・・」
それを聞いたリンスが、さらに険しい顔で問いただす。
「いや・・理由はそれだけじゃ、ないんじゃないですか。それを踏まえてもまだ安いすぎます」
「・・・・かないませんね。実はこの城・・・・」
ここでマッシュは言葉を止めて、俺たちの顔を一人一人丁寧に見ると、言葉を続ける。
「出るんですよ・・これが」
そう言ったマッシュの手が古典的な幽霊の姿を模写していた。
「え・・マジで・・・」
リンスとデナトスが青い顔をしてこっちを見ている。ここは辞めようと心で訴えているけど、そんなことで手放すのは惜しいほど、ここは良い物件に思えた。蓋を開けたらカリスの時みたいなこともあるしね。
「いや、幽霊は俺がなんとかする! 担当さん。ここ買います!」
リンスとデナトスは、恨めしそうにこちらを見つめていた。
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