第191話 凱旋

リネイの主城では、ユルダがブファメ軍の敗北の報を聞いていた。


「馬鹿な・・ブファメの軍はアースロッドのに負けただと・・ありえぬ・・そんなことはありえぬ・・」


「現実ですユルダ様・・ブファメ軍を打ち負かしたアースロッドの軍勢は、まっすぐこの城へ向かって進軍しております」


「す・・すぐに籠城の準備をしろ」

「我が方の兵は一万ほど、それに対して進軍してくる軍勢は10万との報告がございます。城の兵の中には、元々アースロッドを慕う兵を多くいますし、こちらが劣勢となると、離反する兵も少なくないでしょう」


「それではワシはどうすればい良いのじゃ」

「ブファメにでも亡命するしかないでしょう・・」

「それじゃ、すぐに逃げる準備をするのじゃ。宝物庫から宝をごっそり持って行くぞ。すぐに準備するのじゃ」

「いえ・・ユルダ様、もっと良い策がございます」

「ほほう。それはどんな策じゃイズム」

「こうするのですユルダ宰相・・」


イズムは抜いた剣でユルダの喉を貫いた。叫び声をあげる暇もなく、己の器には大きすぎる野望に、小物の宰相はその命まで差し出すことになった。

「お前の首を差し出して、俺だけでも許してもらう・・ユルダ・・悪く思うなよ」


こうして、ユルダ宰相による、リネイの謀反騒動は幕を閉じた。


城に凱旋したアースロッドに、イズム将軍は、喜び勇んで、ユルダの首を差し出した。


「喜びくださいアースロッド陛下、逆賊ユルダの首はこのイズムが打ち取ってございます。どうぞお確かめください」


「そうかイズム。それはご苦労であったな。しかし・・そのユルダの首だけでお前の罪が拭えると思ったのか?」

「な・・・何をおっしゃいますか、私はユルダに騙されていたにすぎません。元々陛下を裏切るようなことなど何もしておりません」


「そうかそうか、わしも優秀な将軍を失うのは気が引けていたのじゃ・・」

「それでは私は罪に問わないと・・・」

「馬鹿者! 貴様のどこが優秀な将軍じゃ! 謀反に加担するだけではなく、最後にはその謀反すら裏切るとは・・そんな者を誰が信用などできると言うのじゃ。お前はひいき目に見ても死罪じゃ! そやつを連れて行け!」

「ひひいひ・・・」


厳しい一面を見せる王を見て、紋次郎が声をかける。

「優しい王もたまには厳しい判決をするんだね」


そんな場面を見られたアースロッドは、少し照れながら、紋次郎に言う。

「今回の件でワシも多くを学んだ。厳しくしないといけないところは厳しくせぬとな」

「そうだ、紋次郎、今夜はパーティーをしようと思うのじゃが、参加してくれかの」

「お誘いありがとう。もちろん参加するよ」


紋次郎のその答えに、アースロッドは嬉しそうに頷く。

「そうじゃ、これを渡しておこう」


アースロッドはそう言って一枚の紙を手渡した。

「学者アルソネの紹介文じゃ。これがあれば、話を聞いてくれよう」

「ありがとう。アースロッド王・・」

「紋次郎・・もう王の呼び名はいらぬ。お主はワシの友じゃ、友として呼んでもらえるかの」

紋次郎はアースロッドの言葉に微笑むと、言葉を言い直した。

「わかったよ。アースロッド。」


その夜のパーティーは盛大を極めた。今回の戦いで亡くなった兵達の弔いの意味もあるようで、豪華絢爛の料理が並び、見たこともないような催し物が次々と披露された。


豪華な料理を食べながら、俺は仲間達と、今後の予定について話をしていた。


「明日、すぐに学者アルソネを訪ねにいこうと思ってる」

リリスが明日の予定を聞いてきたので、俺はすぐにそう答えた。

「そう。まあ、紋次郎ならそう言うと思ったわい。リンス達も修行中みたいだし、しばらく放置してても問題ないじゃろう」


「そうね、アズラヴィルが厳しく指導してると思いますわ」

「それで学者アルソネってどこにいやがるんだ?」

しれっとそう聞いてくるヴィジュラに、俺が控えめに答える。

「ロザン遺跡だよ。でもヴィジュラがどうしてそんなこと気にするんだ」


俺のその問いに、ヴィジュラは当たり前のようにこう答えた。

「そりゃ、俺も一緒に行くからに決まってるじゃねえか」

「そうなの?」

「俺はお前の家臣だぞ。当たり前のこと言うな」

「・・・」


まあ、いいんだけどね、この調子だとヴィジュラは、地上までついてきそうだ。


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