第190話 ブファメ軍の崩壊
「なんだあいつらは・・・」
クーフーリンは驚愕の声をあげる。多種多様な容姿の魔界の住人の中でも、目の前にいる奴らは、異形と呼べるほど、異質な存在であった。
「ズヴァシー族・・・」
ヴィジュラは短くそう言葉を発した。
「奴らがあの・・」
スカサハの言葉に、頷きながら答える。
「そうだ。邪神王に呪われた一族・・やばいな・・アースロッドを下がらせるか・・」
「その必要はないぞ」
「なっ、アースロッド! お前、もうこんな前に来たのか」
「うむ。紋次郎も一緒じゃ」
アースロッドにそう言われて前に出ると、俺はヴィジュラに話を聞いた。
「ヴィジュラ。彼らは何者だ?」
「ズヴァシーの呪われた一族だ。奴らは呪いによって常に激しい痛みを受けていると聞く。その痛みは、敵の血を浴びることによって弱まり、そのために奴らは常に敵を求めて彷徨っていると聞く」
一度敵の血を浴びて痛みが緩和されたズヴァシーの者は、血を求めて、味方すらその攻撃対象にしてしまうと言う。その為に、ブファメ軍は、安易にその力を使用することができなかった。
「来るぞ・・すぐに戦闘体制を・・・」
ズヴァシー族の動きを見て、アースロッドは静かにそう言った。
ウニョウニョと、どす黒い体をクネらせながら、ズヴァシーの一団は、リネイの精鋭部隊へ襲いかかる。血に飢えた狂った魔物である、そのまま接近を許せば、こちらにも相当な犠牲が出ると思われた。そこで動いたのがスフィルドであった。長い詠唱から、その場にいる者が誰もわからない謎の魔法を放った。それはフィールド魔法で範囲内の全ての動きを遅くして、その耐性を下げる効果のある魔法であった。それは敵も味方も影響を及ぼすものだったが、スフィルドが範囲に指定したのは、ズヴァシー族のいる場所だけであった。
「フィールド外からの攻撃も有効です。遠距離攻撃で殲滅してください」
スフィルドの言葉に、ある者は魔法で、ある者は弓や投げやりで攻撃を開始した。ズヴァシーはフィールドの制約に囚われ、ほんとんどその場から動くことができなかった。一方的に攻撃を受けて、どんどんその地へと崩れていった。接近を許せばかなり危ない相手だっただけに、スフィルドの機転は戦況を決定付けた。
ズヴァシーを殲滅すると、残るはブファメの本陣だけであった。五千ほどの部隊が守りを固めていたが、勢いのある紋次郎たちの攻撃を防ぐにはあまりにも少数であった。最初の攻撃で、本陣の防衛ラインは崩壊。組織的な反撃もできないままに、次々と殲滅されていった。
「本陣はもうダメです。アドモス司令、お逃げください」
「そ・・そうだな、私が倒れれば、ブファメ軍が崩壊してしまう。すぐに逃げ道を確保してくれ」
しかし、時すでに遅し。すぐそこまで、紋次郎たちが迫っていた。
「あそこに、敵大将がいます!」
その声に、紋次郎、アースロッド、ヴィジュラ、アテナが加速する。紋次郎たちの接近に気がついた敵の護衛が10人ほど、紋次郎たちの前に立ちはだかる。その護衛を、紋次郎が3人、ヴィジュラが3人、アテナが4人倒す。そしてアースロッドが敵の大将に斬りかかった。
アドモスは逃げようとした。戦闘ができないわけではなかったが、迫り来る敵は、間違いなく自分より戦闘力が高いように見えた。走り転げるように逃げ回る彼を、アースロッドは追いつめる。
大きな石につまずき、アドモスは転げ落ちる。そして次に体勢を立て直して立ち上がろうとした時、その目の前にはアースロッドが立っていた。アースロッドは大きく剣を振り上げると、勢いよくそれを振り下ろした。悲鳴をあげる暇もなく、アドモスは斬られる。
アドモス司令が倒された報は、瞬く間にブファメの軍勢に広がった。兵たちは勝ち目のない戦いに、散り散りに逃げていく。
勝利を確信したリネイの軍は、敗走するブファメ軍を追撃しなかった。これでしばらくは、ブファメは攻めてはこないであろう。それだけで今は十分であった。
「紋次郎、お主のおかげじゃ、礼を言うぞ」
「いや、アトラやヴィジュラの力だよ。礼を言うなら彼らに言ってあげて」
謙虚な男だ・・アースロッドは、強大な武勲をあげているこの者に、何をもって報いればいいか想像もできなかった。
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