第178話 王の救出
アースロッドの肩に、竜騎兵の槍の刃が触れる。傷の深さ以上に大袈裟に鮮血が飛ぶ。その一撃でバランスの崩したアースロッドに、竜騎兵の二人が集中して攻撃を仕掛けてくる。しかし、それを周りの近衛兵が黙って見ているわけもなく、アースロッドを守る為に、竜騎兵の前へ躍り出る。
近衛兵の一人は、アースロッドをかばって強引に無茶な体勢で竜騎兵に対したこともあり、最初の一撃で腕を切り飛ばされる。
「アースロッド様! 一度引いてください!」
悪い状況を見て、近衛兵の一人がそう叫ぶ。だが、アースロッドは、倒されていく部下達を見捨てることができなかった。
「まだだ! 竜騎兵のすべてを倒すまではここを動かん!」
そう言いながら突撃してきた竜騎兵の一人を斬り倒す。しかしそれで状況が良くなるわけでもなく、倒しても倒しても押し込んでくるブファメの竜騎兵の攻撃に、戦況は最悪の状態になっていった。
部下の近衛兵も数十人にまで減り、もはやアースロッドは引くこともできなくなっていた。
もはやここまでか・・
アースロッドが覚悟を決めたその時、由王宮の奥から攻撃魔法が打ち込まれた。強力なその攻撃は、由王宮の入り口を崩して塞ぐ。何が起こったか理解できないアースロッドは、すぐに由王宮の奥を見る。そこには見知らぬ男と女、それと我が国の兵と思われる者が立っていた。
「お主たちは何者だ?」
そう聞かれた紋次郎は簡潔に話しをする。それを聞いたアースロッドは何度もうなずいて話がわかったようである。
「そうかアトラの願いで私を助けに来てくれたのか、それはご苦労であった」
アースロッドと紋次郎が話しをしていると、近衛兵の隊長が走り寄ってくる。
「アースロッド様、崩れた入り口を竜騎兵どもが取り除き始めています。脱出するのならお急ぎよ!」
紋次郎は自分たちが入ってきた隠し通路へとアースロッドを案内する。近衛兵は残ってここで戦い、脱出の時間を稼ぐことを望んだが、アースロッドがそれを許さなかった。お前たちが残るなら私も残るとの言葉で、全員が脱出することになった。
由王宮の小さな部屋の暖炉の中に、隠された階段があった、そこは紋次郎たちがラブダジュラを倒して通ってきたもので、そこから邪神の神殿へと続く。スフィルド、紋次郎、アースロッドが進み、その後を飛兵隊長、近衛兵たちが続いた。全員が通ると、隠し階段を元に戻して痕跡を隠す。これで少しは時間が稼げるはずである。
階段を降りると長い通路に出た。そこを進むと、邪神の神殿の部屋の一つに続いていた。そこからさらに広い通路を使って進むと、ラブダジュラと戦った広いフロアーへと戻ってきた。
「由王宮の奥にこんな神殿があるとは私でも知らなかったぞ。どうして其方達知っておったのじゃ」
アースロッドの質問に、どう言って答えればいいのか困ったけど、俺はそのまま話をした。
「スフィルドの・・え・・と彼女の目がすごくいいから見えたんです」
それを聞いたアースロッドは、スフィルドを見て深く頷く。
「そうかそうか、こんなところまで見えるとはすごい女じゃのう」
懐が広いのか、何も考えてないのか、目がいいと説明しただけで納得したようだ。
神殿を抜けて、入ってきたのと同じ通路を進んで行く。問題もなく出口にと到着した。外では飛兵隊が待っている。それを見たアースロッドが声をかける。
「皆、すまない、私のために・・」
それを聞いた飛兵隊の兵達は、手を胸に当てて無言で敬礼する。
敵が追っていくることを考えるとゆっくりはしていられなかった。すぐに飛兵隊は、アースロッドと近衛兵たちを三人一組で抱きかかえ、空へと飛び立つ。紋次郎もスフィルドの手を取り飛び立つ。
そのまままっすぐドナウの街へと飛んでいくと、ユルダに発見される危険があった為、一行は遠回りをして向かうことになった。リネイの主城の西にあるクロネロ山という高い山を回り込むように飛行していくことになり、少し時間がかかってしまうが、安全を優先することになった。
しかし、その選択は予想だにしない事態を招いてしまった。
「なんだあの軍は・・・」
それは途轍もない数の敵の群れであった。靡いている旗を見ると、ブファメの軍勢のようである。どうやらクロネロ山の影に隠れて、リネイの主城に攻め込む隙を窺っていたようである。ユルダの反乱も攻め込む前の布石にすぎないか・・そう考えると、かの宰相も単にブファメに利用されているだけのようだ。
予想しなかった敵軍との遭遇であった為に、紋次郎たちはすぐに敵兵に存在を知られてしまった。大きな笛の音が鳴り響いて、敵の飛兵が飛び出してきていた。
「見つかってしまいましたね・・・」
「うわ・・どうしようか・・すごい数だ・・」
アースロッドと近衛兵を抱えている為に、飛兵隊はそんなに早く飛ぶことができない。間違いなく敵の方が早いと思われるので逃げきれそうにはなかった。困っていると、アースロッドが案を出してくる。
「クロネロ山の中腹へ向かってくれ。あそこには小さいが砦がある。そこに籠城しよう」
他に選択の余地はないように思えた。すぐに俺たちはクロネロ山へ向かって飛んでいく。
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