第177話 邪神の叫び

邪神はすぐに攻撃を繰り出してきた。紋次郎たちの周りの空間を埋め尽くすほどの無数の剣が出現する。その剣は不気味に赤く光、先ほどまで出現させていた剣とは雰囲気が変わっていた。


スフィルドはすぐにその剣の危険を察知していた。おそらく一斉に攻撃してくるであろうその剣の攻撃、まともに受けてはかなり危険なことになるのは予想できた。もちろん、それをまともに受けるつもりはない彼女はすぐに対応する。スフィルドが小さな声でなにやら呟くと、その体の周りに無数の光る点が無数に出現する。その点は少しずつその範囲を広げていき、一つ一つのその大きさも大きくなっていった。


スフィルドの発生させた光る点は遺跡内を埋め尽くすほどに広がっていく。それと同時に邪神は無数に浮かんでいる剣を展開し始める。ゆっくりと回転し始めた剣は、急激に加速して、紋次郎たちに襲いかかる。


その加速した剣の動きに合わせるようにスフィルドの光の点が動く。それは空中を漂う雪のように舞い、剣にまとわりついていく。そして剣を取り囲むとそれを粉々に破壊した。


次々と破壊されていく剣を見て、邪神が吠える。


「神鳥・・・・いまいましい奴め・・・だが・・本来の姿になった我が力をみるがいい」


邪神はそう言って両手を天に掲げる。邪神の頭上、そこには凄まじい量の魔力が集中し始めた。


スフィルドはラブダジュラの力を侮ってはいなかった。強大な邪神の力を思い通りに使われては厄介である。彼女は、自らが持つ神道の一つを発動した。


極・神皇鎖きょく・しんおうさ


邪神の周りに光る鎖が出現する。それはぐるぐると体に巻きつくと、強く光って消える。


神鳥に何かをされたのに気がついた邪神は、自らの体を見やる。しかし何も変わった感じはしなかった。


「紋次郎、今です。その剣で邪神を斬ってください」


それを聞いた紋次郎は剣を構えてすぐに動く。ターボを発動して、強く跳躍した紋次郎の体は弾丸のような勢いで邪神に迫る。


人にしては途轍もない威力の攻撃なのは、邪神もわかってはいた。だが、それでも今の自分を傷つけるにはまだまだ力不足だと判断していた。ラブダジュラはゆっくりと紋次郎のその攻撃を、六つある手の一つで弾き返そうとする。


紋次郎は近づいてくるラブダジュラの手を剣で弾き返す。紋次郎の剣を受けたラブダジュラの手は、風船のように破裂して吹き飛ぶ。邪神と言う存在の割にはあまりにも脆いその結果に、攻撃をした紋次郎も驚いていた。


腕を吹き飛ばされた邪神も何が起こったか理解できていなかった。吹き飛ばされた手を見つめて呆然としてしまう。それは時間的には一瞬のことであったが、紋次郎の一撃が、邪神の体に到達するには十分の時間であった。


一撃目の攻撃で邪神の体を大きく斬りつけた。傷口から緑色の血液がドロドロと流れ落ちる。紋次郎はすぐに二撃目を放つ。その攻撃は邪神の腕の二本を切り落とした。三撃目と四撃目で残りのすべての腕を切り落とす。


すべての腕を切り落とされた邪神は何が起こったのか理解できずに呆然としていた。いや、頭のどこかでは理解していたのかもしれない、だが、それが何を意味するのかを整理することができなくなっていた。この時、邪神の知性は、ゴブリンほどに低下していたのである。


スフィルドの使用したスキルは超絶効果の弱体技であった。すべての能力の99%を低下させる、最強と呼んでいいほどの効果を持つ神道である。いくら絶大な力を持つ邪神でも、その能力の100分の1の力では、今の紋次郎には手も足も出ないであろう。


紋次郎の最後の一撃は邪神の首を飛ばしていた。本来なら、首を飛ばされたくらいでは再生してしまうその再生力も低下しており、その存在はそのまま破滅へと進んでいった。


邪神のすべての力が無くなると、やがてその存在は砂となり消えていく。


敵を倒した後にも、簡単に倒せたその理由を理解していない紋次郎は、何か納得のいかない表情で、砂と消える邪神を見送る。


「邪神ってもっと強いと思ったけど、そうでもなかったね」

思わずそう言う紋次郎に、スフィルドは詳細を説明しなかった。代わりにこう言葉をかける。


「さぁ、急ぎましょう。王が待っていますよ」


その言葉を聞いて本来の目的を思い出した紋次郎は、先を急ぎ歩き始めた。

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