第128話 規格外

紋次郎が眠りから覚めたのは眠りについてから5時間ほど経過してからであった。あまりにすっきり起きたので、寝すぎたことにすぐに気がついた。


「やばい、ちょっと寝すぎた」

そう言って周りを見ると、無数のモンスターの死骸が転がっていた。最初は何が起こったか理解できなかったが、自分のそばで佇む巨大な岩の巨人を見て、忠実な僕による結果であることがわかった。


それにしてもこの数をゴン太だけで倒したんだ・・素直に自分の作成したゴーレムの性能に感心する。ゴレームの強さは、素材、術者の技能、触媒の質なので決まるのだが、紋次郎の作成したゴーレムは術者の技能の点で飛び抜けていた。ただ、紋次郎にゴーレム作成の才能があるわけではなく、ゴーレム作成の魔法は実際にはゴット級の剣が発動していて、それが強く影響していたのである。また、何気なく素材として使用した岩であったが、それは赤影岩と呼ばれるものであった。この岩は強固で高魔力の高品質の素材であり、強力なゴーレムを生んだ基盤となった。


「ゴン太、お前強いんだな」

紋次郎はゴーレムの足を触りながらそう呟いた。


紋次郎はすぐに出発しようと思ったが、このタイミングで食事を取ることにした。早速、火を起こして食事の準備をする。火の上に鍋を置くと、そこへ水を注ぐ。そして枝に刺したチーズを火にかける。干し肉をナイフで切り取ると鍋に入れていく。干しキノコを水で戻すと、それも鍋に入れる。ある程度鍋の食材に火が通ったところで、香辛料を少し入れて、さらに味噌のような発酵した豆の塊をひとかけら入れた。最後に、小袋に入っていた白い塊を取り出すと、それを幾つか手で分けて鍋に入れる。それは餅のような食材で、栄養価の高い保存食であった。


できた鍋の料理を器に装うと、それの上にとろけるチーズをのせた。それを紋次郎はフーフーしながら口に運ぶ。あるものを適当に調理したのだけど想像以上にうまい。和風リゾットのような感じであろうか、味噌の風味とチーズの香りが食欲をそそる。


食事を終えると、粉末の炭豆茶をお湯で溶かしたものを飲みながら一服する。ちょっとゆっくりしすぎかなとは思ったけど、休むときは休んだ方がいいだろうと、自己弁護して納得した。


体力も気力も十分回復した紋次郎は冒険を再開する。


広い見渡しの良いフロアーなので、すぐに5階層へ続く階段は見つかった。それは高く伸びる螺旋階段で、登っていくのに目が回りそうであった。階段の幅は大きく、ゴン太も十分に登ることができそうである。


紋次郎は、特に障害もなく5階層まで到着した。5階層は古い遺跡のような造りで、広いフロアーに、古くなった石の建物がいくつか並んでいた。上に行く階段を探して、その石の建物を一つずつ見ていく。ほとんどの建物の中は特に何もなかった。


突然シューーと何か風をきるような音が聞こえて来る。その音は一つではなかった。紋次郎の周りに無数に聞こえ始める。紋次郎は剣を抜いて構える。それは明らかに好意的な音には聞こえなかった。


最初の一匹が現れる。それは巨大なワニくらいの大きさの赤いサソリであった。サソリは尻尾を震えさせながら紋次郎に近づいてくる。すぐに攻撃しようと思ったが、最初のサソリの後ろから、信じられない量のサソリがわらわらと現れる。その数にちょっとビビっていると、他の方向からも次々とサソリの大群が押し寄せてきていた。すぐにゴン太に戦闘の命令を出す。ゴォオオと雄叫びをあげてゴン太はサソリの大群に突っ込んでいく。最初の一匹をパンチで叩き潰すと、二匹目の尻尾を掴んで振り回す。その巨体からは想像もできないような速さで動き、見た目の力強さそのままでサソリを捻り潰していく。


さすがに数が多いので、ゴン太にだけ任せるわけにはいかなかった。紋次郎も剣を振り回してサソリを撃退していく。おそらくかなりの硬度であろうそのサソリの甲羅をバターでも切るかのように切り裂くこの剣の攻撃力に、あらためて感心する。


レッドキングスコーピオン、推定レベル200の凶悪モンスターの大群も、屈強ゴーレムのゴン太と紋次郎の前には1時間ともたなかった。その古い遺跡にはサソリの死体が無数に転がり落ちた。


6階層への階段は、大きな石の建物の裏で見つかった。基本的にここの塔の階段を広く。巨体のゴン太も難なく登ることができた。心強い相棒がついてこれて、紋次郎は少し嬉しく思っていた。

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