第102話 ホビットの憂鬱

奥から聞こえる声に警戒しながら先に進んでいた。おそらく何かの魔物だと思うが、ポーズは自分に倒せないようなモノであればすぐに引き返すつもりであった。アビットを待機させて、ポーズは一人で先を見てくることにした。慎重に進んでいき、その姿を確認する。


それはネグロドラゴンと呼ばれる二首の地龍であった。レベルは100前後と高い。ポーズ一人では少し荷が重い相手であった。これは一度引き返して、誰かに手を貸してもらおうと考えていると、ポーズの横をアビットがすごい勢いで走り抜ける。


「バカヤロー! どこ行くんだ!!」

それに対してアビットは小さく呟く。

「見つけたの・・」


アビットはそのままネグロドラゴンの脇にまで走り近づいていく。ポーズはこのまま見殺しにもできないと思い、すぐに後を追いかける。


侵入者を見つけたネグロドラゴンは二本の首で、それを排除しようと行動に移る。リズミカルに首を交互に降ってアビットに向かってその牙で襲いかかる。最初の攻撃は運良く、アビットの走る後ろに降り下ろされた。しかし、次の攻撃の軌道は、アビットに向かってまっすぐ振り下ろされようとしていた。間一髪、そこへポーズが飛び込んできて彼女を抱きかかえ転がり避ける。アビットを抱えたポーズは、そのまま柱の陰へと逃げ込んだ。


「何やってんだ死にてーのか!!」

「でも・・見つけたの・・とても大事なもの・・」

「なんなんだそれは!」


ポーズがそう言うと、アビットはネグロドラゴンの頭の1つを指差した。そこをよく見ると、何かがその頭のツノの部分に引っかかっているのが見えた。


「あれがお前の目的の物なのか?」

アビットは黙って頷く。


「くっ・・・仕方ねぇえな、あれは俺が取ってきてやる。お前は俺がドラゴンの相手をしている間に、あの通路まで戻るんだ、いいな」

「わかりました」


ポーズはネグロドラゴンの前に躍り出る。石つぶてで注意を引くと、素早い動きで敵を惑わす。ネグロドラゴンはドシドシと重い足取りでポーズを追い回し、その牙で攻撃を繰り返した。


アビットはポーズに言われた通りに、その隙に入ってきた通路へと走り抜けようとする。その動きを見つけたネグロドラゴンは、アビットに向けて突進する。ポーズはアビットから注意を戻すために、懐に入れていた投げナイフで、ネグロドラゴンのその瞳を狙ってそれを投げつけた。投げナイフの一本が見事瞳に命中して、ネグロドラゴンは悶絶する。


暴れ回るネグロドラゴンの後ろに回ったポーズは、壁の出っ張りによじ登り、うまくその頭の上に飛び移った。そして角に引っかかっていた物を手に入れる。そのまま逃げようとしたのだが、ネグロドラゴンのもう1つの頭がそれを許さない。飛び降りようとするポーズに向かってその牙で引き裂こうと食らいついてくる。体をひねるようにそれを避けて、うまく地面に飛び降りる。ポーズは閃光玉を取り出し、それをネグロドラゴンの前に投げつけた。音と光で怯ませると、その隙に、ポーズもそこから離脱した。


通路のところでアビットが待っていた。彼女はポーズが無事に戻ると、ふてくされたような、すまなそうな顔で、彼に謝罪した。そんな素直な反応にポーズは怒る気も失せて、ネグロドラゴンの頭から取ってきた物を手渡した。


「ほらよ、こんな古いネクレッスがそんなに大事だったのか?」

アビットは今にも泣き出しそうな顔で頷く。

「これはお母さんの形見だから・・・」


話を聞くと、遺跡の上で遊んでいた時に、誤ってこのネクレッスを遺跡の裂け目に落としてしまったそうだ。それを取りに行きたいけど、遺跡の中は危険だと小さい頃から言われていて、一人では取りに行けないと思っていたそうだ。そこへポーズたちが宿泊してきて、冒険者だったら協力してくれるかもっと話しかけたという流れである。


「そんな大事なものちゃんと持ってろよな、もう落とすんじゃねえぞ」

泣き顔から笑顔になったアビットは深く頷く。


遺跡から戻ってきたポーズは、酒を調達すると屋上へ戻っていた。ゆっくり寝転び、その酒をチビチビやっていた。そこで大事なことを思い出した。そういえば遺跡の宝を何一つ取ってきていなかったのである。

「何しにいったんだ俺は・・」

そう呟くポーズの顔は、すがすがしい笑顔であった。





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