第98話 湖の街

大きな湖の真ん中に、1つの街がすっぽり入るほどの大きさの島が浮かんでいる。そこには陸地から大きな橋がかかっていて、その道を紋次郎の馬車は進んでいた。


「うわーすごいね。リュヴァちゃん、あれ見てよ、可愛いね」

メイルが指差したのは、湖で華麗に泳ぐオープルと呼ばれる動物で、丸いイルカのような生物だった。女性たちはそのオープルが水の上に高くジャンプする姿を見て、キャッキャッと騒いでる。そんな女性陣の姿を見て、ポーズが毒突く。

「けっ、丸いのが飛び回るだけで何が楽しいんだか、俺は早く宿に行って美味い飯と、冷たいエールで一杯やりたいがね」


それを聞いてたデナトスに、少し激しめに折檻されるポーズ。口は災いの元である。


長い橋を渡りきり、湖の真ん中にある島へと到着した。橋の終わりに検問所があり、そこで簡単な入場手続きを行う。まぁ、手続きのほとんどはリンスがやってくれたんだけどね。問題なく島の中に入る許可をもらって、俺たちは湖のリゾート島ムーンランベへと入場した。島の中央に商業施設が固まっていて、宿は湖に面している場所に点在していた。橋の逆側の海岸線に、大きくて綺麗な煉瓦造りの宿を見つけたので、俺たちはそこで部屋を取った。


男性陣は1部屋に押し込まれ、女性陣は2部屋に分かれた。しかし、この宿ではグワドンのような巨人は入場ができないそうで、離れにある巨人に対応した部屋で宿泊することになった。ちょっと可哀想だけど仕方ないか。


部屋に荷物を置いたら、早速出かけることになった。リンス、デナトス、アルティは島の中心の商業施設に買い物へ、荷物持ちとしてグワドンも連れて行かれることになった。ミュラーナたち他の女性メンバーは海岸の浜辺へひと泳ぎしに行くそうだ。これにはソォードも同行するらしいけど、明らかに目的が不純だと思われる。


ポーズとメタラギは宿のラウンジで一杯やるそうだ。昼間っからよく飲んでられると感心してしまう。


そして俺はというと、買い物にも海岸にも飲みにも誘われたが、たまには一人で散歩でもしようと思い、軽装でその辺をぶらつき始める。


強い日差しが照りつけ、湖で冷やされた涼しい風が心地よく吹き抜けていく。そんな気持ちのよい陽気の中、海岸線の歩道を歩いていると、宿から少し離れた場所に何やらは廃墟になった集落を見つけた。俺は少し気になったのでそこへ歩みを進める。


四、五件の家が朽ち果て放置されている。家の痛み具合から、かなりの期間放置されているように見える。何気なく俺はその中の1つの家に入っていた。ゴミのような物が散乱する中、汚れた人形を見つける。些細なことではあるけど、こういうものを見ると、昔ここでは誰かが生活をしていて、そこには子供がいて、そんな仲睦まじい親子は幸せに暮らしていたんじゃないかと想像してしまう。そして今のように、どうして廃墟になってしまったのかと疑問が湧いてきた。


そのまま集落の廃墟を歩いていると、周辺に複数の気配を感じる。紋次郎は今までの冒険で、達人レベルにまで感覚が研ぎ澄まされたことによって、周りの気配を感じるまでに成長していた・・わけではなく。ガタゴトと物音を立てたり、ヒソヒソと話し声が聞こえたりと周りの気配があからさまで、誰でも感じられるお粗末なものなだけであった。


紋次郎が集落の中心の広場に来たところで、気配の者たちが姿を現した。


「おいぃ! い・・・命が・・惜しかったら・・・か・・金を置いてけ!!」


少しビビり声で、そう声をかけてきた。紋次郎はゆっくりと振り返り、その盗賊を見る。そこに立っていたのは3歳から12歳くらいの少年少女が7人、みんなひどくやせ細っていて、みすぼらしい格好をしている。一番の年長であろう少年の手には小さなナイフが持たれていた。他の子たちは木の棒などを持って構えているが、足が震えている。


さすがの紋次郎でも、この襲撃者には恐ることもなく冷静であった。平然と歩いて近づき、震える少年の手からナイフを取り上げる。ナイフを取り上げられた少年はフラフラと尻餅をついて倒れて、大声で泣き出した。それを見ていた他の子供達もつられて泣き出す。


これは困ったぞ・・紋次郎は心の底からそう思っていた。









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