第83話 絶望の足音

攻略隊から何の連絡もないことに、ルイーナは少なからず苛立ちを見せはじめていた。

「状況の報告すらないとは・・何やってるのかしら」

「全滅してるのかもしれないな」

ベリヒトのその言葉に、少し考えると、何やら心が決まったようにルイーナは立ち上がる。

「これより、最終部隊を出撃させます」


最終部隊は英雄級5名を含める最強のパーティー構成になっていた。先頭を天眼のアゾルテが進み、その脇には超級冒険者の戦士が7名が固めていた。風切りのルダナと雷王ベリヒトが後衛隊を率いてその後に続く。最後尾には死鬼のルチャダと聖華ルイーナが控えていた。


ボス部屋の状況を確認して、ルイーナは驚きの声を上げる。

「本当に全滅してるとは・・」

奥に佇む2つの影を見て、さらに隠せぬ驚きがあった。

「どうやらあの2つがここのボスのようだな」

「あれにこれだけの冒険者が殺られたっていうの? 何か別の理由があるんじゃないの」


天眼のアゾルテは、周りの戦士とともに防御陣形で、じわりじわりとその2つの敵に近づく。アゾルテたち前衛の戦士たちは、決して油断していたわけではなかった。しかし、それは全く予想もしない早さで襲いかかってきた。強烈な音が破壊の調べを奏でる。防御体制でいる超級冒険者の戦士を、その攻撃は一撃で行動不能にまで陥れていた。


グワドンは消滅の咆哮で前衛の敵を殲滅したと確信していた。しかし、そこには誤算が一人混りこんでいた。ものすごいスピードでそれは近づいてくる。グワドンは武器のモーニングスターでその凄まじい斬撃を受けた。


「はははっ! たかがティタンの巨人が、このアゾルテの相手になると思ってるのか!」

ニャン太にパワーアップしてもらってなければ今の一撃でグワドンは真っ二つにされていただろう。しかし、攻撃を受けて確信した、今の自分であれば勝てない相手ではないと。


グワドンはモーニングスターを振り回し、力一杯、目の前の戦士に叩き込んだ。とんでもない威力にさすがのアゾルテも受けた剣ごと吹き飛ばされた。グワドンはそこを追撃してモーニングスターで攻撃しようとする。だが、その攻撃は、敵の後方からの攻撃で中断させられた。


グワドンに向かって、多数の矢と魔法の攻撃が襲いかかる。それを見たリュヴァは、無数に広がる光のブレスでそれらを撃墜する。


「アゾルテ! 油断するな! ただの巨人じゃないぞ」

「チッ、わかっている」


その戦況を見ていて、ルイーナは死鬼のルチャダに声をかけた。

「ルチャダ、そろそろあなたの出番のようですよ」

「ひひひっ・・いいのかい・・俺が殺ると必要以上に人が死ぬぞ」

「構わないわ、あれを倒せば終わりですから」


その部屋にいる者全てがその違和感に気がついた。部屋が変わったのである。それは大げさな言い例えではなく、本当に部屋が変化した。床や天井、壁に至るまで全てが漆黒の闇になる。


「おいおい、ルチャダの漆黒界かよ・・・、全員固まれ! 防御体制をとるんだ!」


ルチャダの得意とするのは特殊フィールドの生成であった。その中でも漆黒界と呼ばれるこのフィールドは、最強の攻撃性能と万能性を持ち合わせる驚異の世界であった。ただ、一つ難点があった、それは敵だけではなく、そのフィールド内に存在するすべての者に等しく死を振りまくということである。


床の闇がすべての者の足を捕えて動きを封じる。そして天井の闇が、無数の鋭い牙となって襲いかかる。


グワドンは戦いの前に紋次郎に声をかけられたのを思い出していた。それは幼いリュヴァのことを気遣い、彼女を守ってほしいとお願いされたことであった。紋次郎の言葉は、彼にとって最も優先されることであった。そう、それは自分の身などより大事なことであった。


グワドンは、リュヴァに向けられたすべての闇の牙を自分の体で受け止める。その牙は凄まじい貫通力で、グワドンのギガントメイルを簡単に貫通する。そして、その体に大きな穴を開ける。水風船が破裂したように鮮血がほとばしり、ものすごい量の血が流れ落ちる。グワドンはそのまま静かに膝を地面に落とした。


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