第60話 戦いのその後

ベリヒトたちを取り逃がしはしたが、全体絶命の危機を乗り越え、紋次郎は一息ついていた。そこへリンスが近づいてくる。


「紋次郎様・・あなたは本当にしょうがない人ですね・・心配させないでください・・」

「ごめん、リンス・・」


紋次郎の周りには他の仲間たちも集まってきて、紋次郎は、ミュラーナとリュヴァを紹介した。

「え〜と、紹介するよ、この子はリュヴァで、彼女はミュラーナだよ。二人がいたから、俺は無事でいられたんだ」

「あなた、魔波動のミュラーナじゃないの」

「え、デナトス知ってるの?」

「何言ってるのよ、英雄級の有名な冒険者よ」

「なんだミュラーナ、有名人だったのか、それならそうと早く言ってよね」

「あたいはそんなの気にしないからね、知名度で強くはならねえよ」

ミュラーナはぶっきらぼうにそう答える。


アルティが俺にしがみついているリュヴァを見て、話しかける。

「リュヴァちゃんだっけ、君はどこから来たの?」

「・・・・龍光宮・・・・」


リュヴァのそれを聞いた一同が驚きの声を上げる。

「それって龍神王の宮殿よね? あなた一体・・・」

「え〜と、今は人の姿をしているけど、リュヴァはドラゴンみたいだよ」

驚いている一同を見かねて、ニャン太が状況を説明してくれる。


「その子は多分、龍神王の娘さんだよ。気配がお父さんそっくりだよ」

「龍神王の娘!!」


それを聞いて皆一様に驚いている。なんだよその龍神王って、俺だけ知らないみたいなので聞いてみた。

「龍神王はすべての龍族を統べる龍の神さまですよ」

「へ〜そうなんだ」

「反応薄いですよ紋次郎様、龍の神様ですよ」

「だってニャン太だって神さまなんだろう? そんな珍しくないじゃん」

「いや・・僕は神族の末席にはいるけど、龍神王はその中核に存在する方だよ。僕とは比べようがないよ」


ま〜正直、神さまとかそんなのは俺にとってはどうでもよかった。ニャン太はニャン太だし、リュヴァはリュヴァだから。

「しかし、どうしてその龍神王の娘さんが、紋次郎と一緒にいるんですか?」

「懐かれた」

ソォードの問いに簡単に説明したのだが、納得はしていないようだ。


「それよりその子、龍光宮に帰さないと、龍神王が怒ったりしませんかね」

「う〜ん。どうだろう。龍王ルガールってのが龍神王様の意思がどうたらって言ってたな」

「紋次郎! あんた龍王と会ったの?」

驚いたようにデナトスが聞いてくるので、その時の状況を説明してみた。

「あなたバカなの紋次郎! 龍王のライトニングブレスを受けたなんて・・死にたいのですか!」

アスターシアを始め、皆ににすごく怒られた。言うんじゃなかったと後悔する。


「リュヴァは紋次郎と一緒がいい」


それが龍の姫君の心の内であった。おそらく、龍神王というのがどのような存在かはわからないけど、神さまというくらいである。その気になれば、簡単に連れ帰ることができるだろう。それをやらないってことは龍神王の意思は、リュヴァが俺の元にあることを望んでいるのかもしれない。それがどんな真意かは計り知れないが・・・


また、なぜかミュラーナも俺との同行を望んでいるみたいだ。


「ま〜あれだ、受けてた仕事もうやむやになったし、暇だからあたいも紋次郎についていくことにしたよ。よろしくね」

「ミュラーナ・・あなたほどの冒険者なら、いくらでも受け入れ先はあるでしょう? こんな貧乏なダンジョンマスターについていく必要はないです」

リンスはなぜかミュラーナの加入に否定的である。優秀な彼女なら、受け入れてもいいと思うけどね。


女心の直感だろうか、リンスは彼女に嫌な感じを抱いていた。紋次郎の近くに置いておいてはダメだと、強く思っている。


「貧乏なんてどうだっていいよ、紋次郎には一生返せないような借りができてるしな」

「大丈夫です。そんなの借りに思う必要ありません」

「いいんだよ、それがあたいの意思なんだから」

「こちらの意思としては必要ないです!」

「紋次郎はあたいを必要としている!」

「そんなのあなたが勝手に言っているだけでしょう!」

「紋次郎は嫌って言ってねーだろう!」

「紋次郎様!」「紋次郎!」「どーなんだ!!」


二人のハモった声に、マジでビビった俺は、返答に困る。なんとか絞り出すように答えを伝える。

「いや・・ま〜ミュラーナがうちに来たいって言うのなら、それを断る理由はないよ。これ以上人件費にお金をかけたくないっていうリンスの意見もわかるけどね」

「ほらみろエルフ!」

「私はハーフエルフです!」


それからしばらくブツブツとリンスの小言を聞くことになるけど、ミュラーナの加入が決まった。リュヴァ、ミュラーナと食い扶持が増えたので、これから稼がないといけないよね・・・





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