第53話 龍神王

龍神王ランヴェルグは憤っていた、我が眷属が大量に人間どもに虐殺されたからである。龍神の力を使えば、眷属たちを蘇生することは容易であったが、彼らが受けた痛み、苦しみを思うと、到底許せるものではなかった。


人間どもへの復讐の為に、龍神王は、八龍が一つルガールを呼んだ。それは龍神王の腹心の一人であった。強大な力を持つ龍王であり、人間どものとの戦いに慣れている一人である。


龍王ルガールは命を受けると、ただ一礼してその場を後にする。すぐに人間が同胞を虐殺している、アダータイの迷宮へと向かったのだ。龍神王のいる龍光宮からアダータイの迷宮へは、龍の道で繋がっていた。それは龍族だけが使える空間の道、ゲートのようなものであった。龍王ルガールは、光の扉が入り口になっている龍の道へと入っていく。しかし、それを見た幼き竜が、密かに自分についてきていることに気がついていなかった。


紋次郎は閃光丸改を振りかざす。前の閃光丸とは比べようにないくらいの、太く力強い、強化された光の閃光が、ドロドロと煮えたぎる、溶岩の巨人に直撃した。岩を削り取るような稲光が巨人を包み込み、その岩の体を削り取っていく。しかし、その一撃で巨人は倒れていない。紋次郎はさらに連続で閃光丸改を何度も振りぬく。光の閃光は流星群のように降り注ぎ、巨人に襲いかかる。一つの帯でも、凄まじい威力を秘めたその光が、いくつも巨人の体に打ち付けられる。巨人の体はクッキーを砕いたように見る見るうちにボロボロにされていく。


「紋次郎・・お前、すげー武器もってんな、ちょっとレベルに見合わない装備だぞ」

「いや・・うちの連中はみんな過保護だから・・俺には過ぎた装備を用意してくれるんだよ」

「そうか。まあ、なんにしろ、それなら少しは戦力になりそうだな」


紋次郎はミュラーナのその言葉に笑顔で答えた。


二人は洞窟を抜けて、広い渓谷のような場所へと出ていた。そこは龍の巣の東の端に当たる場所であった。ドラゴンの多く生息する地域であったが、ミュラーナは、ドラゴンより、英雄級の3人の存在の方を警戒していた。その為、普段は危険なはずのこのエリアの方が、安全だと判断したのである。


「紋次郎、この辺りはドラゴンが多くいるから気をつけて」

「そうなの? そんな場所にいて大丈夫?」

「まあ、あたいがいるから、通常のドラゴンくらいなら問題ない」


そんなミュラーナの言葉は心強いのだが、やはりドラゴンというネームバリューは紋次郎にとっては大きい。ファンタジーの強敵モンスターの定番だからな・・名前を聞くだけでビビってしまう。


渓谷を慎重に進んでいると、木々は生えている場所を見つけた、そこへ近づいてみると、迷宮内のオアシスだろうか、多くの緑とともに、テニスコートくらいの大きさの泉が湧き出ていた。木々に囲まれていて、周りから身を隠せそうなので、俺たちはそこでキャンプをすることにした。


ミュラーナは装備以外の荷物を紛失しており、何も持ち合わせがなかったが、紋次郎は食料などを多少所持していた。ソォードの鍋には劣るけど、三種類の干し肉を使った鍋を、ミュラーナに振る舞った。


「この鍋、美味えな〜、紋次郎、料理の才能あるぞ」

「うちにはもっと料理の上手い人間がいるから普段は出番がないんだけどね」

「これより美味えもん作るのか〜そいつはすげーな」

「ミュラーナも今度食べに来るといいよ、多分満足すると思うよ」

「はははっ、そりゃ〜楽しみだな」


和気藹々と食事を楽しんでいたのだが、ある気配で、ミュラーナの表情が一変する。横に置いていた双剣を構えると、その気配の方へと意識を向けた。木々の陰から何者かが姿を表す。それは小さな子供であった。歩くのもままならないほど幼い子供が、こちらをじっと見つめている。


「え・・子供? こんな所に?」

俺が不思議がっていると、険しい表情のミュラーナが一筋の汗をたらして、こう言ってきた。

「あれはただの子供じゃない・・なんだこの存在力は・・・」

ミュラーナはそんなことを言ってるけど、俺には普通の子供にしか見えない。よく見ると、鍋をじっと見ているように思える。もしかしてお腹空いてるんじゃないだろうか。俺は器に鍋の中身をよそって、それをその子に持って行ってあげた。


「お腹空いてるのかい? これ食べる?」

「紋次郎・・!」

そんな不用心な俺の行動に、ミュラーナは焦りの表情を見せる。しかし、その子は俺の持って来た食べ物に興味津々のようで、じっとその器を見つめていた。俺はそっと器を差し出し、その子に渡した。しばらく、それを見ているだけだったけど、恐る恐るスプーンでその中身をすくって、口に運んだ。するとその子の表情が一変する。明るく微笑んで、急ぐように手を動かし、すべてを食べ干した。

「まだあるよ、食べるかい?」

そう聞くと、静かに頷いた。


見た目では考えられないのだが、この子は鍋のほとんどを平らげた。結構な量を作ったはずなのだが・・・


「君はどこから来たんだい?」

食後に、干し果実にかじりついているその子に聞いてみた。そうするとその子は俺をじっと見つめ、こう言った。


「おうち・・・・」

「うんうん。そうだろうね、え〜と聞き方が悪かったね、そのおうちはどこにあるんだい?」

「あっち・・」

それは龍の巣の方角であった。しかし、紋次郎はそんなことは知らないので素直にこう提案する。

「それじゃ〜それ食べたら、お兄ちゃんが送って行ってあげるよ」

「ちょっと・・紋次郎、それは変だぞ、あっちは龍の巣の方角だ、それにその子は・・」

「でも、この子は困っていると思うから、悪い子に見えないしね」

そう言われるとミュラーナは何も言えなくなった。この子供から感じる気配は強大な力を持ったモンスターに似たものを感じているのだが・・・そんな不安も、紋次郎の素直な優しさが、打ち消してしまった。




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