第52話 戦女

気がつくと、下着姿で男とキスをしていた。アマゾネスということで誤解されがちだが、あたいは身持ちが固い。どんな男に言い寄られても今まで全く相手にしてこなかった。そう・・生娘なのである。それが今知らない男とキスをしている。その行為は超絶な恥ずかしさを生んでいた。どんどん顔の熱が高くなる。そしてその羞恥心が限界を迎え・・叫んでいた。


「キャーーーーーー!!」

自分でも信じられないような女の声で叫んでいた。そして本能的に、自分の双剣を手に取る。そしてその男にその剣を向ける。


「貴様・・・なんてことしてくれてんだ!」


「わ・・・・ちょっと誤解だって・・・」

「問答無用だ〜〜〜叩っ斬ってくれるわ〜〜〜!」

しかし、剣を振ろうとしたミュラーナは自分の体の変化に気がついた。傷口が痛くない・・・背中の矢傷も痛みがなくなり、動きがスムーズになっていたのだ。そこで初めて目の前の男が、倒れた自分を介抱してくれたのだと気がついた。ルダナの矢に塗られていた毒に侵されていた体も回復しているようだ。そうか・・ポーションを飲ませてくれていたのか・・・それに気がついたミュラーナは静かに剣を置く。


「すまね〜どうやら誤解していたようだ・・お前はあたいを助けてくれたんだな」

急激に変化したミュラーナの反応に、紋次郎は戸惑ていた。頬を赤く染めて、下着姿の女性を前に、少し照れながら返答する。

「え〜と、傷は痛む? どこか痛いところがあれば、まだポーションがあるから」

「もう、大丈夫だ、質の良いポーションを使ってくれたようだな」

「あの・・じゃ〜そろそろ服を・・脱がしておいてなんだけど・・」

「あ・・そうだな・・見苦しいよな」

「いや、見苦しいってことは・・全然ないよ、ただ、目のやり場に困る」


それを聞いたミュラーナ優しく微笑む。そして服を着ると、その上からブルーメタリックのライトアーマーを身につけた。

「あたいはミュラーナ、あんたの名は」

「俺は紋次郎、よろしくねミュラーナ」

「よろしくな、紋次郎」


どうやら紋次郎は自分のことを知らないようだ。大陸であたいの名を知らない者なんていないと思ってたけど・・案外知名度ね〜のかな。ミュラーナはそんな見当違いの自己評価をしていた。


「そういえば紋次郎、お前このダンジョンにソロできてるのか? それにしてはレベルが低そうだが」

「あ・・違うよ仲間とはぐれちゃったんだ、俺は元々迷宮主をやってるんだけど、ちょっと用事があって、ここのダンジョンに来ているだけなんだよ」


「ほほう、紋次郎は迷宮主なのか、ならばそれも納得だな」

「そう・・え〜と、そこでなんだけど、こんなところで一人でいるくらいだから、ミュラーナって強いよね? ここ危ないって聞いてるんで心細かったんだ、よかったらしばらく一緒にいていいかい?」


「ま〜命の恩人を放っておくわけにもいかねえだろう、仲間と合流するまで守ってやるよ」

「うわ〜本当助かるよ!ありがとう」

「だが・・ちょっとあたいも厄介ごとに巻き込まれていてな・・少し危険な目にあうかもしれないぜ」

「あ・・怪我してた理由がそれかい? まあ、それでも一人でいるより何倍もマシだと思うから」

「まあ、そうだな。それより紋次郎、お前の仲間はどの階層にいるんだ?」

「ちょっとわからないけど、はぐれたのは確か7階層だったと思う」

「そうか・・ここより上だな。というより、そこから一人でここまで来たのか?」

「いや・・実は宝箱を開けたら、一瞬でここにいたんだ」

「馬鹿な奴だな〜。トラップテレポートに引っかかったんだな。ここは10階層だぞ」

「そうなの? 確か俺たちの、今回の目的の階層が10階層だったと思う」

「それじゃ〜こっちに向かってる可能性があるな」

「たぶん・・いつも探しに来てくれるからね」

「いつも? いつもはぐれているのか?」

「ま・・度々・・」

「ははははっ、お前の仲間も苦労するな」


ミュラーナは豪快に笑いながらそう言うと紋次郎の背中を叩く。それは彼女にとっては軽い一撃だったが、紋次郎には息が止まるほどの衝撃だった。


その後、その場にいては危険だというミュラーナの意見に従い、二人はそのフロアーにあった穴の奥へと移動した。ダンジョン内で基本的に光などないはずだが、このフロアーは全体的に明るい。どういう仕組みかわからないけど、どうも壁や天井が光を照らしているようだ。しばらく穴の奥に進んでいると、ミュラーナの表情が変わる。

「紋次郎! 少し下がってな!」


そう言うと愛用の双剣を抜き放つ。彼女は何かの気配を感じたようだ。慎重にすり足で進み、何かの出現を待っているみたいだ。


「来る!」

そう言うと目の前の岩場がゆっくりと形を変えていく。それはグングンと伸びていき、まるで蛇のようにうねり近づいてくる。それはロックヴァイパーと呼ばれるモンスターであった。レベル110前後の強敵であり、並の上級冒険者パーティーでは倒せないほどの力を持っていた。しかし、そんな強敵を、ミュラーナは双剣の二振りで討ち滅ぼす。


「ミュラーナ、強いね! あんな強そうなモンスター一撃で倒しちゃったよ」

「まあ、正確には二撃だけどな。紋次郎の仲間はどうなんだ、強い奴はいるのか? あたいと比べてどんな感じなんだい」

「いるよ、みんな強いんだよ。リンスて仲間がいるんだけど、レベル127だからね、相当高レベルでしょう」

紋次郎がリンスのレベルの話をしたのは、正確にレベルを知っていたのはリンスだけだったって話である。この話を聞いてミュラーナは正直がっかりしていた。あの英雄級の3人と戦闘になる時、最悪、助力を頼めるかもしれないと期待していたからである。レベル127は確かに高レベルではあるが、英雄級相手では正直力不足である。せめて超級冒険者レベル140以上であれば・・・そう思わずにはいられなかった。




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