第40話 塔の秘密

次の日の調査は、豪勢な朝食をいただいた後に開始した。昨日は最上階しか調べなかったが、今日は全ての階層を念入りに調べていった。しかし、どの階層からも、特に変わったものは見つけることができなかった。


午後になり、リズーさんから、お昼の誘いがあり、お言葉にあまえていただくことになった。リズーさんは俺らにすごく気を使ってくれている。食事の用意もそうだけど、困ったことはないかと度々声をかけてくれる。その好意に対して、ポーズは何やら引っかかることがあるようだ。


「どうも胡散臭いな〜」

「何がだよ?」

「リズーのやつだよ、おかしくねーか、クエストを受注しただけの冒険者に対して、気を使いすぎなんだよ」

「それはリズーさんがいい人で、そうしてるだけじゃないのかな」

「何か後ろめたいことがあるとか・・・」


「デナトスまでそんなこと言って〜」

「紋次郎様、私も二人に同意見です。彼女は何かを知ってるんじゃないでしょうか」

「あんな美しい女性に、そんな裏があるようなことはないと思いますけどね〜」

ソォードの意見は無いに等しいと思われているのか、見事にスルーされる。しかしみんなの共通した意見として、リズーさんは何かを知っているがこちらに伝えてないことがあるんじゃないかと考えているようだ。


「俺、ちょっと聞いてくるよ」

そう言って、リズーさんの部屋へと向かおうとする。

「アホか主! そんなの素直に話すわけねーだろう」

「何の為に隠してるか考えたほうがいいわよ紋次郎」

「そうですね・・さすがに話してくれるとは思いません」


まー話してくれなくても、反応が何かのヒントになるかもしれないと、ダメ元で直接聞いてみることになった。しかし期待していた以上の効果があった。リズーさんは意外にあっさり秘密を教えてくれたのだ。


「申し訳ありません・・・隠すつもりはなかったのですが・・実は声の主には心当たりがあるんです・・」

「と、言いますと」

「あの塔の声はおそらく父の声です」

「そうなんですか?」

「はい・・間違い無いと思います・・」

「どうしてそう思うんだよ〜」

ポーズは無粋にそう聞く。


「私は娘です。声を聞けば父の声はわかります、それと・・父が死ぬ前に気になることを言っていまして・・・」

「気になること? それはどういう内容ですか」

「父はこう言いました。私が死んだらきっと塔に捉えられるだろうと・・」


そう話すリズーさんは悲しそうな表情をしている。おそらく思い出したく無い話なんだと思う。


「あなたのお父上はなぜそんなことを言ったんですか、もしかしてそれも心当たりがあるんじゃありませんか」

リンスのその質問に、リズーさんは心を決めたのか、静かに話し始めた。それは悲しい話であった。


実は5年前に、リズーさんの母親が黒獣病を発症してしまったそうだ。高名な魔法医師やヒーラーに相談したそうだけど、治る見込みはないと突き放されてしまった。日に日に理性を失っていく母親を、リズーさんと父親は必死に看病する。しかし、いつしか二人のことを認識することもできなくなっていた。食事を運んできたリズーさんに暴力を振るったり、暴れまくるようになる。そこでリズーさんの父親はご先祖がそうしたように、あの塔へ幽閉することを決めた。


「そう・・幽閉された母には会うこともできなくなった。母がどのように変貌しているかはわからなかったけど、やがて塔からはうめき声が聞こえるようになり、その声は人のものから獣の声へと変わっていた。そしてその獣の声すら聞こえてこなくなり。私は母の死を知ることになります」


その話に、俺らは無言の反応をする。言葉を失うとはこういうことなんだろう。かける言葉が見つからない。


「その後、父に異変が起こります。体調を崩し、妙な夢を見るようになりました」

「夢?」

「はい。それは塔にいる獣霊になった母に、苦しめられる夢です。それを毎晩見ることになり、衰弱した父はそのまま亡くなってしまったんです」


「お父さんが亡くなってから、あの声が聞こえるようになったんですね」

「そうです・・やはり父は死んでからあの塔に捉われているんだと思います。おそらくそれをおこなっているのは母じゃないかと・・・」


これがリズーさんが俺たちに後ろめたさを感じている理由であった。彼女は声の正体を知ってて、あんなクエストを発注していたのである。苦しむ父と母を解放して欲しいというのが彼女の本当の願いなんだろう。


「声の正体とかより、今はあの塔の謎を解かないと先に進まねーな」

「あれだけ調べて何もないのなら、おそらくには何もないのが正解だと思うわ」

「デナトス、それはどういう意味?」

「リズーさん。お父上がお母さんを塔に幽閉するとき、何か変わったことをしていませんでした? 例えば何か道具を使っていたとか」

「あ・・それなら理由はわかりませんが家宝の鏡を持って行っていました」

「それだ!」

「それですね・・・」


リンスやポーズたちはそれを聞いて謎が解けたようだ。俺にはちんぷんかんぷんだけどね。


家宝の鏡を借りた俺たちは再び塔へとやってきた。ポーズは塔の前に鏡を置いた。そしてその鏡を覗き込むと、そこには目の前にある塔とは少し違った別の塔が映ってるではないか。


「鏡に映ってるこの塔に声の原因があるはずです」

「それって・・」

「この塔は二重の構築構造になっているのよ。同じ場所に二つの塔を建造していて、一つは通常の空間に、もう一つは裏の空間に存在しているのよ」

「だから表の塔を調べたって何も出てこなかったなのね」


「よし! 調べようぜ裏の塔を」

「でも鏡の中だよ、どうやって調べるんだ?」

「こうやんだよ」

そう言ってポーズは鏡の中に足を踏み入れた。普通に通路のように、鏡を通って、もう一つの塔へと移動できた。


「そのまんまだ!」

こうして、俺たちは裏の塔に入り、中を調べることになった。ただ、全員で中に入って、問題が起こった時に困るかもしれないと、一人外に残ることになった。ここは一人でも一番臨機応変で動けるとの理由でリンスが残ることになった。


「じゃーリンス、何かあったらよろしく」

「紋次郎様、気をつけてください」


裏の塔の扉を開き、俺たちは中へと足を踏み入れた。そこは表の塔とは全く別で、なかなかハードな世界が広がっていた。







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