第39話 嘆きの塔
夕食は驚くほど豪華な食事が振る舞われた。ポーズはニコニコしながら、良い酒と良い食事を豪快に下品に食べる。
「ポーズ・・はしたないですよ、少しはソォードを見習ったらどうですか」
リンスの指摘通り、ソォードの食事風景は優雅である。もしかしたら家柄が良いのかな?
「ま〜ポーズさんに私の真似を求めるのは酷というものですよ」
「なんだと〜三流イケメン!」
「なぁ・・・イケメンは良いとして、なぜ三流ですか!」
確かに意味はわからないけど・・ポーズの表現は少し的を得てるような気がする。
「それより、リズーさん。あの塔は元々どういったものなんですか?」
デナトスの質問に、リズーは少し困ったような表情をしたが、ゆっくり話し始めた。
「それでは塔の歴史を少しお話ししましょう。塔ができたのは300年ほど前の時代でした・・
その当時、ミドラクドは大きな二つの名家に統治されていました。クワール家と当家、マルフル家です。この両家は仲が悪く、何かあるたびに対立しておりました。そんなある時、悲劇が両家を襲います、それは両家の跡取りである、ルテスとアヘルトが黒獣病という難病に侵されてしまったのです。その病気は現在の魔法医学でも治療できない難病で、当時では獣神の呪いと呼ばれて恐れられていました。その病気に侵された者は理性を失い、獣のような振る舞いをするのです。そしてやがて姿形も獣に近づき、獣のままに霊体へと変異してしまうのです。変異してしまったそれは獣霊と呼ばれ、凶悪な振る舞いで人々を危険にさらしました。
両家は、黒獣病に侵された二人をどうすべきは悩みます。殺すこともできず、治すこともできない・・そこで閉じ込めることにしたのですが、その場所に困りました。普通の牢屋では獣霊に変異してしまうとすぐに抜け出されてしまいます。そこで高名な大魔導士に依頼して、霊体を封印できる塔を作ったのです。それがあの嘆きの塔です」
「そして二人はその塔に幽閉されたのですね。獣霊になった今でもそこにいるんですか?」
「いえ・・今はいないと思います・・理由はわからないですけど、私が生まれた時にはあの塔には何者もいませんでした」
「それはどうしてわかるんですか?」
「一度あの塔に登ったことがあるんです。子供の時でしたけど、その時には何もいませんでした」
「そうですか・・」
食事が終わり、小休止した後に、3階の応接室にみんな集まった。それは例の塔の声を聞くためであった。
リズーの屋敷から塔までは100mほど離れている、この距離で、どれくらいの音量で聞こえてくるか疑問に思っていたが、それは思いの外大音量であった。
ウヒャ〜〜〜〜〜フヒャ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・
叫びとも悲鳴とも取れる何者かの声・・それは絶望か苦痛か、どっちにしろ良くない声には違いない、相当不気味なものであった。
「あまり毎晩聞きたい声じゃね〜な」
「確かにそうね、耳を塞ぎたくなるわ」
「ちょっと塔に行ってみようか?」
「今からかよ、勘弁してくれよ、俺はもう風呂に入っちまったんだよな」
「何言ってんの、声がする今調べた方が何か出てくるかもしれないでしょう」
「けっ、めんどくせ〜な」
めんどくさがるポーズを引っ張って、俺たちは嘆きの塔にやってきた。その塔は近くで見ると思いの外小さく、高さは30mほどだろうか、フロアーの大きさもバスケットコートくらいの大きさくらいしかない。塔の入り口は南京錠で鍵がされていたが、リズーに鍵を借りていたので、それで解除した。
塔の一階は仕切りのない、ワンフロアーになっていて、中央に上へ行く螺旋階段があった。それを使い、上層階へと上がっていく。最上階までの階層は全て同じような作りになっていて、何事もなく一番上の階へと到着した。
「何もないわね」
「何もないどころか、物音ひとつ聞こえないね・・声の発生源とまではいかなくても、何かあると思ったんだけど」
「けっ! そんな簡単に解けるんだったら誰も苦労してねーぜ」
最上階は何もない円形の部屋であった。そこには人の気配どころか、椅子ひとつ置かれていない無機質な空間になっていた。ポーズは壁と床をコツコツと叩きながら、何かないか調べ始める。
リンスはスカウトの魔法である痕跡探査を使用した。
「
この魔法は、一定空間の時間差異の歪みを調べることで、どんな些細な痕跡も見逃さない。何かあれば必ず見つけることができるのだが・・・
「痕跡が・・・何もありません・・・」
絶対探索など、リンスの優秀なスカウトの能力でも、痕跡すら見つけることができないって・・・
「デナトス、魔法感知はどう?」
「さっきから調べてるけど・・おかしいのよ・・確かに魔力は感じることができるんだけど、幽体を幽閉できるような障壁の魔力を感じられない」
「リズーの話に間違いがあるのかな?」
「どうでしょう・・どうもこの塔には別の秘密があるような気がします」
「よし。今日は帰ろーぜ〜、もう眠いしよ〜調査は明日だ」
「そうね、ムカつくけどポーズの意見に賛成だわ。今日の調査はこれくらいにしましょう」
「だね、まだ時間はあるし、じっくり調べよう」
こうして今日の調査は打ち切ることにした。まだ、何もわかっていないけど、多分大丈夫だよね・・少し心配な心はあるものの、明日の調査に期待したいと思う。
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