第18話 ダンジョンの風景

前衛と思われる重装備の戦士が二人、その後に長い槍を持つ槍兵の中衛が一人、魔法使い、プリーストといった後衛二人が続く。オーソドックスなパーティー編成の冒険者たち。彼らの前には複数の不死の兵たちが立ちふさがった。

「前からスケルトン5、ゾンビ3、右からスケルトン7、左にはゴーストが2・・やばい、数が多い・・」

「後ろからも湧いてきてるぞ! どうする? 一度引くか?」

「いや・・こっちにはプリーストもいる。なんとかなる!」

戦士二人が前にいるゾンビとスケルトンに斬りかかる、そのすぐ後ろから、槍兵が前衛二人を援護しながら、左右の敵を牽制する。その間に後衛の二人が魔法の詠唱に入った。

「ドゥーラ・ディーラ・エキセトリオン・・炎の力を我が前に・・」

「ルバティン・デイナデシン・アルメルア・・聖なる光よ、闇なるものを等しく滅せよ・・」

「ファイヤーボルト!」

「ホーリーウエーブ!」

出現した炎の玉がスケルトンとゾンビの数体をまとめて焼き尽くす。そして、聖なる光の波動が後方に出現していた敵を一掃した。


この冒険者の戦いを、紋次郎たちは事務所から魔法水晶で見守っていた。

「なかなかいいんじゃないかなこれは〜」

「そうですね。適正レベルでしょうか。しかし・・おそらくはこの先のボーンクラッシャーで、このパーティーは全滅するでしょうね」

「そうなの? それで適正なんだ」

「適正レベルの底辺ですね。これくらいの冒険者が、今うちのダンジョンでは一番の顧客になるんです」

「そんなもんなんだ・・」


そしてリンスの予想通り、このパーティーは中ボスのボーンクラッシャーに全滅させられた。善戦はしたが、魔法に比較的耐性がある、ボーンクラッシャーに決定打を与えることができず、一人、また一人と切り裂かれていった。


「こいつらもう少しで倒せそうだったのにな〜惜しかったな〜」

「そうだね〜でもこうして全滅してくれないと、うちが儲からないから」

「まーそうだけどよ、なんかあんな感じで惜しい戦闘してると、応援したくならね〜か?」

「もちろんなるよ、でもそれはそれだよ」

「意外に薄情だな主」

「ポーズも意外と優しいところあるね」

「うるせーよ」


冒険者の死体を事務所とダンジョンの中階にある、待機室に運んできた。ここでメイルが彼らを蘇生する。

「お兄ちゃ〜ん。お仕事お仕事〜」

「メイル。この人らの蘇生をお願い」

「了解だよ〜任せて」

メイルはそう言って、蘇生の準備に取り掛かった。まずはデナトスのエンチャントと同じように魔法陣を床に書いていく。そして死体を一体その真ん中に置いて、幾つかの触媒を魔法陣の中に置いていった。そして膝をついて祈りをするような格好になって、呪文を唱え始める。

「ラナーダ・クナーダ・エルル・ファイレーシア・・・生命力の神、アーシュアよ・・・汝の力にて、今この失われた命の灯火を照らしたまえ〜」

呪文の終わりとともに、淡い聖なる光が死体に降り注ぐ。そしてみるみるうちに死体の顔色が良くなっていく。こうやって一人ずつ蘇生し、全滅したパーティーを全て生き返らせた。


「こちらが請求額になります」

そう言ってリンスは冒険者のリーダーに請求書を渡す。請求書には25万ゴルドと書かれていた。すごく悲しい顔でそのお金を払い、彼らは去っていく。こういう光景を見ていると、少しかわいそうな気持ちになってしまう。まー彼らもそれは覚悟してダンジョンに挑戦しているのだから、仕方ない事なんだけどね。


「今月の冒険者の挑戦数が23パーティー、そのうちボーンクラッシャーを倒せたのは5パーティー。そしてそのままボスのグワドンを倒したパーティーは1パーティーのみですね。バランス的には悪くないですが、もう少し高レベルのパーティーの集客をあげたいですね」


月に一度の定例会、事務所に皆集まり、収支の報告や今後の方針なんかを話し合っていた。

「報酬のグレードを上げる?」

「今の報酬の総額が200万ゴルドくらいですから、このダンジョンの規模からすると、これ以上上げると収支が合わなくなりますね」

「宣伝とかってできないのかな?」

「宣伝と言いますと?」

「え〜と、うちのダンジョンはこんなのが売りですとか、こんな報酬を用意してますとかって情報を提供するんだよ」

「一応、ダンジョンギルドには最低限の情報は伝えていますけど・・・確かに顧客に直接呼びかけるってことはしていないですね」

「こんな感じにポスターを作って・・冒険者が集まる場所に貼らしてもらうんだ」


宣伝するって発想がみんな無かったようで、俺の提案を食い入るように聞いている。これならあまり予算をかけずに、集客をあげれると思う。

「冒険者が集まるっていや〜酒場だろう! そこにこいつを貼らしてもらおうぜ」

「いい考えだわ、早速、明日にでも街に行って、これを貼ってきましょう」


みんな、乗り気でポスターのデザインもあーだこうだ言い始めた。そんな楽しく会議をしている中で、リンスが思いつめたような表情で何やら考え事をしていた。

「どうしたリンス・・何か気になることでもあるの?」

「あっいえ・・ちょっと考え事をしてしまいました・・申し訳ありません」

「何か悩みがあるんな言ってくれよ」

「あ・・いえ・・何でもないんです。ご心配なさらずに」


表情からすると何でもないようにはとても見えなかった。俺は心配になり、定例会が終わった後に、彼女の部屋へと足を運んだ。


「リンス、ちょっといいかな」

「あっ・・はい。どうぞ」

そう言ってリンスは自室に招き入れてくれた。そういえば彼女の部屋に入るのは初めてだな。性格だろうか、あまり物がなく、あるのはベットと椅子と机のみで、机の上に着替えが何点か置かれているだけだった。


「リンス・・前にも言ったけど、俺はみんなを家族だと思ってるんだ。そんな家族の心配事を放ってはおけないんだよ。だから何かあるなら言って欲しい」

リンスはしばらくの沈黙の後に、意を決したように話し始める。


「紋次郎様・・・少しの間お暇をいただけませんでしょうか・・・」

力なくそう語る彼女に理由を聞いた。


「よかったら理由を聞かせて欲しいんだけど」

「探し物があるんです・・それを探しに行きたいんです・・」

「何を探すの?」

少し間を置いてそれを口にする。

「ブフの結晶石です・・」

「ブフの結晶石・・・それってメタラギの金属を買ったあの店の人が言っていた・・・」

「そうです・・私はそれを見つけて・・ダンジョンの報酬に加えて欲しいと思っています・・そして宣伝して・・奴らをおびき寄せたい!! これは完全に私的都合で言っています! 非難してもらっても構いません!・・私はこのダンジョンを・・紋次郎様を利用しようとしてるんです!!・・それでも私は・・・この思いを・・うっ・・」

リンスはしぼんでいく風船のように小さくなり、震え泣く。いつも冷静な彼女が、こんな感情的になるなんてよほどのことだろう・・・俺は優しく彼女の頭を撫でながら、諭すように話を聞いた。


話の内容は俺にとっては衝撃的なものだった・・冒険者狩り・・お姉さんの死・・その恨みを晴らすために今のリンスがあるということ・・・彼女はどんなに止めても、この復讐を止めることはないと理解した。

「リンス、君に暇はあげられない・・」

「紋次郎様・・・・」

「君にそんなに長期で休まれると、困っちゃうからね。だからみんなで探そう、新しいダンジョン報酬のブフの結晶石は」

「え! それではダンジョンはどうするんですか?」

「まー少し蓄えもできてるから、しばらく休んでも大丈夫だろう」

「そんな・・私の為に・・そんな迷惑は・・」

「家族の問題を解決するのに、迷惑だなんて思わない。みんなもそう思ってくれるよ」

「・・・・・私は・・うっ・・・うわっ〜ん」

リンスはまた泣き出した、意外に泣き虫だな・・そう思うと、いつもの彼女は、感情を抑え込んでいるのがよく分かる。辛い時も悲しい時もそれを噛み殺していたんだろう。


さて、せっかく宣伝用のポスターの話で盛り上がっていたけど、みんなには休業の話をしなければいけない。それとリンスの話とブフの結晶石探しの話を・・みんなどんな反応をするのだろうか・・・





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