第6話

食事が終わると、時計は19時を回っていた。


僕とオジさんとリッカさんの三人で、リビングに集まってる。


オジさんがゲームコントローラを握り、ゲームを淡々と進めていく。

僕は、流れる文字を読みながら、考えていた。


時折立ち上がり、小物を眺めたり、間取りを確認していく。何かを思いつけば、スマホでメモを取る。


オジさんは、エンディングの一覧だけ、圏内に車を走らせた時に保存しておいてくれていた。


オジさんの記憶からエンディングが大体どんな物であったかを説明してもらい、細部についてはゲーム機を使って再現していっているとこである。


四つのエンディングをクリアして、僕らは、今『宝探しルート』をプレイしている。


このルートでは、脅迫状が宝のヒントに代わり、ペンションの中で宝探しゲームが始まるという特殊なルートらしい。


もちろん、僕は、現実に宝探しルートを再現するつもりはなかった。時間があまりないため、三人は、高速で飛ばし読みをしている。


エンディングが近づいたところで僕は、ゲームに注意を払った。


[ ごだい『宝は、僕らが今立っている場所の上にあるよ。』

[ そういうと僕は、椅子を鳩時計の下に運び、鳩時計の中を覗き込んだ。

[ すると中には、神社のお守りのような袋が入っていた。


「オジさん、止めて。」


僕は、椅子を鳩時計の下に運び、ゲーム内の行動を再現した。


そこには、古びたロケットのペンダントがあった。

表面の鍍金は、ぼろぼろになり、錆びかかっている。

僕は、それを手にとって、元のソファに座った。


ロケットを開けると写っていたのは、『初代オーナー』と赤ん坊と赤ん坊のお母さんの写真だ。三人とも満面の笑顔で笑っている。


「かわいいぃいぃい!」

ソファの隣に座ったリッカさんが赤ん坊を見て、歓声を上げる。

オジさんも覗き込み、微笑んでいる。


僕は、写真を見て驚愕していたが、すぐに我に帰る。もう時間がない。


時計を見ると、23時半を回っている。


「リッカさん。」

僕はリッカさんの手を取って、真剣な眼差しを送り、語りかけるように話した。


「『初代オーナー』に会います。害になる事はしてこないと思いますが、リッカさんが怖いなら、オジさんの部屋で待ってて下さい。」


「怖くなくはないけど、怖いところにごだい一人で行かせるのは、もっと怖い。」

リッカさんの目には、強い意志が宿っている。


僕はリッカさんの手を握ったまま歩き出した。


「ゲームはもう不要です。場所を変えましょう。部屋に行きます。


オジさん、色々ありがとう。

ここからは、僕とリッカさんで向き合います。」


オジさんは、首を縦に強く振ると、黙って僕の肩を強く叩いた。


======================


僕は、リッカさんと二人きりで部屋に入り、僕のベッドに二人で腰をかけて並んだ。


「まず、このロケットペンダントの女性だけど。これ、今の僕のお母さん。」

僕は、そう言って、スマホを取り出し、母親の画像を表示させた。


「写真は、だいぶ若いけど、間違いない。」


「綺麗な人・・・

ごだいに兄弟はいないから・・・この赤ちゃんは、ごだいって事?

言われてみれば似てるかも・・・」


「うん、それも間違いないと思う。」

「そっか、だからこんなかわいいんだー!ほんと宝物見つかったね!」

「まって、そうすると、ごだい、この男の人は・・・」


「前も話したと思うけど、お母さんは、生みの父親は、僕が2歳の時に別れたって。

父親の顔写真を見せてくれた事はなかったけど、小さい時一度だけ母親の目を盗んで、父親の写真を探したことがあったんだ。


その事すら忘れてたけど、今思い出したんだ。確かに、同じ写真をその時に見た。


『初代オーナー』は、僕の生みの父という事で、ほぼ間違いない。」



僕は、空いた窓際の二人掛けのテーブルに目をやり、呼んだ。

「ですよね、お父さん。」


パチンと音がして、部屋の明かりが消える。

そして、中肉中背の中年、前オーナーにして、ペンダントの写真の男性がテーブル椅子に薄っすらと湧いた。


僕は、リッカさんの手を強く握り、一緒にソファから立ち上がって、『父』の方を向きなおす。


「お父さん、一応改めて紹介します。こちら、リッカさん。本名は、立花理香子さん。もう知っていると思うけど、彼女の事、すごく大事にしてます。

知り合ってからまだ一年だけど、ずっと大事にしてきました。」


「私も、ごだい、じゃない、大吾君の事、すごく大事にしてます。

うまく言えないけど、その、ずっと一緒に居たい、支えて行きたい。

一年ずっとそう想って来ました。」


『父』は、ただ頷いた。

きっと、喋れないのだろう。僕は、続けた。


「お父さんは、僕の事が心配なんだよね。

僕がまたお父さんみたいに自分が辛い時に、大事な人に、捨てられるんじゃないかって。こんな姿になってまで、僕を待つぐらいに。


だから、あんな夢を見せて、僕らを試そうとしたんでしょう?

娘の結婚にとりあえず反対して自ら試金石になろうとする父親みたいにさ。」


「でも、それは、うまく行ったんじゃないかな?


たった二日の事だけど、今後何があってもリッカさんと一緒に何でも乗り越えていける。そんな気がするんだ。

僕らは、恐怖に一緒に立ち向かった。そうだよね?お父さん。」


僕は、テーブルに近寄る。すると『父』も椅子から立ち上がった。


僕らは、どちらか先にというわけでもなく、抱き合い、僕は言葉を続けた。


「ここに居てくれれば、また会いにくる。

でも、もし辛いようなら・・・


先に行ってくれてもいいよ?

少し先にあっちいってさ、僕らやお母さんが来たら、案内してくれよな?」


はじめて『父』は、微笑を見せ、リッカさんの方を向く。


そして、ベッドに置いてあるペンダントが宙に浮き、ゆっくりとリッカさんの方へゆらゆらと浮遊していく。


リッカさんは、それに合わせて、手のひらを上向けてに腕を伸ばす。

手の真上まで来たところで、ペンダントはストンと重力に引っ張られ、リッカさんの手の中に落ちた。


それを見届けた『父』は、また安らかな微笑を見せた。


元々半透明だった『父』は、どんどん薄くなっていき、形を失っていく。

粒子が分解されるように、無数の虹色小さな粒となって、窓から出ていく。


僕らは、窓から体を乗り出して、いつまでも手を振って、天に昇る様を眺めていた。


雪と虹色は、交じり合い、重なり合って、幻想的な風景を創造していた。


「レインボーライトスノー・・・」

「とても、綺麗...」


僕らは、窓際で冷えた体を抱き寄せ合って、本名を囁く。


「理香子・・・」

「大吾・・・」



時計は、12時を示していたが、二人の夜はまだ終わらない。

体と唇を、強く優しく重ね合わせて・・・


                         完

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