第2話

「うおーい、朝食できてるよ、ごだい。」


突然の耳元で囁く声。


「ああ、びっくりした!」


横を向けば、赤いワンピースを着たリッカさんの顔が近くにあった。ベッド脇の時計を見ると、朝食の時間を五分ほど過ぎていた。


「着替えていく。先いってていいよ。サンキューな。」


「はいよん、先たべてるねぇー」

と言いながら手をひらひらさせて、リッカさんは部屋から出ていった。


着替え終わり、階段を降りると、食堂の方が何やら騒がしかった。


「いや、だから、私たちは、本当知らないんですよ!」

「とぼけちゃって、どうせやらせなんじゃ無いんですか〜?ツイッターでの企画に合わせての。」

そこには、オーナーに詰め寄るツヨの姿があった。


僕が降りると、黙ってオジさんが、テーブルの上の走り書きを指で指した。


そこには…


『こんや、じゅうにじ、だれかがしぬ』

そう書かれていた。


「まあまあ、ツヨくん。ペンション側のヤラセだとしたら、それはそれで良いじゃないか。カヨちゃんがだいぶびっくりしてるから、声を荒らげるのも分かるけど、無害なヤラセじゃないか。」

オジさんは、ツヨをなだめようと続ける。

「それより、ヤラセじゃない可能性の方が危ない。そうだろう?」


オジさんに説得されて、ツヨは渋々口を閉じる。


「オーナーさん、ここは、一応警察に連絡しましょう。」

オジさんに勧められるが、オーナーは俯いたまま、次の言葉に困っていた。


「お客様。実は…」


==============================


オーナーの話によると、この手のイタズラは、何十回と繰り返されてきており、警察も取り扱ってくれないそうだ。

今では、諦めて、逆にリビングのテレビで本ゲームをプレイして頂き、ゲームの世界観として理解して頂く方針でいる。


オジさんがそれを受け、提案する。


「そうですね。僕なんかは、原作を遊んでますからね。確かに、先の脅迫文を悪戯と受け取りやすい。よし、みんなでやりましょう。さすがに、帰ってきてからにしましょうかね。明るいうちに、野外活動しないと。」


僕らは、それに同意して、オジさんの車に乗り込んで、野外活動に繰り出した。


==============================


[【主人公の名前を入力してください】

[『ごだい』

[【ヒロインの名前を入力して下さい】」

[『リッカ』


コントローラを握っていたのツヨだ。ツヨは、カヨとだけコソコソ話すと、僕らの名前をゲーム開始の名前入力画面で入力した。


野外活動で、疲れ果てて寝た子供を他所に、僕ら五人は、20インチの小さなテレビの前にかじりついていた。


テレビには、丁度僕らが泊まっている風景が、ほぼそのまま映し出されている。


その感覚は奇妙な物で、画面の中に自分が吸い込まれているのか、画面の中の物がリアルに飛び出しているのか、分からないような錯覚を覚えるのだ。



そのちょっとした既視感は、ゲームを進めるに連れて、深刻な物になっていった。

それは、ゲーム内の『ごだい』と『リッカ』が部屋に入った時だ。


[ 「お風呂先どぞん。」

[ 覗き込んだ瞬間、リッカさんに譲られてしまった。

[ 「いや、リッカさんが淹れたんでしょ。先入んな?あ、僕は、後からシャワーにするから。」

[ 先入りなと言った瞬間、後に入る事を示唆してしまった事に気が付き、とっさに補足を加えた。

[ 「うーん、じゃあ、一緒に入っちゃおっか?」

[ 「あ、お、何馬鹿な事言ってんだ、さっさと入れ、あ、う、おばさん!」


という下りを読みながら、僕はドキリとした。リッカさんの方を見てみるが、彼女は興味津々な様子で画面に食いついていた。


そこまでは、まだドキっとしただけだったが、二人の場はリビングに移り・・・


[ 「リッカさんこそ、どうだった?今日。」今日の部分だけ、少しアクセントをつけて聞いた。

[ すると、僕の目をじっと見つめて言った。しっとりとした目だ。

[ 「良かった。今日。」


心臓が飛び出すかのように動機し、眩暈を感じていた。


「オジさん、これ、内容おかしいよね?」

辛うじて、オジさんがこのゲームをプレイ済みな事を思い出し、内容が改変されていないを尋ねる。


「いや、原作通りの展開だよ。」


馬鹿な。一語一句同じなんて、こんな偶然があるわけがない。

僕は、恐怖で膝が震えていた。


[ 「ん、十分。」

[ リッカさんは、微笑を見せて、少しだけ寂しそうに短くそう答えた。


やめてくれ…


「なあ、みんな、オカシイんだ。これ…」

何故か誰も反応しない。何かに取り憑かれたように、画面にかじりついている。


ゲームの中では、例の『こんや 12じ だれかがしぬ』の脅迫文のイベントが発生していた。


僕は、既に狂乱していた。

あらゆる手段でゲームを辞めさせようとしたが、みんなゲームを辞めない。


説得を諦め、電源を抜うとするが、オジさんが僕を羽交い締めにした。


「わ、分かった!ドッキリなんだろ!みんなでそうやって話を合わせて、驚かせようと。」


僕が泣こうが喚こうが、容赦なくゲームは、進展していく。

その間、登場人物は、次々と不可解な死を遂げていく。



死亡が確認できていない登場人物は、ついに『こだい』と『リッカ』だけになった。

恐怖のあまり、画面を見ないようにしていたが、ガタンとドアが開く音がテレビからして、見てしまった。


[ 自分の部屋のドアを開けた瞬間。

[ リッカ「キャハハ!みんなみんなみんな!」

[ なんと、般若の顔のリッカがスキーストックを突き出して、襲いかかってきた!

[ リッカ「みんな、しぬぅ!」


ゲームの画面で、スキーストックが画面に伸びるのが見えたと思ったら、スキーストックは、そのまま画面をすり抜け、胸めがけて伸びてきた!


ように見えた…


現実には、どこから出したのかスキーのストックを突き出すリッカさんが画面と僕の間に立っていた。


僕は・・・オジさんに羽交い締めにされたまま、胸をストックの先で貫かれていた。


「な、ナンデ…り、リッカさ・・・」


リッカさんとの思い出が脳裏を高速に流れていく。走馬灯というやつか…


遠ざかる意識の中、ポッポと鳴く壁時計の音を12回聴いた…

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