恐怖を恋えて

Dary@だりゅーん

第1話

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「オフ会を希望される三名から五名のグループ様に、当ペンションの宿泊優待券二泊分をプレゼント!リツイートして下さった方から抽選になります!」


僕は、リツイート抽選をなんでもリツイートしている。このペンションの優待券の抽選は、ツヨから回ってきた物だった。いつものように、何気なくリツイートしただけだった。


数日後、それが、なんと当選してしまった。

僕は、オフ会の参加者として、リツイートを回してくれたツヨとツヨの彼女のカヨは、参加確定として、他に一緒にネットで遊んでいる男女二人に声をかけた…


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数週間後、僕らを乗せたワゴン車は、田んぼが広がる田舎道を走り抜けていた。


車には、僕を含めた四人の若者と、一人の子供と、子供の父親にしてドライバーである中年のオジさんが乗っている。


宿泊先のペンションは、駅からかなり距離がある事を聞かされていたので、オジさんが車を出してくれる事になっていた。


オジさんによると、このペンションは、昔有名なノベルゲームの舞台になった事があるらしい。20年以上前のゲームなので、若者は世代交代しており、ゲーム自体は知名度を残すものの、その舞台となったペンションまでわざわざ足を運ぼうという若年層のファンは減っていったらしい。


そこで、ツイッターで過去の話題性を蘇らせて、客を増やそうという狙いだろうとオジさんは、やや興奮した口調で説明していた。


僕は、狭い車の中で、リッカさん・・・この一年間ネットで毎日のように一緒に遊んできた女性と隣合わせになっていた。男と女である事すら忘れ、旧友のように遊んできた仲だ。


しかし、いざ顔を合わせて、狭い車でいきなり肩を合わせると、僕は緊張を隠せなかった。


他の5人は、僕の緊張を他所に、ゲームの舞台となったペンションに関する話題、日頃やっているゲームを元ネタにした話で盛り上がり、車はペンションにたどり着いた。


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当選者である僕が先頭を歩き、ペンションのドアを開くと、カランカランとカウベルの音が鳴り響く。


「いらっしゃいませ、『靴下の中の人達』、ご一行様で宜しいでしょうか?」


奥からロングヘアーの中年の女性が丁寧に歓迎した。オジさんのゲーム原作の話によると、ペンションのオーナーの奥さんだろうか。靴や帽子を脱いだりしているうちに、オーナーと思われる中年男性も挨拶してくる。


ちなみに、『靴下の中の人達』というのは、僕らがゲームの中で最近名乗っているグループの名前だ。


僕は、名前と住所の記載欄のあるゲストブックを見て、少し凍りついていたが、オジさんが率先して名前と住所を書き始めた。


「ふーん、中村圭吾さんねー。改めて宜しくぅ!」


リッカさんは、オジさんの背中をパンと軽く背中を叩きながら、ゲストブックを覗き込み、軽いノリでオジさんの本名をこぼした。オジさんも、負けじとリッカさんの本名を読み上げた。


僕とリッカさんは、本名を以前教え合った事があったが、オジさんの本名は、知らなかった。ツヨもカヨもネット名で、本名を文字った物だった。


記名が済むと、チェックインの話になった。僕らは、二階の三部屋しか貸せないと聞かされた。いずれもツインルームである。


オジさんとオジさんの子供は同室である事は確定と考えていいだろうから、僕は提案した。


「残り二部屋ですが、男女で別れませんか?」

「はぁ?なにいっとんねん。俺とカヨが一緒なのは確定やろ?」


このままでは、僕とリッカさんが同室になってしまう。

助け舟を出して貰おうとオジさんに目をやる。


「四人で決めたらいいんじゃないかなー?しかし、同じ部屋と言ってもツインだしね。」

中立を装って、遠回しに、『カップル分け』に賛成票をいれてくる。


リッカさんは、うつむいて顔真っ赤にして、ぴくりとも動かないし、何も言わない。

完全に、パニくっている様だ。


結局、ああだこうだと言い含められて、僕は、リッカさんと同じ部屋になってしまった。



なってしまったと言っても、僕も年頃の男子。7つ上の大人の女性と同室で寝る事に、胸踊る気持ちがないわけではない。


とはいえ、リッカさんは、僕が一時恋心を持った相手である。これが過去形である事が、僕が単純に喜ぶ事ができない理由の一つとなっていた。


自身複雑な気持ちを抱えながらも、沈黙の状態異常を食らったリッカさんを連れて、階段を上がり、僕とリッカさんは、203号の部屋を開けた。


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中は、簡素ながらもかなり広い間取りが広がっていた。20畳ほどのスペースにシステムコンロと料理台とセミダブルのベットが二つ。窓の脇には、ラウンドテーブルがあり、テーブルを挟んでゆったりとした椅子が二つ置かれている。

また、寝室とは別に、バスルームがある。


所謂スイートルームクラスなんじゃないだろうか?と脳裏を過ぎる。


「うわ、お風呂も広い!」

バスルームのドアを開けて、リッカさんが、感嘆をあげる。

更衣スペースにトイレがあり、透明ガラスの敷居の奥に風呂があるタイプだ。


喜ぶリッカさんを見て、二人一緒に入れる大きさだなと思ったが、即座に、妄想を振り払うように、寝室に戻り、リッカさんから目をそむける。


目を背けた先は、寝室の窓。

窓は、横三メートルぐらいの大きな物だった。山の景色が見下ろせるようになっている。このペンションは、山の中でもちょっとした高台の上に立っていて、全ての客室の南側の窓から山景色が楽しめるらしい。


「景色もきれいー。ほら、あの辺まだ桜が咲いてる~。」

いつも男っぽい話し方のリッカさんだが、情緒ある風景を前にリラックスしたからか、どことなく声色が高く、女の子っぽい。


「うん、前評判に負けてないね。」

僕は、リアルな反応をするリッカさんを前にドキりとしていたが、景色も素直に綺麗だった。


「なんか、桜餅食べたくなっちゃった。」

「は、太るぞ?」

「想像していたより太ってないって事かな?」


僕は、窓の方を向きなおした。沈黙は、時として肯定を意味する。


僕らは、静寂の中、しばし同じ風景を楽しんでいたが、リッカさんが沈黙を破る。


「ねえ、ご飯何時だっけ?」

「えっと、六時半って言ってたかな?ひょっとしてもうお腹すいたの?」

「綺麗な景色見ると、お腹空くんだよね!花みると団子ってやつ?」 

「それ言うなら、花より団子でしょ?」

「それな!」


テヘペロをコンボで繋げてくるが、所謂女子力の高い類のテヘペロではない。

幾分かヤンキーなテヘペロであるのは、長い付き合いで聞き慣れていた。


車の中では、狭い席で隣り合い緊張してきていたが、ここにきて二人はいつものように笑い合い、ゲームで遊ぶ時と同じように流れる二人の間の空気を取り戻した事に、僕は安心感を覚えた。


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僕とリッカさんは、恋愛感情において、二回大きなすれ違いを経験している。


一回目は、僕がリッカさんを好きになったが、やんわりと拒絶された時。


二回目は、今。リッカさんは、逆に僕の事が好きなのだろうと感じている。

それが、すれ違いと呼ぶのは、現在進行中僕の中で、リッカさんに対する感情が微妙な状況だからである。と言うより、恋愛が面倒なものに感じていると言った方が正しいのかも知れない。


友達として一緒にゲラゲラ笑って遊んでいるだけで十分だし、振り回されたくも無かった。複雑な事になって欲しくない。シンプルでありたい。僕は、そう思っていた。


しかし、実際、会ってみると僕の気持ちはやや揺らいでいる事を否定出来なかった。

半分男みたいな存在なネット上のリッカさんだが、容姿も半分男…では無かった。絶世の美女とは、言えないものの、ネットでの印象とのギャップは大きかった。


身の回りにいる女子高生とは、違う大人の雰囲気を持っているし、車の中で隣に座ってみれば、良い香りもする。ようは、黙っていれば普通に女なのである。


このところそれが意識から外れかけていたが、今一度最認識させられた形となったわけである。



『トントン』

…ドアを叩く音だ。


「ごだいくんとリッカさんー?」

オジさんの声である。


「はい」

「はーい?」


ほぼ同時に僕らは返事した。


オジさんは、ドアを閉じたまま、声を張り上げて聞こえるように話す。


「あのー、これから晩御飯まで散歩しないかって話があるんだけど、お二人も行くかい?」


「あ、行きたいですー」

と答えたのは、リッカさんだった。


一テンポ遅れて、僕も付いていくことを伝えた。


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僕らは五人と子供が一人は、地平線に沈んでいく太陽を眺めていた。


オジさんの子供は、拾った棒で地面を穿り返したりして、遊んでいた。オジさんは、それと夕日を交互に眺めている。


カップルの二人は、女の子方が腕を絡めて、彼氏の肩に頭を乗せている。美男美女という事もあり、絵になるし、良い雰囲気である事は、嫌というほど伝わってくる。


僕は、リッカさんの方を見た。

リッカさんは、うっすらと涙を流していた。


僕は、それをじっと眺めていた。僕に見られているのは、気が付いているだろうが、リッカさんは、目を合わせる事をせず、逆に頑なに沈んでいく日を見ている。


気がつくとオジさんが隣にいた。

手にハンカチも持っていて、僕の胸ボケットにすっと突っ込んだ。


一瞬僕に目配せをしてきたので、僕も軽く頷いて返した。

リッカさんの方に寄って、オジさんのハンカチではなく、僕のハンカチをリッカさんに渡した。


一瞬驚いた様子だったが、顔に笑みが戻ると「ありがとう」と言って、涙を拭いた。


その時の仕草を見て、僕は、リッカさんが綺麗だと感じた。



「ねえ、そろそろご飯の時間だよね?お腹空いちゃったんだけど。」

日が沈みきると、オジさんの子供が言った。


とりわけ面白い事を言ったわけではないが、「だけど。」と言う言い方が、大人っぽく、ギャップがツボに入るのである。どっと笑いが起こった。


「そうだね、ペンションに帰ろうか。皆さん、足元気をつけてくださいねー」

オジさんが注意を促して、僕らは帰路についた。



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ペンションにつくと、香ばしい香りが立ち込めていた。

舞台となったゲームの中で、非常に食事が美味しいという設定になっていたので、ゲーム設定に負けないようにとペンションの主人が頑張って腕を上げたらしい。なんでも最近では、近場の大手ホテルからヘッドハンティングが来るほどとか。


四人がけまでのテーブルしかなかったので、ツヨカヨは二人で少し離れた小テーブルに座り、僕とリッカさんとオジさんと子供の四人で僕らは着席した。


「ねえ、オジさん。」

フランス料理屋で見るワインボトルに入ったミネラルウォーターとワイングラスが運ばれてきたと同時に、リッカさんが口を開いた。

「こんな素敵なところだと分かってれば、奥さんも誘ってあげれれば良かったんだけど、残念だね。」

「ああ、どうせ仕事で来れないし、子供を連れ出すだけでも楽になるしね。また今度別で穴埋めするさ。」

オジさんは、水をみんなのワイングラスに注ぎながら、答える。


それは、僕も少し気になっていた事だった。オジさんとは本当に良く遊んだから、是非オフ会で会いたいと思っていた。


しかし、二泊三日で外泊となれば、世帯持ちは参加しにくい。

ダメ元で聞いてみたのだが、即答で全力で予定を合わせると言ってくれた。


オジさんの言葉の端々から、僕とリッカさんをなんとかくっつけようとする意図は感じていた。なんでそんな事をするのかと聞いた事があるが、既婚者というのは、自分が好きな年頃の男女がいるとくっつけたがる物だと言っていた。


それをお節介だと感じた事もあったが、心のどこかで僕もリッカさんと進展する事を期待していたのだろうか。そういう期待に沿った形で、オジさんを誘う話で落ち着いたとも言えるかもしれない。


美味しいフレンチ風創作料理を前に、会話は弾んでいた。

楽しい時間が過ぎるのは早いもので、食後の紅茶が運ばれてきたのとほぼ同時に、ポッポポッポと時間を告げる壁時計が八回鳴き、ドーンと鐘の音が響いて、八時になった。


「あっ、そろそろ、子供を風呂に入れて、寝かさないと。」


「あ、はい、おやすみなさい!せーちゃんもおやすみ!せーちゃん、ちゅちゅ!」


オジさんの子供は、リッカさんに熱烈なチュチュされ、うちら(リッカさんとの)との別れを惜しむがオジさんに肩車されて、階段を上がって行く。


気が付いたら、ツヨカヨも居なくなっていた。おやすみも言わないで部屋に戻るというのは、まぁそういう気持ちの余裕もなく、ヒートアップしたのだろうかと、僕は考えた。


「ありゅ、ツヨカヨが居なくなってる。おやすみ言わないで立ち去るなんて、お邪魔虫しに行かれても文句言えないって事じゃんね?いっちゃう?ねえ、いっちゃう?」

リッカさんも同じような事を考えていたのだろうか。邪魔しにいく発想は無かったが。


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卒業旅行のノリを思い出し、僕は、不覚にも悪事に賛同を示してしまう。

僕ら二人は、彼らの部屋の前まで忍んだところで、これが卒業旅行では無いことを思い知らされる。


お邪魔虫二人は、目的地の前で、撃退される事になった。

ギシギシというベッドのスプリングがテンポよく聞こえてきてしまったのだ。


「さー、さーせんしたー!」

僕は、小声でリッカにだけ伝えると、二人は顔真っ赤にして、自室にゴソゴソと引き返していった。



部屋に戻ると風呂が沸いていた。リッカさんが食事の前にいれておいたのだろうか。


「お風呂先どぞん。」

覗き込んだ瞬間、リッカさんに譲られてしまった。


「いや、リッカさんが淹れたんでしょ。先入んな?あ、僕は、後からシャワーにするから。」


先入りなと言った瞬間、後に入る事を示唆してしまった事に気が付き、とっさに補足を加えた。


「うーん、じゃあ、一緒に入っちゃおっか?」


「あ、お、何馬鹿な事言ってんだ、さっさと入れ、あ、う、おばさん!」


いつもなら照れ隠し文句は、『ババア』と決まっていたのだが、さすがに目の前にいるリッカさんは、明らかババアに見えない。『ババア』を飲み込み、『おばさん』と一段階照れ隠しの暴言レベルを下げたのだ。


「はーいはーい、おばさんに昇格出来たし、先入るね。」

風呂場はちゃんと着替えるスペースが別にあるタイプなので、リッカさんは、寝間着ごと持ち込んで、風呂場に入っていく。


リッカさんは、敏感に僕の変化を拾ったようだ。


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僕は、ベッドに倒れ込み、天井を見上げた。

自分の気持ちを整理しようと試みる。

考えすぎかもしれないと思いつつも考えざるを得なかった。


このままなし崩しな展開は、良くないだろうし、リッカさんもそういう事を望んでいないのは、分かっていた。以前、オジさんが言っていた言葉が反芻される。


「あまり考えすぎる事はないし、急ぎ過ぎる事もない。相手を大切に想う気持ちがあれば、自ずと上手く行く。」


大切に想う気持ち…

その気持ちは、実感している。

リッカさんが楽しければ、自分も楽しい。リッカさんもそれは同じ。


それが友達としての物なのか、男女としての物なのか。それも、深く考え過ぎなくて良い、そういう事なのだろう…


色々な想いが、渦巻き暖かい物が心を満たしていく。

それは、自分が優しくなれそうな感覚だった。



まどろみはじめてきた時、トントンとドアを叩く音に続いて、リッカさんが尋ねる。

「あけていい?」

「いいよ。」

少し目をこすり、リッカさんの方に目をやると、パジャマ姿のリッカさんが、頭にタオルを巻いて、寝室に入ってきた。


「すごくいい湯だったよー?」

ニュアンス的に、入って欲しい感が伝わってくるのが感じ取れる。

「まあ、広いしね。」と、話を一般論化して、僕は誤魔化した。


風呂の準備を進めながら、ちらっと見ると、リッカさんは、ドライヤーをベッドの枕元の電源に差し込みながら、鼻歌を歌いながら微笑していた。


その様子が色っぽくて、僕は、そそくさと着替えを持って、逃げるように風呂場に駆け込んだ。


ドライヤーのガーと言う音がドアの向こうから聞こえる中、湿ったタオルを見つけた。恐らくは、体を洗うのに使ったものだろう。


それだけで、僕の想像力は、わきたてられたが、なんとか強制終了させ、服を脱ぎ、バスに浸かった。


「あっ!」

シャワーを浴びるはずだったのに、タオルに気を取られて忘れていた。

まぁ、もう入っちまったもんは、しょうがない… うん、しょうがない…


そのまま僕は、長湯に浸かっていた。なんとなく出にくかったのもあるし、気持ちの整理に時間を要していた。


ドライヤーの音も止んでしばらくが経った。

「よし!」と、なぜか心の中で掛け声をかけて僕は出た。


しかし、リッカさんのベッドの上には、誰もいなかった。天井の照明は消されていて、リッカさんのベッドの枕元照明だけが点灯していた。


スマホに連絡がないかを見るが、圏外だった事を思い出す。

ふと、昔読んだミステリー小説の展開を思い出し、不安に駆られた。


足がひとりでに動き、ドアノブをまわし、廊下に出た。

どこに行ったのだろうか?

とりあえず、階段を降りて、食堂に向かう。しかし、食堂は、真っ暗だった。



『ガチャ』

音に釣られて振り向けば、食堂脇のトイレから出てきたリッカさんの姿があった。

「なに〜、心配して探しにきてくれたんきゃ?ウレシイのぉ。」


「ああ、ごめんごめん。長湯しすぎたね。トイレも使えないからね。」

返答の論点がズレているが、考えてみれば当たり前である。僕は、本当に今日はオカシイ。何のことはないトイレに行っていたのだ。


「ねえ、ちょっとそこで、話してく?」

リッカさんが指指した先には、リビングのソファがあった。



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今日の出来事についての他愛のない話を僕らはした。

みんなの本名の事とか、オジさん思っていたよりイモだった事とか、せいちゃんの言動が可愛いこととか。


話が一段落したところで、リッカさんは不思議な質問をした。


「今日さ、どうだった?」


ずっと今日の話をしてたのに、どうだったとは、どういう事なのか?


少し頭を回転させ、きっとそれは、「リアルのわたし、どうだった?」と聞きたいんじゃないかと思い当たった。


何故なら僕も同じ事を聞きたいと思っていたから。

しかし、100%の確信があるわけではないので、僕は少しずるをした。


「リッカさんこそ、どうだった?今日。」今日の部分だけ、少しアクセントをつけて聞いた。


すると、僕の目をじっと見つめて言った。しっとりとした目だ。


「良かった。今日。」

安心した口調で、同じように今日にアクセントを付けて、リッカさんは答えた。


「僕も良かった、今日。」

と喉まで出かけたが、出た言葉は。

「悪くなかった。」

だった。


「ん、十分。」

リッカさんは、微笑を見せて、少しだけ寂しそうに短くそう答えた。


それからして、僕らは部屋に戻り、眠りについた。


きっと、あの時、良かったと答えたら、大きく関係が進んでいた気がしたが、不思議と僕は後悔はしていなかった。

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