4:皆が寝たら家捜しした方がいいかもしれないな。

 みんなで広い居間に移動。


 テーブルの上に並べて席に着く。


「おーし全員座ったな。ところで聞きたいことがあるんだが。食べる前にそっちの国ではなんかしてたか?例えばお祈りとか」


 向かいに座っているシーラさんに聞いてみる。

「いえ、特には……。皆が席についたらその席で一番位の高い人の合図で始めますね」

「ふむ。ミラちゃんは?」


 右斜め前に座っているミラちゃんに聞いてみる。


「平民では神様にお祈りします」

「なるほどねぇ。この世界でも色々と食べる前にする国もあればしない国もあるんだが、俺達がいるこの国では、食べる前に、手を合わせて、いただきますと言うんだ」

「いただきます、ですか?」

「どういういみだすか?」


 ミラちゃんの向かいに座ってるクラちゃんが聞いてくる。


「まずいただきますという言葉は、いただくという言葉にますという言葉はを付けた言葉だ。いただくの語源は諸説あるが、位の高い人から物を貰う時に一度頭の上、つまり頭の頂にかかげることから、貰うことを謙譲語でいただくと言うようになったと言われている。謙譲語はわかる?」

「わかります。我が国でも敬語は習いますから」

「それは良かった。それで食べる前にいただきますというのか。それは、感謝の心を持って食べなくてはならないという教えからきている。まず、食材に感謝を。例えばこの炒飯の豚肉は食べるために豚を殺して加工してここに出てきてます。俺達の血肉になるために。その豚の命を貰って俺達は生きていくんだ」


 四人共、目の前の自分の夕飯を見つめ始めた。


「次にさっき言った加工。加工、それに調理するには何が必要でしょうか。はい、テレジアさん!」

「わ、私か?!えーと……あ、人だ!」

「そう、人だ。その人はこれを作るために努力し、自分の時間を俺たちのために使ってくれているんだ。だからそのことにも感謝を」


 俺は両手を合わせて、皆を見渡す。


「全員そのことを頭において、俺の真似をして!」


 全員、俺と同じように手を合わせる。


「では皆さん、ご唱和ください。いただきます!」

「「「「「いただきます!」」」」


 こうして、異世界人にとって初めての地球での食事が始まった。



「う、うんまいなぁ……エグっエグっ」

「おいひいでふぅ……グズン」

「美味しい……」

「なんという……冷凍食品……これほど……」


 うーん、冷凍炒飯、冷凍餃子、冷凍ピラフ、冷凍焼きそばと冷凍食品オンパレードでここまで喜ばれるか。

 クラちゃんとミラちゃんなんか号泣しながら食べてるよ。


「あら、美味しい。冷凍唐揚げ舐めてたわ」


 三之宮さん、あなたもか。

 半分ほど食べたところで、飲み物がないことに気づいた。

 俺は席を立ってキッチンに行き、冷蔵庫から牛乳とコップを六つお盆に載せて、振り返ると三之宮さんが立っていて怖いよ!!


「私が持ってくわ」

「いや、いいよ」

「私が持ってくわ」

「いやだからいいって」

「私が持ってくわ」

「…………」

「私が持ってくわ」


 ニコニコしている三之宮さんにお盆を渡すと、そのままくるっと回って居間に帰っていった。

 おかしいなぁ。

 俺の知ってる三之宮さんはいつもニコニコしていて、誰にでも優しくて、困ってる人がいたら嫌な顔一つせず助け……あれ?何もおかしくはないのか?あれ?


 居間に戻ると、四人はまたもや驚愕していた。


「あ!中村!この牛の乳はなんだ!何故こんなにも冷えているんだ!」

「冷蔵庫って道具に入れておくと冷えるんだよ」

「冷蔵庫……確か先程冷凍庫とおっしゃってましたが、何が違うのですか?」

「冷蔵庫は冷やす道具で、冷凍庫ら凍らせる道具です」

「うめぇなぁ」

「美味しいですぅ」


 喜んでもらえて何よりだ。

 俺も飲も。

 やっぱ牛乳うめぇなぁ。


 身長が伸びなくて悩んだ末、牛乳を飲み続けて約五年。

 ほっとんど伸びなかったなぁ……。

 後で知ったけど牛乳飲んだら背が伸びるって都市伝説だったよ。

 寧ろ伸びにくくなるとさえ言われたよ。

 まあ習慣になってて今更飲むのやめる気は無いけど。

 美味いし。


 そんなこんなで全員で夕飯を食べました。


「よーし、全員食べ終わったな」

「はい。あ、もしかして、食べ終わった後にも何か作法があるのですか?」

「その通り。シーラさん、頭いいね」

「それほどでもぉ」


 おー照れてる。

 可愛い。

 三之宮さん足踏んでるよわざとだよな。


「食べる前にはいただきます。そして食べ終わった後はごちそうさまと言います」

「ごちそうさま?どういう意味があるんだ?」

「漢字で書くと分かりやすいんだけど、ごちそうさまの中にあるちそうって言葉は、元々は馬で走り回るとかそういった意味があるんだ。その言葉が日本に入ってきた時に、誰かの世話をしたりする際、走り回ることがままあったことから、ちそうには世話をするという意味が生まれたんだ。そこからさらに派生して、誰かの為に心を込めて走り回って食事などの用意をしてくれることに、やはり感謝の意を込めて、ただありがとうというのではなく、ごちそうさまと言うようになった、と言われています」

「えーと……つまり感謝の気持ちを表す言葉なんだな?」


 テレジアさんが聞いてくる。


「その通り」

「何だかこの国は感謝の気持ちを持ってなんにでも接する国なのですね。素晴らしいとは思うのですが、なんだか私の常識からは少し珍しく思います」

「そうだな。この世界の中でもかなり稀な国だぞ。日本ほど感謝の国は無いと思う」


 実際、アメリカやらなんやらから見たら、なんでこんなに頭下げてんの?って思われることも多いらしい。


「ま、とにかくこの国にいるんだからしっかりその辺の常識を覚えておいて貰わないとな。では皆さん手を合わせて!」


 皆が同じように手を合わせる。


「はい、皆さんご唱和ください!ごちそうさまでした!」

「「「「「ごちそうさまでした!」」」」」



「おーし全員、皿を重ねろー」

「な、中村!シーラ様にも片付けをさせるつもりなのか?」


 テレジアさんが睨んできた。

 まあ気持ちはわからんでもないが。


「ここは日本だ。お前らの身分は関係ない。ここで住むなら自分でやれることは自分でやってもらうからな。もちろん掃除もだ」

「そ、掃除だと?!」

「お前もだからな」

「へ?」


 いやなんでへ?なんだよ。


「お前も掃除するの。もちろん洗濯も。洗い物も。この五人でローテーションだからな」

「ろて?なんですかそれは?」

「交代でやるってこと。今日は俺がやるけど、ちゃんと見て覚えて、明日からやってもらうからな」

「飛鳥くん飛鳥くん」

「なんだい三之宮さん」

「私もいるから六人だよ」

「…………そうだ、六人でローテーションだからな」


 やっぱ住むんだ。

 親御さんに連絡取らせてもらえないかな。

 駄目?そうですか……。



 *****



「はーい全員ちゅーうもーく」


 シーラさんが冷蔵庫に吸い寄せられていたので、手を叩いて呼ぶ。


「洗い方だが、まずこの蛇口を上に上げます」


 水が出る。

 またすぐに下げる。


「今はもうすぐ夏なので気にしなくていいけど、冬場はこのままじゃ寒いので、この蛇口を左側に捻ってからまた上げて、ちょっと置くと……ほい、クラちゃん手を出してみて」

「はわっ!温かいだよ!」

「お湯が出ます。冷たいのが苦手ならお湯を出して使ってくれ」


 多分四人共お湯を使うだろうなぁ。


「じゃ次、水、もしくはお湯で食べたものを軽くすすぎます。もし食べ残しや大きい物……例えば貝殻とかはこの三角コーナーと言うところに入れるように」

「貝殻……ああ貝殻ですね!」


 よかった……貝殻通じた……。


「あ、ちなみに食べ残しって言ったけど、よっぽどじゃなければ残したら許さん」

「わ、わかったぞ!感謝の気持ちだな!」

「そういうこと。じゃ次、ある程度すすいだら、このスポンジに水を染み込ませてから一旦蛇口を下げてください。出っぱなしは勿体無いからな。さっきの食べ残しは駄目ってのは勿体無いってのもある。勿体無いことをすると勿体無いお化けが出て食われるから気をつけるように」

「勿体無いお化け……ま、魔物か何か……です……か?」


 ミラちゃん涙目。


「魔物よりも質の悪いこわーいモノだ、ま、勿体無い事をしなければ問題ないぞ」


 ミラちゃんどころかみんなビビってるな。


「わ、私がシーラ様をお、おまおままお守りいたたします」

「え?あ、はい、ありがとう、ございます」

「勿体無いお化けだすか……。ちょっと見てみたい気もするだよ」

「えー?!クラさん食べられちゃうんですよ!」


 …………テレジアさんビビりすぎ。

 おい三之宮さん笑うな。

 今時勿体無いお化け?いいだろ別に。


「はいはい、次!今度は濡れたスポンジを軽く絞ってこの洗剤をかけます」

「洗剤とはなんですか?」

「水だけでは落ちない汚れを落とすものです。見ててね」


 スポンジをクシュクシュ。


「「「「おおおおおーーー」」」」


 ナイスリアクションありがとう。


「こんな風に泡が出ます。そしてこのままこの皿を洗います。あんまり力を込めると皿は割れるし、泡は滑るので手から落ちてシンクに落とせばやっぱり割れます。その辺は各々やって加減を覚えてください」

「なんかいい香りがするな。甘酸っぱいような……」

「この洗剤の香りだな」


 オレンジの香りだから。


「ということは、食べられるだか?」

「何がということなのかは分からんが、食べらないからな」


 クラちゃんはシュンとなった。

 あとでお菓子でもあげようか。


「はい、全部をこのスポンジで洗ったら、また蛇口を上げて水を出します。これで泡をすすいだら、こっちにあるカゴに置いてください。この時、こういう平たい皿は立てておくように」


 俺はすすいだ平皿をカゴにたてかけていく。


「それでコップはすすいだ後、ひっくり返して入れてください。その後、スポンジを軽くすすいで、シンクの上の小さいカゴに入れて、蛇口を上げれば終わりです」


 すると三之宮さんが手を上げてきた。

 なぜ今更挙手?


「はい、三之宮さんなんですか?」

「前から思ってたけど、洗った物を自然乾燥は良くないんじゃないかしら」


 皆が寝たら家捜しした方がいいかもしれないな。


「まあそう言う人もいるけど、ほら俺一人暮らしだったから。その辺は適当なんだよ」

「ふーん……まあいいわ」



 さて、洗い物も終わったことだし……次は歯磨き……なんだが……歯ブラシ無……え?ある?三之宮さんありがとう。



 やはり歯ブラシにも感動したり、歯磨き粉をクラちゃんが飲み込んだりとてんやわんやしたが、なんとか歯磨きタイムも終わった。

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