3:ピッという音にビックリしていた。

 先程の風呂とドライヤー談義に花を咲かせる異世界勢と三之宮さんを連れて居間に移動。


 俺は冷凍庫から大量の冷凍食品と棚においてあるカップ麺を持って居間に戻ってきた。



「さあ、好きな物を選ばせてあげよう。これはとっても便利かつ非常に美味なこの世界の食品、その名も『冷凍食品』と『カップラーメン』だ」


 四人はそれぞれ持ち上げたりつついたりコンコンっと拳で軽く叩いたりしている。


「凍っている物が食べられるのですか?!というか何故このように凍っているのですか?!」

「これはある機械を使って温めて食べます。冷凍庫という道具があってそれで凍らせてます」

「これはどのように食べるのだ?」

「蓋を開けてお湯を入れて食べます」

「「「「おおおーーー」」」」


 そうだろうそうだろう。

 やはり異世界には存在しない技術の結集は驚愕の一言に尽きるようだ。


 ん?なに?

 三之宮さん、袖を引っ張らないで?


「ねぇ飛鳥くん。まさか私が来たのにまた冷凍食品なんて食べる気なの?」


 うん、またって何かな?

 俺がいつも冷凍食品ばっか食べていることをまるで知っているかのように話すね?

 もうこれアレかな?


「私がいるんだから、冷凍食品なんて食べさせないわ!私が作ります!……この日の為に練習しておいてよかったぁ」


 小声で言ったことは近くにいたから聞こえてたけど、俺は聞こえてないことにするよ。


「いやでも、ウチに材料ないよ?」

「飛鳥くんは冷蔵庫を見てないわね?」


 まさか……。

 慌ててキッチンへ。

 冷蔵庫を開ける。


「わーお……」


 なんということでしょう。


 牛乳と卵くらいしかなかった冷蔵庫が、大量の食材が。

 肉あるよ。しかも……A5?!

 この魚って大トロじゃねぇか!

 この野菜も素人目から見てもみずみずしい……。

 てか牛乳もいつもの安物じゃなくなってるし。


 三之宮さんって何者?


「本当は冷凍食品は捨ててしまうと思ったんだけどね。飛鳥くんはこれからは私の料理を食べればいいんだから」


 俺は何も言わない、言えない。


 居間に戻ると、四人は冷凍食品の表示を必死に読んでいた。


「あ、中村様!この電子レンジとはなんですか?」

「うん、キッチンにあるよ。それで今日の夕飯なんだけど……」

「このお湯をいれだら三分でって便利だすなぁ」

「うん、速いし楽だし美味いしじゃなくて今日夕飯は……」

「わたしは……こ、この……ぎょ、ぎょーざというものを…たべてみたい……です……」

「…………」


 どうしよう。

 なんか冷凍食品は片付けますって言えねぇよ……。

 目がキラキラしてるもの……。

 初めて見るものに興味津々だもの……。


「さ、三之宮さん」

「なぁに?」

「えーと……今日だけ、今日だけ夕飯は……」

「いいわよ」


 お?

 なんかあっさり?


「その代わりに後でお願い聞いてくれる?」

「お願い?」

「そ、お願い」

「……無茶なものじゃなければ」

「大丈夫大丈夫」


 その笑顔、怖いです。



 *****



「じゃあ電子レンジの使い方を教えます」

「はい!よろしくお願いします!」


 シーラさんの鼻息が荒い。

 あとで聞いた話だが、向こうの世界では魔道具と言うものがあって、シーラさんはその魔道具作りが大好きなんだって。

 なんかキョロキョロしてキッチンにあるもの全てが気になってしょうがないみたいだわ。


「まず一番簡単な使い方。蓋を開けます。温めるものを入れます。閉じます」

「それで?」

「そしてこの部分はボタンと言って……シーラさん、触ってみて」

「よ、よろしいのですか?!」

「よろしいです」


 シーラさんは恐る恐る人差し指を取り消しボタンに伸ばしていく。


「ハワッ?!なんかフニフニします……あれ?なんか奥に突起物が……」

「もう少しだけ指を押し込んで」

「えー、と……。えい!わっ!!」


 ピッという音にビックリしていた。

 ……かわいいな。

 三之宮さんが睨んできたけど無視無視。


「はい。もう一度言うけど、これはボタンと言って、こういった道具を使うために必要なものです。今みたいに押して、道具を操作します」

「なんか中の突起物が凹んだんですけど……」

「本来はそこだけでいいんだけど、こうやって柔らかな物で覆ってやったほうが押しやすいからね」


 本当は俺もよくわかってないから、思いつきでその辺は適当に誤魔化しておく。

 ま、気になるなら調べればいいさ。


 俺はもう一度蓋を開けて閉じた。


「この状態で、このスタートと書いてあるボタンを押します。後は音が鳴るまで放置。ではやってみよう」


 四人は俺の言うとおり、余計なことをせずにやり通す。

 爆発落ちは無かった。


「今やったのは、冷えているものをとりあえず温めるときにやります。ですが、冷凍食品等はこれにさらにもう2つやらなくてはなりません」

「ふんふん」

「シーラさん近い近い離れて」


 シーラさんを少し電子レンジから引き離す。

 俺はテレジアさんが持っていた炒飯を受け取……。


「クラちゃん、離してください」

「これはわだすのだ!」

「食べさせてやるから離せ!」

「ああ!」


 無理矢理取り返す。

 これも、後で聞いた話だが、クラちゃんは兄弟姉妹が多く、食べ物は基本取り合いの弱肉強食家族だったらしい。


 さらに炒飯を開けると、皆が凝視してくる。

 …………そうだ。


 俺は匙で少し掬う。


「はい、口開けてー」

「ひはっ?!ンムッ!んっ……ムッ?……ゴクンッ……」


 クラちゃん口に突っ込んでみた。


「どおよ」

「美味しくないだす……」

「だろうな」

「わかっててやったんだすか?!」


 よし、電子レンジの使い方の説明を続けるか。

 ん?なに三之宮さん。なんで口開けて寄ってくるの?やらないよ?


「蓋を開けます。それでこの炒飯を入れます。閉じます」


 俺は炒飯が入っていた袋の裏を四人に向ける。


「はいここを読んでください。冷凍食品には基本的にこういった表示があります。500Wで6分、600Wで5分と書いてありますね」

「これはなんですか?」

「これはこの温める際の設定と時間です」

「決まっているのですか?」

「決まってます」


 また電子レンジの出力調整ボタンを押す。


「このボタンを押すと、この部分に800と出てますね?」

「もう一度押すと……」

「あ!変わりました!えーと……600と出てます!この数字はなんですか?」

「はいこれはワット数と言って、簡単に言うと温める時の温度です。この数字が高ければ高いほど高温で温めます」

「なるほど」

「それでこのボタンを押すと……」

「あ、数字が1つだけになったぞ!」

「これは時間です。並んで2つありますが、左側が分数、右側が秒数です。今回は左側だけ使うから右側は押さないように」


 俺は再び炒飯の袋の裏を見せる。


「この3桁の数字になるようにこのボタンを押して、このボタンを押して時間を合わせます。では順番にやってみてください」


 炒飯が溶けてきた気がするけど、まあいいや。

 やはり余計なことはせずに四人とも言われた通りにボタンを押してくれる。


 最後にミラちゃんがボタンを押したところで、


「じゃ、ミラちゃん。このスタートボタンを押してくれるかな?」

「わ、わたしが押していいんですか?!」

「どうぞどうぞ」


 ミラちゃんはボタンに人差し指を当て、深呼吸して後、ぐっと押し込んだ。


「「「「おおおおおーーーー」」」」


 四人とも蓋の窓から明るくなった中を覗き込んでいる。



「ねえ飛鳥くん」

「なんだ?」

「ちょっと暇だったから浅漬け作ったんだけど食べてくれる?」


 いつの間に作ったんだとかなんで浅漬けとか色々と言いたいことがあるよ三之宮さん。

 しかも食べてくれる?って箸でつまんでる胡瓜をすでに俺の口の前に持ってき……唇に押し付けないでくれ食べるから。


「どお?」

「美味し……速い速い速い速いわんこそばみたいに唇に押し付けるな食べるから!」

「よかった」


 電子レンジに見入ってる4人の後ろで、俺はわんこ浅漬け状態でボウルにあった浅漬けを電子レンジが鳴るまで食べ続けた。



「はい、音が鳴ったら皿を出します。が、熱くて火傷しては大変だ。そこでこれ、鍋つかみ」


 電子レンジの横の壁に引っ掛けてある、猫の鍋つかみを持って見せる。


「電子レンジの蓋を開けたら、この鍋つか……テレジアさん返せ」


 俺の手にあった鍋つかみがいつの間にかテレジアさんの手に。


「か、可愛い……」


 あー……なるほど……。


「あーテレジアさん、後でいくらでも触らせてやるから一旦返せ。夕飯にならん」

「あっ……」


 取り返して手につける。

 つけたまま、蓋を開けると、湯気に乗ってチャーハンの香りが飛び出してきた。


「「「「はわああー……」」」」


 はい、全員同じ反応ありがとう。


「じゃあ出すぞー」


 俺は炒飯を取り出して、キッチンにあるテーブルの上に置いた。


「す、すごい……」

「ゴクリッ……」

「いい匂いですぅ」

「電子レンジ……このような道具が存在するとは……」


 シーラさんだけ電子レンジに釘付けである。


「じゃあみんなもやってみるか。まず……」

「はい!!」

「シーラさんからね」

「ありがとうございます!」


 4人共、表示を見ながら、ゆっくりとだが一発で温め終わった。


 あ、最初の炒飯は俺が頂いて、クラちゃんにはもう一つの炒飯を上げた。

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