第3話 僕は軍人 彼女は皇女③

 「はあ、また面倒事を貰っちゃったな。だってあるからできるだけ目立ちたくないんだけど……」


 零機はため息を吐きながら自分の部屋がある軍人舎に戻る。なんでも、学校はあと三日で始まるらしい。軍本部のここからその高校が遠いということもあるが、さすがに軍本部から学校に通うわけにはいかない。まあこの近くは人が少ないので大丈夫といえば大丈夫だが。問題は、零機が桐谷きりたに家の人間であるということだ。

 今の日本には、多種多様な種族が暮らしている。人間に吸血鬼ヴァンパイア、と機甲魔人アーマードメイガス獣人セリアンスロゥプ蜥蜴人サラマンダー、おまけに悪魔デビル精霊エレメンタル。なぜ日本がこんな状態になっているかというと、それは三年前、零機が十二歳で軍人になり、三ヶ月がたったころに遡る。

 それまでもそうだが、今、日本のトップは正確には天皇家の綺羅姫きらひめ家ではなく、東雲家しののめが実権を握っている。東雲家は代々、天皇家に仕えることによってその地位を確立してきた。そんななか、日本、というよりか、人間は必死に他種族と戦っていた。その戦地で、は起きた。

 どの種族のものでも、この衝撃を知らないものはいなかった。この災害は、


『転生の天撃リーンカーネーション・ザ・タッグハマー


 と呼ばれていた。この一撃で、世界のバランスは大きく崩れる。その災害と同時に、世界には、天使エンジェル天獣ビーストが誕生した。天使と天獣は次々と世界を手に入れていった。もちろん、各種族は対抗したが、歯が立たなかった。高い技術力を誇る人間でも、不老不死の魔術種族の吸血鬼でも、、、全てを理解し、全てを取り込む機甲魔人でも、災厄の象徴である悪魔も、幸福の象徴である精霊も、誰も敵わなかった。各種族は協定を結び、侵略ではなく、奪還のための戦いを始めた。

 これが世界に言われる今の現状である。そのなかで、東雲家は弱った部分を取り込み、またさらに大きくなった。結果、東雲家は、東雲協議審問会しののめきょうぎしいもんかいという軍事宗教を開いた。それは日本だけでなく、傷ついた世界に広がっていった。その本拠地は日本の池袋にあり、日本帝国軍は上野に本拠地を置いた。零機の実家である桐谷家は、代々、軍人を輩出する名家の家系だった。だが、だんだん他の名家との差がなくなり、競争争いの真っ只中にいたころ、事件が起きた。

 吸血鬼よって、一族と、それに仕える従者の家の人間の半分が死んだ。

 暗い夜、火を放つ魔術、火球インフェルノで母屋を焼き、そのなかで、力のないものが殺されていった。力のあるものも、桐谷家を守って死ぬ者が多かった。零機はそのとき九歳で、生き残りだった。そして桐谷家の勢力はがた落ちし、


「無力の名家」「落第貴族」


 と、散々罵られたのだ。この事は、東雲監察にある魔法士には全てに伝わっていた。当時、東雲の次に権力のあった桐谷を注視していた東雲家は、桐谷家を完全に落としたのである。それからも悪評が続いた。その理由はそれだけではなかった。

 今、人間には二つの人種があった。人類と、『新人類』と呼ばれる者たちだ。新人類は昔からほとんどいなかったが、「転生の天撃」後、急激に増えた。その理由はわかっていない。新人類とは、『魔力』を持つ人間のことだ。桐谷家は代々から、新人類の第一世代の家系で、呪われているといわれていたのである。第一世代とは、魔力を持つが、自らその力を扱えないものである。他にも、第二世代、第三世代がいて、第二世代は『魔法』が使える人間だ。

 魔術と魔法は似ているようで違う。魔術が魔の力を術によって行使するのに対し、魔法とは、使のことだ。魔法は魔術を簡略化から応用、強化など、人間のたどり着いた最大の技術である。自分の魔力を擬似感覚デバイスに接続し、方程式の描かれた魔法陣を急速展開し力を行使するのだ。この擬似感覚デバイスは、具体的には魔導具といわれ、様々な形をしている。刀や剣、銃や斧など、様々なものだが、共通しているのは、武器ということである。第一世代の人間はこれが使えないため、軍の要する、魔銃や魔刀に魔力を吸わせることによって戦う。扱いが面倒なので、東雲協議審問会は第二世代のものを重視する。そこには明確な壁がある。第一世代の人間は大概が軍に入隊するが、第二世代は攻魔官と防魔官がいて、攻撃系統の魔法に精通する人間と防御系統魔法に精通するものが、それぞれ重宝されるのだ。第一世代の中には、それが原因で親に捨てられる子供いる。第一世代にも、魔導具や魔銃、魔刀を創る魔工技師もいる。

 第三世代は、第二世代同様に魔法が使えながらも、特殊な能力を持つものが多い人間だ。数が少なく、謎に包まれている。

 第一世代である桐谷家が呪われているという理由は、魔導師が現れるずっと昔から魔術を行使していたからである。桐谷家は、今、ほとんどのもが精霊と契約し、魔力を共有するのに対し、悪魔と契約した一族だった。

 精霊には霊力という独自の力があり、悪魔とは魔素粒子の塊、集合体に自我が芽生えたものだ。永いときを生きた悪魔や精霊のほうがその力は強いとされている。古式魔法と呼ばれる魔法は精霊を使ったものが多いと云われている。

 基本、悪魔は単体で生きている。だが、そのなかには集団を作って行動している悪魔もいる。桐谷家はその悪魔の集団二つと契約した。正確には他の従者の一族もだが。

 このことは桐谷家勢力と軍のみが知っている事実だ。表向きは精霊となっている。零機は、悪魔とは契約はしていない。

 精霊は一度契約したら、主が死ぬか、契約が破棄、解雇されまでは守られる。だが、悪魔は違う。悪魔は平気で契約主の体を乗っ取るのだ。悪魔の力とその体を見て、人々は桐谷の人間を、悪魔の一族と表したのだ。全くその通りだ。

 零機はそんな自分の家とこの世界の過去について考えていた。零機の知っている事実は軍人や、天使や天獣を相手にするものなら誰もが知っていることである。だが、ひとつ、不可解なことがあった。それは、天使と天獣が誕生して、初めて言われたという文献の中の記録だ。


「そなたら生命は、世界を壊した。その罪を償わせるために、我々はこの世界へとした」


 このことを今なんで自分が考えたかはよくわからないが、この公表されない文献に、零機は違和感を覚えるのだった。それが、世界の破滅への原点だと、思いもせずに。

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