言の葉に綴る私の詩

ライファイ

第1話 失われた赤い華

 情熱に身を焦がれるような恋に落ちた――。

 

 人々の行き交う交差点の向こうに君はいた。

 君は僕のことを知らない。だが僕は君を知っている。

 やがて信号が変わり、君はこちらに歩いてくる。

 すれ違った瞬間、鼻孔をくすぐるような強く甘い華の香りが風に乗って届いてきた。

 

 僕の心は空っぽだ。形も思い出も、何もかも忘れてしまった心。

 僕は世界と同じだ。そこにあるのに意識しなければ認識されないモノ。

 こんな世界壊れてしまえばいいのに。

 

 そんな虚ろな気持ちに打ちひしがれる中、薔薇の花束を抱えた君に出会った。

 空っぽだったはずの僕の心が少しだけ熱を持った気がした。

 いつもの時間にいつもの交差点。

 いつものように交差点の真ん中ですれ違う君と僕。

 こんなに近くにいるのに遠い。

 

 ――痛い。

 

 僕の心が熱にうなされている。

 拒絶。

 空っぽであることを望む僕の心が咆哮さけんでいる。

 わずかな灯に心をさらされながら。


 この想いは、僕にすら分からない行く末の希望となるのだろうか。

 この想いは、僕にすら分からない行く末の絶望となるのだろうか。

 

 ――僕の心は空っぽだ。

 考えたところで意味はない。

 僕の心に痛みはいらない。


 いらない……いらないいラないイラなイイラナイ!


 情熱に身を焦がれるような恋に落ちた。 

 人々の行き交う交差点の向こうに君はいた。

 君は僕のことを知らない。だが僕は君を知っている。

 やがて信号が変わり、君はこちらに歩いてくる。

 すれ違った瞬間、鼻孔をくすぐるような強く甘い華の香りを纏った君は驚いた顔で僕を見た。


 それが君の灯の色なんだね。

 赤くて、鮮明で、眩しいほどに輝く灯。

 でもその灯は僕には眩しすぎるよ。

 僕の心が崩れ落ちそうになるほどに。

 空っぽであることを望む僕の心に、熱も、痛みも、何もかも不必要なんだ。

 だから僕が君の灯を消してあげよう。


 ――僕と君の距離は今、なくなった。

 君は僕にもたれかかるように倒れた。

 でも僕は君を受け止めはしない。

 この身を焦がしてしまうから。


 君は支えのなくなった体を交差点の真ん中に曝した。

 どこからともなく悲鳴があがる。

 僕の手には薔薇のような赤い液体がべっとりと付着していた。

 空っぽの心では瞬く間に消えていく命の儚さを理解できない。

 今の僕がそうであるように。


 ――僕は再び空っぽの心を取り戻せたんだな。


 僕の心は空っぽだ。形も思い出も、何もかも忘れてしまった心。

 僕は世界と同じだ。そこにあるのに意識しなければ認識されないモノ。

 でも僕は今だけ人々に認識された。

 

 こんな世界でも確かに僕は生きていた――。


 


 ※元歌詞『Lost Red Flower』


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

言の葉に綴る私の詩 ライファイ @lifizexion

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ