第50話 夏休みⅢ

 電車に二時間ほど揺られ、俺たちは集合場所である八木駅に到着した。看板を持っている人がいるはずなのだが――。

「あ! あの人じゃないかな」

 秋月の視線を追うと、そこには《南丹市花火大会ボランティアに参加される方はこちら》と書かれた看板を持った女性が立っていた。彼女の周りには高校生と思われる四人が立っている。

「お、君たちかな。ボランティア活動に参加してくれるのは」

 近づくと彼女の方から声を掛けてきた。よく日焼けした健康そうな肌色にスタイリッシュな体つき、そしてサングラスを少し上げてこちらを見る姿は、いかにもスポーツ系美人という言葉がふさわしいだろう。

 彼女の周りには、俺たちと同年代と思われる女子四人組がいた。

「よし、じゃあ早速――おい、君、大丈夫か」

 スポーツ系美人が気遣うような声を掛ける――その先には、片手で口元を押さえる冬川がいた。

「凛! どうしたの! 大丈夫?」

 冬川の肩に手を置き、顔を覗き込む秋月。

「……ええ、大丈夫。少しめまいがしただけ」

 スポーツ系美人は、依然として心配そうな表情を浮かべていたが、話すのを再開した。

「……よし、では今からボランティア活動を行う場所まで移動する。車で十分ぐらいのところだ。全員私の車に乗れ、と言いたいところなんだが、あと六名しか乗せることができなくてな……悪いが、そこの男子二人――この自転車で来てくれないか」

 なんと、俺と晴人が指名された。車で十分ってことは自転車だと……二十分くらい? 日差しが照りつける中で自転車を漕ぐ――何たる苦行だろうか。

「私、自転車で行きます」

 俺を救う神の声が聞こえた気がした。その声を発したのは冬川だ。

「だが、君。先ほど具合が悪そうに――」

「何ともありません。大丈夫です」

 スポーツ系美人――早く名前を知りたい。このままの状態が続くと、つい本人に向かってスポーツ系美人と呼んでしまいそうだ――の言葉を遮ると、冬川は置いてある二つの自転車の片方へとまたがった。

 お、晴人はサイクリングが好きだから、俺はもしかするとひょっとすると車に乗せてもらえるのではなかろうか。そんな晴人が挙手をする。お、やる気満々だな。

「お姉さん、代わりに僕を車に乗せてくれませんか」

 ……はい?

「おい、お前、サイクリングが好きって言ってたじゃないか」

 そんなことを言うなど予想外だぞ。

「いやー、実は先週、サイクリングの大会に出たんだけど、そのときに足を痛めちゃってね。日常生活にはそれほど支障はないんだけど、自転車ってなると、漕ぐときに足が痛むんだ。……春樹、ごめんだけど、僕が車に乗ってもいいかな」

 まさかの、晴人負傷!

「じゃあ、二人が自転車ってことでいいかな。彼女はくれぐれも無理しないように。何かあったら、彼に頼ればいい。……ここが目的地だ」

 そう言って、スポーツ系美人と共に、晴人、秋月含めた生徒六人はワゴン車に乗って立ち去った。

「……じゃあ、俺たちも行くか」

 ペダルに足を掛け、ゆっくりと自転車を漕ぐ。冬川がついてくるのを横目で確認し、進行方向に視線を移す。

 ……長い道のりになりそうだ。

 これから起きるであろうことを考えると憂鬱になってしまう俺に、加えて自転車を漕げとは、何たる苦行だろうか。

 自転車のペダルが一段と重くなったように感じた。

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