第36話 校外学習Ⅷ

 訪ねてきたのは、男子二人組。青の校章――一年生か。

「山内くんじゃないか! これは都合がいい」

 晴人の知り合いか。しかし、晴人は、誰だっけ、といった顔をしている。

「同じクラスの武田だよ。こっちは田辺」

 背が高い方が武田、低い方が田辺か。

「あ、そうだったね。武田君、田辺君」

 基本、晴人は興味ある人の顔しか覚えていない。以前、お前が興味持つ奴ってどんな人なんだ、と聞いたことがある。あのとき晴人が何と答えたのか、上手く思い出せないが、驚きを感じたのだけは覚えている。そんな考えもあるのだと。今回の二人組は、その晴人の興味ある人の範疇に入っていないということなのだろう。

「それで、都合がいいというのは?」

 晴人が話を進める。

「うん、そうだな。まずは、相談事について聞いてもらった方が話が早いか。……実は、田辺がクラスの女子に告白をしたいらしくてな。その手助けをしてもらえないかと思って――」

 ……告白の手助け?

「なになに? 告白? 誰に?」

 さっきまで、来訪客につゆほどの興味を示していなかった秋月が、身を乗り出して話に加わってきた。

「……同じクラスの田口さん、なんだけど」

 恥ずかしいのか、詰まりながら答える田辺。……田口、田辺か。名前の頭文字が同じで席が近くて仲良くなって――みたいな感じか。

「まだ、一度も話したことなくて」

 ……話したことはないらしい。

「わかるわかる! 好きな人と話すのって、すごく緊張するよね」

 なぜか男の気持ちを分かった気になっている女、秋月。

「そういうわけで、是非、田辺が田口さんとお近づきになって、告白して付き合うところまでお手伝いしてもらえないかなと思って、相談したんだ。――都合がいいというのは、今度、俺たち新入生には校外学習があるからさ」

 武田が相談内容をまとめて説明する。

「なるほどね、校外学習を機会にね……どうする?」

 相談を受ければ責任が生じる。相談に乗り、相談者の望まない結果となれば、部活は廃部。

「……俺たちはどこまで責任をもてばいい? そもそも田口さんにその気がなければ、告白してもフラれるぞ。告白が上手くいくところまでの責任は持てないぞ」

 少し厳しめの言い方をしてみる。

「それはその通りだ。君たちに責任をどうこう言うつもりはない。僕が君たちに望むのは、もし田辺と田口さんがお近づきになれるような機会があれば、可能な限りその場をつくるサポートをしてもらうってことだけさ。つまり、特に達成目標はないってことだ。手助けの努力だけしてもらえれば、俺たちはそれで満足さ」

 事前に田辺と打ち合わせはしていたようで、武田の言葉に田辺も首を縦に振っている。……こんなに内気で、告白なんてできるのか、田辺よ。

「なるほどね、達成目標は強いて言うなら、努力ってところかな。君たちをサポートするように努めるっていう――改めて、どうする?」

 晴人の言葉に、首を縦に振る秋月。冬川は、《告白の仕方、教えます》という文庫本を読んでいる――いつ、どこから取り出したんですか、冬川さん。恋の悩みでもあるのでしょうか。

 俺も賛同の意を込め、片手を挙げる。

「じゃあ、具体的なプランを考えようか! プロジェクトコードは、《田辺と田口の恋愛物語》でどうかな!」

 晴人のセンスのかけらも感じられないネーミングはスルーして、俺たちは当日――三日後の計画を立て始めた。

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