第12話【調薬師と聖女の相性について】

 

 今更ながら【MP】を無制限に使えるって反則なのだと実感した。



・エルシーラ:レベル7

 HP 27/27 MP 53/53

 種族:人間 属性:光 職業:聖女

 筋力:8

 敏捷:11

 体力:12

 魔力:32

 器用:18

 幸運:4

 スキル:【神聖魔法Ⅴ】【光属性魔法Ⅰ】【共鳴】



「上がった! 上がりましたよ、トシカズ様!」


「うんうん。頑張ったな」


 エルシーラの【神聖魔法】があっという間に【Ⅴ】になった。


 まぁ【Ⅳ】の期間が随分長かったらしいので【熟練度】も溜まっていたのだろう。


「こんなに簡単に上がるなんて……感無量です!」


「……分かったから落ち着け」


 大はしゃぎするエルシーラをゲンナリしながら宥める。


「これでやっと、今まで手も足も出なかった【呪い】の解呪に挑む事が出来ます!」


「……皆似たような反応するのな」


 ユヒメもスキルのレベルがあがった時は【これでやっと……】的な事を言っていた。


 ちなみに【神聖魔法】についてなのだが……。




【神聖魔法Ⅰ】


・【ヒール】

 概要:【HP】を【魔力】×1の割合で回復させる。


・【ポイズンキュア】

 概要:軽度の【毒状態】を回復させる。



【神聖魔法Ⅱ】


・【ヒールⅡ】

 概要:【HP】を【魔力】×2の割合で回復させる。


・【パラライズキュア】

 概要:軽度の【麻痺状態】を回復させる。


・【ストーンキュア】

 概要:軽度の【石化状態】を回復させる。



【神聖魔法Ⅲ】


・【ヒールⅢ】

 概要:【HP】を【魔力】×3の割合で回復させる。


・【ブレッシング】

 概要:軽度の【病気状態】を回復させる。



【神聖魔法Ⅳ】


・【ハイヒール】

 概要:【HP】を【魔力】×5の割合で回復させる。


・【サークルヒール】

 概要:半径3メートル以内に居る対象の【HP】を【魔力】×1の割合で回復させる。



【神聖魔法Ⅴ】


・【ホーリーウォーター】

 概要:水を【聖水】へと変える。


・【ディスペル】

 概要:軽度の【呪い状態】を回復させる。




 というような感じで使える魔法が増えていくらしい。


「なんか想像以上に【魔力】の高さが重要なんだな」


 もしもユヒメのステータスを共鳴した状態で【ヒールⅠ】を使用した場合【HP】を【2】回復させるだけの効果しかない。


 反面、エリシーラ本来の【魔力】なら【HP】を32も回復出来る。


「むむ。そういえばヒメの【ポーション】には【呪い】に効く物は無いのです」


 俺はボンヤリと思った事を言っただけだがユヒメは【調薬師】としての視点から見ていたらしい。


 言われて見れば【調薬Ⅵ】までに【呪い】に対する効果の【ポーション】は無かった気がする。




【調薬Ⅰ】


・【HP回復ポーション】

 概要:【HP】を100前後回復させる。


・【解毒ポーション】

 概要:【毒状態】を正常に戻す。



【調薬Ⅱ】


・【解痺ポーション】

 概要:【麻痺状態】を正常に戻す。


・【解石ポーション】

 概要:【石化状態】を正常に戻す。



【調薬Ⅲ】


・【HP回復ハイポーション】

 概要:【HP】を300前後回復させる。


・【治癒ポーション】

 概要:【病気状態】を正常に戻す。


・【解熱ポーション】

 概要:【高熱状態】を正常に戻す。



【調薬Ⅳ】


・【MP回復ポーション】

 概要:【MP】を50前後回復させる。


・【力のポーション】

 概要:10分の間、使用者の力を上昇させる。


・【俊敏のポーション】

 概要:10分の間、使用者の素早さを上昇させる。



【調薬Ⅴ】


・【状態異常回復ポーション】

 概要:毒、麻痺、石化、病気、発熱の状態異常を全て回復させる。


・【体力ポーション】

 概要:10分間、体力を上昇させる。


・【魔力ポーション】

 概要:10分間、魔力を上昇させる。


・【技師のポーション】

 概要:10分間、器用さを上昇させる。


・【幸運のポーション】

 概要:10分間、幸運を呼び込む。



【調薬Ⅵ】


・【デュアルポーション】

 概要:【HP】を300前後回復させる+【MP】を50前後回復させる。


・【暗視ポーション】

 概要:30分間、暗いところでも目が見えるようになる。


・【水中呼吸ポーション】

 概要:15分間、水中で呼吸する事が出来るようになる。


・【耐熱ポーション】

 概要:60分間、暑さに対して耐性を得る事が出来る。


・【耐冷ポーション】

 概要:60分間、寒さに対して耐性を得る事が出来る。




 うん。再確認してみるが確かに【呪い】に有効なものは見当たらない。


「【呪い】の解呪なんかは【神聖魔法】の専門って事かね」


「むぅ」


 仕方がない事とはいえユヒメは不満そうだ。


「あ。でも確か……【神聖魔法Ⅴ】で作れる【聖水】を使えば【呪い】を打ち消す【ポーション】を作れるって聞いた事がある気がします」


「あ」


 エルシーラの言葉にユヒメがハッと何かを思い出したようでパッと顔を輝かせる。


「そうなのです! 【聖水】があれば【呪い】に対抗出来る【解呪ポーション】が作れるのです!」


「なるほど。【調薬】と【神聖魔法】が揃って初めて作れる【融合ポーション】って訳か」


 俺とユヒメの相性だけじゃなく、ユヒメとエリシーラの相性も悪くないのかもしれない。


「ユヒメさんが【解呪ポーション】を作ってくれるなら正直、少し助かります。覚えたての【ディスペル】でどれだけ効果があるのか不安でしたから」


「【解呪ポーション】を飲ませた上で【ディスペル】すれば効果が高そうだな」


「良いですね、それ!」


「流石トシさんなのです! 天才なのです!」


 という感じで俺とユヒメとエルシーラは騒いでいたのだが……。


「……皆さん楽しそうですね」


 何故か最近影が薄いユリアナが部屋の隅っこで膝を抱えて床に【の】の字を書いていた。


 やば。似合いすぎて怖いわぁ~。






 まぁ冗談は兎も角として……。


「うぅ。私も毎朝の鍛錬は欠かしていないのに全くスキルが上がりません」


「いや。俺としては店員としての接客スキルを上げて欲しいんだが」


 まぁ、この世界には【接客】なんてスキルは無いので純粋に慣れと経験を積んで貰うしかないけど。


「私も皆さんみたいにバリバリスキルを上げたいです!」


「【吸収】や【共鳴】の類似スキルが無い上に【MP】があっても上げられるスキルが無いのに無茶言うなよ」




・ユリアナには俺の【MP】を譲渡する手段が無い

・例え【MP】を譲渡しても【MP】を使うスキルが無い。




 以上2点を解決しない限り俺がユリアナにしてやれる事は無い。


「せめてお給料を上げてください」


「忙しくなってきてから【銀貨】15枚に上げてやったじゃん。この国の一般月収よりかなり高い筈だぞ」


 しかもユリアナの弟達や妹達が【学校】に通って生活保護を受けているので生活費が掛からないおまけ付きだ。


「そう言われると私って結構恵まれている筈なのに、どうして影が薄いのでしょう?」


「ユリアナの影が薄いんじゃなくてユヒメとエルシーラの個性が強いだけだろ」


 何と言っても【ドリアードの調薬師】と【人間の聖女】だしなぁ。


「私は獣人の……【店員】ですしね」


 比較するとやはりユリアナだけが妙に地味だった。




 ◇




 現在、俺達の店の裏庭にユリアナ一家の為に建てられた小さな家にはユリアナとエルシーラの2人が住んでいる。


 子供達は【学校】に通う事になった際に【寮】を用意されたので、そちらに移り住んでいた為、そのドサクサに紛れてエルシーラが住み込んでしまった。


「エルシーラって意外に根性据わっているよな」


「多少の図々しさが無ければ各地を回って【人助け】など出来ませんから」


 学校で子供達に【神聖魔法】を教えるのが仕事だとすれば、休日に馬車で各地を回って【人助け】をするのは天命らしい。


「時間は減ってしまいましたが、その分効率は凄く良くなっていますし」


「……そうだな」


 エルシーラが各地を回って【人助け】をする際、何気にユヒメの【ポーション】を持ち出して簡単な怪我や病気くらいはそっちで対処している。


【MP回復ポーション】よりは効率的だと判断したらしいのだが――勝手に倉庫の品を持ち出すなよと大声で言いたい。


 まぁ、そっちも在庫を確認してエルシーラの【借金】として積み上げているけど。


「このペースで行くとエルシーラの【借金】が【白金貨】に届くのも時間の問題だな」


「し、【白金貨】……ですか」


 流石のエルシーラも頬がヒクヒクと引き攣っている。


 お値段が【銀貨】10枚の【MP回復ポーション】をガブ飲みしやがるので10本飲めば【金貨】1枚分だ。


 それを休日の度に続けているのだから【借金】が嵩むのは当たり前だ。


「わ、割引をお願いします」


「既に大分割引して、その上で相当額の【借金】になってるんだっての」


「うぅ……」


 エルシーラは【反省】はするが【後悔】はしない主義だ。


 つまり、これからも店の倉庫から【ポーション】を持ち出して【人助け】を続ける気は満々という事だ。






 今日も今日とてエルシーラは休日を使って【人助け】をしに出掛ける。


「聖女様。お迎えに上がりました」


 そのエルシーラを馬車で迎えに来たのは女騎士のアイリスだ。


 既に【公認聖女】の座は返却してしまったが、それでもアイリスはエルシーラに仕える事は辞めなかったらしい。


 この女はなんというか――エルシーラに対して狂信的でエルシーラのやる事は全て正しいとか思っているっぽい。


「ちっ……」


 そして俺の事が嫌いらしい。


 俺と目が合うとあからさまに舌打ちして睨みつけてきた。


 初対面の騒動が原因――なのではなくエルシーラに近付く男全般が嫌いらしい。


 心配しなくても俺はユヒメ一筋だよ。




 ◆女騎士




 今日も聖女様は素晴らしい。


 各地を回って困っている人々を助けて回り、お礼も受け取らずに去っていく姿は私の理想と言えた。


 私はこの方にお仕えする為に生まれてきたのだとすら思う。


「うん。このくらいの怪我なら【ポーション】を飲めば直ぐに治るわよ」


「……【ポーション】不味いから嫌い」


 聖女様の診察を受けた子供が聖女様の差し出した【ポーション】を見て顔を顰める。


「大丈夫よ。この【ポーション】はとっても美味しいんだから♪」


 笑顔で保障する聖女様に半信半疑だが子供は【ポーション】に口を付けて……。


「あ。本当だ……美味しい」


「でしょ?」


「うん♪」


 そうしてコクコクと【ポーション】を1ビン飲み干してしまった。


「あ」


 そして子供が手に持っていた【容器】が粉々に砕けて消滅する。


 毎回思うが、あれは一体どういう仕掛けなのだろう?


「凄い……綺麗」


「そうね。綺麗だわ」


 そして砕け散った容器がキラキラ舞い落ちる様に見とれる子供と聖女様。


「(……気に食わん)」


 確かに幻想的な光景だとは思うが、それを作り出したのが【あの男】かと思うと素直に賞賛する気が失せる。






 そもそも【あの男】は初めて会った時から気に食わなかった。


 聖女様を敬わない態度は今思い出しても【殺意】が沸いてくる。


 それに何より……。


「トシカズ様達がお作りになった【学校】は本当に素晴らしいです。無償で子供達に衣食住を提供し、将来役に立つ知識を惜しみなく教える事が出来るのですから」


 聖女様が【あの男】を賞賛するのが特に気に食わない。


「唯の【打算】の結果ではありませんか。【あの男】に聖女様のような【善意】があるとは思えません」


 私から言わせれば将来役に立つ人材を育てる為に【先行投資】でしかなく、利益を回収する為の手段でしかない。


「確かにトシカズ様は【善人】という訳ではありませんが【悪人】でもありませんよ」


「それはっ……! そうかもしれませんが……」


「何より例え【打算】による行動だったとしても、それで子供達の命が助かっている事も事実です。それは賞賛しても良い事でしょう」


「……はい、聖女様」


 納得は出来ないが聖女様が仰られるのなら私は一応頷いておく。


 決して【あの男】を認めた訳ではない。




 ◇




「~♪」


 ユヒメはご機嫌で畑に水を撒いている。


 ユヒメにとっては野菜――とうか植物を育てる事は良い息抜きになるようだ。


【MP】を無制限に使えるといっても【ポーション】を作る事はあくまで【仕事】に含まれるので手は抜けない。


 それに対して【畑仕事】は純粋に趣味として楽しい事なのだろう。


「大きくなるのですよぉ~♪ 美味しくなるのですよぉ~♪」


 楽しそうに畑に水を撒くユヒメは純粋に綺麗だと思った。


「よいしょ……! よいしょ……!」


 ちなみに俺は井戸に設置された【手押しポンプ】のハンドルを操作して水を汲み上げる作業の真っ最中。


 はい。ユヒメが撒いている水は俺が汲み上げているものです。


【筋力】と【体力】に自信の無い俺にとっては地味に大変な作業だが……。


「~♪」


 楽しそうなユヒメを間近で見られる機会をみすみす見逃す気は無かった。


 俺は体に疲労を、心に充足を満たされて――せっせと水を汲み上げていった。






「少々きな臭い噂が流れています」


 ユヒメにたっぷりと癒された後、俺は【組合長】の店から【ポーション】の材料を仕入れていたのだけれど、そこで【組合長】から妙に神妙な顔で話し掛けられた。


「どうやら、この国……【アドレニスタ王国】に私達が試験的に行っている【学校】の存在が知られてしまったようです」


「この国ってそんな名前だったんですね」


 この世界に来てから1年くらい経つが、この国の名前を初めて聞いた気がする。


 ひょっとしたら召喚された時に聞かされたのかもしれないが、ハッキリ言って覚えていなかった。


「それで【学校】の存在が知られたという事は巻き上げに来るという事でしょうか?」


「その可能性が高いですな」


 勿論、俺達が金を出して試験的に行っている【学校】に対して国に干渉する権限などある訳が無いが、金の匂いを嗅ぎ付ければ何をするか分からないのが王族や貴族という生き物なのだ。


「まぁ【学校】の規模を考えれば最初から隠すのは難しかったですからね」


「寧ろ、今まで隠し通せていた事が国の諜報能力の低さを露呈しているとも言えますな」


「ですね」


 確かに俺達が作った【学校】は極力目立たないように運営していたが、それでも物が物だけに隠密性など無いに等しい。


 それなのに今までバレなかったという事は――それだけ国の諜報能力がお粗末という事だ。


 俺達にとっては好都合ではあるけれど、この国に住む者としては不安になる。


「ともあれ、今問題となるのは国に干渉されて【学校】の運営が困難になる可能性がある事ですな」


「もう王族とか貴族とか全部死刑になれば良いのに」


「同感ですな」


 かなり危ない発言だが、この場には俺と爺さんしか居ないし、そもそも国の諜報能力が低い現状、少しくらい悪口をこぼしても問題にもならない。


「とはいえ【学校】に対して自衛出来る手段の確保は以前から必要とされてきた議題でもありました。子供達自身に自衛させるのは論外ですが……その手段を確保するのは急務でしょうな」


「ですね」


 最低限、国に干渉されても【学校】の子供達を守る事が出来る手段は必要だろう。


 最適なのは子供達を【学校】の外に出さないで生活出来る環境を整える事。


「今の内に長期保存出来る食料の確保。それと……自給自足出来る手段を考えておいた方が良いですね」


「幸い土地は余っていますので【畑】を作る事が望ましいと思います。可能なら【井戸】を何箇所か掘って欲しいですな」


「……頑張ります」


 これはつまり役割分担という事だ。


 長期保存出来る食料は爺さんが集めるから、俺は自給自足出来る【畑】を作ってくれと要請されている訳だ。


「(やれやれ)」


 暫く忙しくなりそうで俺は深く嘆息した。



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