第7話【店員ユリアナの超パワーアップ(仮)】
俺達の店を開店してから約4ヶ月が経過して……。
・ユヒメ:レベル3
HP 23/23 MP 3/3
種族:ドリアード 属性:植物 職業:調薬師
筋力:13
敏捷:3
体力:12
魔力:2
器用:16
幸運:9
スキル:【調薬Ⅳ】【植物練成】【植物魔法Ⅰ】【吸収】【エンゲージ】
「おぉ~」
ユヒメの【調薬】のレベルが【Ⅳ】に上がっていた。
「これって成長早いのか?」
「分からないのです!」
「ですよねぇ~」
ユヒメさんったら下手をすると異世界から来た俺より世間知らずなんだから。
「でも、これで念願の【MP回復ポーション】を作れるようになったのです!」
「おお。俺にはまったく必要ないけどなんか凄そうだ」
現状230万の【MP】を持つ俺に【MP回復ポーション】を渡されても唯の嫌がらせにしかならない。
「でも【MP回復ポーション】を作る為には特殊な【薬草】が必要になるのです」
「なんて薬草?」
「【月光草】っていう月の光で育った薬草なのです。噛むと少しだけ【MP】が回復するのです!」
「ほぉほぉ」
とりあえず組合長の店で扱っていないか聞いてみる事にした。
「残念ですが【月光草】を卸す事は出来ませんな」
が。爺さんに無碍も無く断られた。
「一応理由をお話しておくと【月光草】はそもそも人為的に育てるのが大変難しい薬草なので自然発生したものを【冒険者】に依頼して採取して貰っているのが現状なのです」
「あ~。そういう経緯で手に入れた貴重なものだから、手に入れる為には冒険者に自分で依頼して手に入れるべきって事ですね」
「そういう事になりますな」
思ったより入手は面倒臭そうだった。
「ところで【月光草】をお求めという事は【調薬Ⅳ】になったという事ですかな?」
「……わかりきった事を聞かないでください」
片眼鏡の鑑定でバレバレだろうが。
「いえいえ。【調薬Ⅲ】から【調薬Ⅳ】になる為には通常数年の時間が掛かる筈なので、もしやと思ったものですから」
「……マジすか?」
「マジです」
知らなかった。
ユヒメさんったら3ヶ月くらいで【調薬Ⅲ】から【調薬Ⅳ】に成長したから、それが普通なのかと思っていたよ!
「え~と。【ハイポーション】5本を【銀貨】10枚でどうでしょうか?」
「8枚が良いですな」
「ぐ……分かりました」
とりあえず【口止め料】として【ハイポーション】を相当安値で売る羽目になった。
とりあえず【月光草】の事を色々と調べてみた。
ユヒメは月の光で育つと言っていたが、正確には高い場所で夜にだけ花を咲かせ、その【月の魔力】を吸収した薬草が【月光草】と呼ばれているらしい。
依頼を受けた冒険者達は高い山に登って探してくるのが通例という話だ。
「【月の魔力】ねぇ~」
その特徴上、夜にしか他の薬草と区別が付かないので【高い山を夜中に探し回る】必要があるので冒険者への依頼料も割高だ。
今の俺達には出せない額ではないが、量を確保する為には何度も冒険者に依頼する必要があるだろう。
「私が取ってきましょうか?」
「へ?」
だからユリアナに提案を受けた時は呆気に取られた。
「私は【狼の獣人】なので夜目は利きますし、それに月の出ている時間帯なら【獣化】してパワーアップ出来ます」
「おぉ~。【狼女】に変身するんだな」
「ユリちゃん恰好良いのです!」
俺とユヒメはユリアナの【獣化】にワクワクしたのだけれど……。
「いえ。【獣化】と言っても目が赤くなって身体能力が上がるくらいで別に獣に変身する訳ではないのですが……」
「 「 えぇ~…… 」 」
期待外れだった。
◇
3日ほどでユリアナは待望の【月光草】を鉢植えに入れて戻ってきた。
ボーナスに【銀貨】5枚出すと言っておいたから張り切ってくれたようだ。
「これが【月光草】か。なんか見た目は普通の【薬草】だな」
「夜中は青い花を咲かせてキラキラ光っていたのですが……明るくなったら見ての通りです」
「ああ。ご苦労だった」
ボーナスの【銀貨】5枚と引き換えに俺はユリアナから【月光草】の鉢植えを受け取る。
「でも1本だけで良かったのですか? 群生していた訳ではないですが、もう2~3本なら取って来られたのですが」
「鉢植えに植え替えるんだから沢山あったら邪魔じゃん。そんな事よりユヒメ」
「はいなのです!」
俺から鉢植えを受け取ったユヒメはじっくりと【月光草】を調べ始める。
【ドリアード】で【植物魔法】が使えるユヒメなら【月光草】を量産出来ないかと期待しての事だ。
そうして暫くユヒメは【月光草】を調べていたのだが……。
「トシさん」
やがて俺の方に鉢植えを差し出してきた。
「この子にトシさんの【MP】を分けてあげて欲しいのです」
「へ?」
「上から少量の【MP】をぱらぱら~って掛けてあげて欲しいのです」
「……分かった」
なんとなくユヒメの言いたい事を理解して俺は【月光草】の上からユヒメに言われたとおり少量の【MP】をふり掛けていく。
「あ」
変化は劇的で【月光草】を取ってきた本人であるユリアナは驚いていた。
夜にしか咲かない筈の【月光草】が日の出ている時間に花を咲かせたのだ。
「この子は【月の魔力】を吸収していたんじゃなくて【月の光】を浴びて周囲の草が放出する【MP】を吸収して育っていたみたいなのです」
「ほぉほぉ。高いところにしか咲かない理由は?」
「単純に【月の光】が弱いと周囲の草が放出する【MP】が弱くて栄養にならないのです」
「なるほどねぇ~」
だから俺の放出する【MP】を敏感に感じ取って花を咲かせた訳か。
そして、ある程度俺の【MP】を吸収した後……。
「あ」
【月光草】の花から種が飛ばされて周囲に撒き散らされる。
「【MP】を必要量以上に確保出来たら種を撒いて仲間を増やすのです」
「ほほぉ。これを植えて俺の【MP】で育てれば簡単に量産出来そうだな」
「トシさんの為にあるような薬草なのです♪」
「だな」
まぁ普通の人は【MP】を【MP】のまま放出するなんて出来ないので【無属性魔法】の特権という奴だ。
更に俺の膨大な【MP】ならいくらでも育てられる。
流石に畑で育てたら盗まれそうなので家の中で【月光草】を育てる事になった。
「大きくなるのですよぉ~♪」
居住スペースに20個の種を植えた鉢植えを配置して水と俺の【MP】で育てていく事にした。
◇
【月光草】は予想以上に育つのが早かった。
僅か3日で成長して種を飛ばして更に量産が可能になる。
「種は保存しておくのです♪」
20本の【月光草】を収穫して次の種を20個植えて再び育てる。
「なんか……この【月光草】を売るだけで商売になりそうですね」
ユリアナが何か言っていたが、それはスルーして早速ユヒメが【MP回復ポーション】の【調薬】を始める。
「はむっ……もぐもぐもぐ……」
「ああ。やっぱり最初はそうやるのね」
ユヒメが作った青い色の【オリジナル・MP回復ポーション】はいつも通りユヒメの味がした。
【MP回復ポーション】状態:良質
概要:【MP】を50前後回復させる。
ハッキリ言って俺には無用の代物だが、それでも【銀貨】10枚で売れる高級品らしい。
【月光草】の収穫は3日で20本に制限してあるので大量生産は出来ないが、これが売れれば相当な儲けになるだろう。
「流石【ドリアード】ですな。まさか【月光草】の量産に成功するとは」
「ナンノコトヤラ」
「室内で育てているのは良い考えです。まぁ分かる人には分かってしまいますが」
「……【MP回復ポーション】5本で【銀貨】20枚でどうでしょうか?」
「良いお値段です」
畜生。この爺さん本気で手強いわぁ~。
ちなみにユヒメが【調薬Ⅳ】になって作れるようになったものは【MP回復ポーション】だけではない。
【力のポーション】状態:良質
概要:10分の間、使用者の力を上昇させる。
【俊敏のポーション】状態:良質
概要:10分の間、使用者の素早さを上昇させる。
以上の2つもユヒメは作れるようになっていた。
まぁ、こちらの材料は【月光草】よりは比較的容易に手に入るらしいので組合長の店で仕入れている。
こうして計10種類の【ポーション】が俺達の店に並ぶ事になった。
◇
当たり前の話だが【MP回復ポーション】を販売するようになってから【魔法使い】の客が増えた。
「容器もお洒落だし、効果は高いし、味は良いし……言う事なしだわ♪」
「ありがとうございます」
【魔法使い】は下手な冒険者と違って金払いも良く、馬鹿な苦情も言ってこないので非常に良客だ。
特に高レベルの【魔法使い】ともなると【MP回復ポーション】を大量に飲む必要があるらしく、そういう時に【効果】と【味】が悪いと最悪らしい。
「あの時は命の危機だったから文句も言えなかったけど……正直涙目だったわ」
やっぱり他の店の【MP回復ポーション】って不味いらしい。
しかも効果が低いから大量に飲む羽目になって――確かに考えると悲惨だ。
「また来るわ」
「毎度ありがとうございます」
こうして少数ながらも常連客が徐々に増えていく。
◇
「んぅ~っ……はぁ~っ……とぉ~っ!」
ユヒメが畑の前で不思議な踊りを披露している。
なんとな~く【MP】を奪われるような不思議な脱力感。
「何をしているんだ?」
「お野菜さん達を応援しているのです!」
「お、おう」
野菜って応援で育つものだっけ?
いや【ドリアード】のユヒメの応援ならひょっとして効果があるのか?
「でも特に意味は無いのです!」
「無いのかよっ!」
騙されたぁ~。
まぁ、でも可愛いから良いか。
「そういえば店長とユヒメさんはレベルを上げたりしないんですか?」
俺がユヒメとイチャイチャしていると、ふと思いついたようにユリアナが質問してきた。
「何の為に?」
「え? それは……【MP】の最大値を増やしたり…」
「現状230万も【MP】があって余りまくっている俺に必要とは思えんなぁ」
ユヒメに譲渡するにしても5万もあればお釣りが来るし。
「でもユヒメさんのレベルが上がれば【MP】が増えて……」
「ヒメの【魔力】ではこれ以上【MP】が増えるとは思えないのです」
「…………」
「それに……【MP】が増えたらトシさんに【ちゅ~ちゅ~】して貰えないのです!」
「うむ。それは困るな」
「ああ……そっちが目的なんですね」
何を今更。
公然とユヒメとキス出来る環境を態々壊す気は俺には更々無かった。
「私はお店の護衛も兼ねているので、もう少しレベルを上げた方が良いでしょうか?」
「とりあえず【これ】飲んでみ」
俺がユリアナに渡したのは【力のポーション】と【俊敏のポーション】だ。
「よろしいのですか?」
「作ったは良いけど、どのくらい効果があるのか良く知らないし試しに飲んでみてくれ」
「は、はい!」
ユリアナは俺の渡した2つの【強化系ポーション】を躊躇無く飲み干した。
「な、なんだか……体の奥底から力が湧いて来ます!」
「そんな大げさな」
俺は笑いながら【鑑定石】でユリアナがどのくらいパワーアップしたのかを調べてみる。
・ユリアナ:レベル5
HP 106/53 MP 2/2
種族:獣人(狼) 属性:地 職業:店員
筋力:50(+25)
敏捷:62(+31)
体力:22
魔力:1
器用:11
幸運:1
スキル:【格闘Ⅲ】(+Ⅱ)【身体能力向上】【獣化】
「えぇっ!」
何これ凄い!
【HP】と【筋力】と【敏捷】が倍になっている上にスキル【格闘】が【Ⅲ】になっているよ!
「(こ、これって飲ませて大丈夫な奴だよね?)」
「(た、多分副作用は無い筈なのです)」
余りにも凄いドーピング効果に俺とユヒメは思わず小声で内緒話してしまった。
「むふぅ。なんだか生まれ変わった気分です♪」
「(な、なんかユリアナのテンションがおかしくない?)」
「(興奮作用は無かった筈なのです)」
激しく不安だ!
そして10分後。
「あ」
まるで空気が抜けるようにユリアナのテンションが落ちていって……。
「……私なんかが生きていてごめんなさい」
「(テンション下がりすぎっ!)」
「(こんな効果は想定していないのです!)」
ともあれ、もう1度【鑑定石】を使ってみる。
・ユリアナ【鬱】:レベル5
HP 53/53 MP 0/2
種族:獣人(狼) 属性:地 職業:店員
筋力:25
敏捷:31
体力:22
魔力:1
器用:11
幸運:1
スキル:【格闘Ⅰ】【身体能力向上】【獣化】
「う~む。【MP】が0になっているな」
「分かりやすく【鬱】になっているのです」
それから更に10分が経過するとユリアナは元に戻った。
「つまり10分間激的に強くなって、効果が切れると10分間【鬱状態】になるのか」
「面白いのです!」
「……私で実験しないでください」
「致命的な副作用がなくて良かったじゃん」
「……結果論ですよね?」
「 「 ………… 」 」
俺とユヒメはユリアナから視線を逸らした。
「余り知られていませんが【力のポーション】と【俊敏のポーション】を同時に飲むと【倍化のポーション】と呼ばれていて【HP】と【筋力】と【俊敏】が上昇した上に戦闘スキルが強化されます。追い詰められた冒険者が使う切り札のようなものですな」
「へぇ~」
「但し、使用後は一定時間戦闘が出来ない状態になるので使用には注意が必要です」
今日も今日とて【組合長】から色々と情報を教えて貰う事になった。
2つの【ポーション】を組み合わせる事で効果が変わる物があるとは知らなかった。
「ちなみに【倍化】と名称されていますが本当に倍になる事は滅多にありませんし、使用後の戦闘不能状態も通常なら1時間はそのままのようですよ」
「……【力のポーション】と【俊敏のポーション】を3セットで【銀貨】25枚でどうでしょうか?」
「20枚が良いですな」
「むぐぅっ……分かりました」
通常1本【銀貨】8枚なのでかなり値切られた。
この爺さんからの情報は助かるけど相変わらず高くつくわぁ~。
「ともあれ、いざという時のためにユリアナは【倍化ポーションセット】を1組持っていてくれ」
「わ、分かりました」
例の【鬱】を経験したからか俺から2つの【ポーション】を受け取る動きは緩慢だった。
「これを飲むような事態は……来ないと良いなぁ~」
ユリアナは憂鬱そうに【倍化ポーションセット】を眺めていた。
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