第5話【なんだかんだで店長になりました】
現在の俺達3人のステータスを纏めてみると……。
・佐々木俊和:レベル2
HP 12/12 MP 2300000/2300000
種族:人間 属性:無 職業:店長
筋力:6
敏捷:5
体力:6
魔力:999
器用:12
幸運:0.5
スキル:【無属性魔法EX】【エンゲージ】
・ユヒメ:レベル3
HP 23/23 MP 3/3
種族:ドリアード 属性:植物 職業:調薬師
筋力:13
敏捷:3
体力:12
魔力:2
器用:16
幸運:9
スキル:【調薬Ⅲ】【植物練成】【植物魔法Ⅰ】【吸収】【エンゲージ】
・ユリアナ:レベル5
HP 53/53 MP 2/2
種族:獣人(狼) 属性:地 職業:店員
筋力:25
敏捷:31
体力:22
魔力:1
器用:11
幸運:1
スキル:【格闘Ⅰ】【身体能力向上】【獣化】
「おぉ……俺の職業が【店長】になっている」
「わ、私は【店員】になりました」
「ヒメは【調薬師】のままなのです」
考えてみれば俺が店を作って経営している訳だから【店長】になるのは当たり前だし、ユリアナも正式に雇われたのだから【店員】になるに決まっている。
ユヒメは寧ろ【調薬師】以外の何になるんだ? って話だし。
「あの……店長の【魔力】と【MP】の数値っておかしくありません?」
「寧ろ、おかしいのは俺とユリアナの【幸運】の数値だと思うんだが……」
「それを言うならヒメとユリちゃんの【魔力】と【MP】もおかしいと思うです!」
とりあえず色々と情報を共有する事になった。
◇
「むぅ~……」
ユヒメが【薬草】を両手に挟んで集中している。
俺はユヒメの両手の下に【無属性魔法】で作り出したビンを受け皿として構えて薬が出来るのを待ち構えている。
そうして暫く時間が経過して……。
「……はむっ」
「あ」
「もぐもぐもぐ……」
ユヒメは両手に挟んでいた【薬草】を口の中に放り込んでモグモグと咀嚼し始めた。
「んべぇ~っ……」
そうして完成した薬――【ハイポーション】を俺が持っているビンの中に吐き出した。
「えっと……ユヒメさん?」
「し、仕方ないのです! やっぱり最初はこうやって作らないと感覚が掴めないのです!」
「そうなのかぁ~」
仕方ないので俺以外に飲ませる気の無い【オリジナル・ハイポーション】――黄緑色の液体をグイっと飲み干す。
「ぷはぁっ。うん、ユヒメの味がする」
「あわわ……やっぱり恥ずかしいのです」
こうしてユヒメが【ハイポーション】を作れるようになったので【ヒメ&トシのお店】には次の日から【ハイポーション】が並ぶようになった。
【HP回復ハイポーション】状態:良質
うん。流石ユヒメの作った【ハイポーション】は良質だ。
あ。感覚を掴んだユヒメは普通に【薬草】を両手に挟んで作れるようになった事を念の為に言っておく。
現在、俺達の店に並んでいる商品は……。
【HP回復ポーション】状態:良質
概要:【HP】を100前後回復させる。
【解毒ポーション】状態:良質
概要:【毒状態】を正常に戻す。
【解痺ポーション】状態:良質
概要:【麻痺状態】を正常に戻す。
【解石ポーション】状態:良質
概要:【石化状態】を正常に戻す。
【治癒ポーション】状態:良質
概要:【病気状態】を正常に戻す。
【解熱ポーション】状態:良質
概要:【高熱状態】を正常に戻す。
【HP回復ハイポーション】状態:良質
概要:【HP】を300前後回復させる。
以上の7種類だ。
これは【ポーション屋】としてのラインナップとしては少ない方だが、それでも全ての商品が【良質】であるのはユヒメがいかに【調薬】と真剣に向かい合っているかの結果だろう。
「適当に作ってもトシさんの【MP】を沢山使うと【良質】になるのです」
「……台無しだよ」
ユヒメが言うには【ポーション】の質は作る時にどのくらい【MP】をつぎ込んかの割合によって左右されるらしい。
もっとも俺が調べた結果によると、どれだけ【MP】を注ぎ込もうと通常の【調薬師】では状態【普通】までがやっとで【良質】が出来るなんて100本に1本出来れば良い方らしい。
どうやら【ドリアード】の種族特性として【調薬】とは相性が良いらしい。
「次は【MP回復ポーション】を作れるようになるのです!」
「ああ。【調薬Ⅳ】になると出来るんだっけ?」
「そうなのです! このまま沢山【ポーション】を作っていけばいずれ【調薬】のレベルが上がって作れるようになるのです!」
「うんうん。沢山【ちゅ~ちゅ~】して頑張ろうな」
「あう……はいなのです」
どの道、ユヒメの【MP】では【ポーション】1本作れないので俺の協力は不可欠だ。
「…………」
もしもユヒメが1人で【ポーション】を作れるようになったら俺は物凄~く寂しいと思うようになるけどな!
◇
お店の方は順調だった。
美人で獣人のお姉さんが店員を勤めるようになって益々売り上げが伸びてきた。
「あっ……!」
【幸運】が低いドジなお姉さんなので時々商品を落としてしまうが、そんな事では俺が【無属性魔法】で作ったビンは割れない強度で作ってある。
衝撃には弱いと言っても床に落としたくらいじゃ問題ない。
問題ないが……。
「落ち着いて接客するように」
「は、はい。ごめんなさい」
反省はして貰わないと困る。
ちなみに美人でドジな獣人のお姉さん事、ユリアナの給料は月に【銀貨】10枚と決められた。
日本円に換算して月収10万円というのはあまり高くは見えないが、この世界だと一般人の月収が【銀貨】5枚というのもざらしいのでユリアナは大分稼いでいるという事になる。
お店が繁盛しているという事もあるが、養う家族が多いユリアナを援助する為の一因もないとは言い切れない。
「お陰で月に1度くらいはお肉が食べられるようになりました♪」
「へぇ~」
ユリアナは【狼の獣人】なので野菜よりも肉の方が好きらしい。
「ところでユヒメさん。店員のユリアナが月に1度は肉を食っているのに、どうして俺は毎日野菜なのでしょうか?」
「トシさんには毎日ヒメの作った野菜を食べて欲しいのです♪」
「……ユヒメの作った【キュウリ】美味しいです。ポリポリ」
うん。本当に美味しいよ。
美味しいんだけど――偶には俺も肉が食べたいです。
◇
今更だが王都で店を出す場合【王都出店許可証】というものが必要になる。
更にいうと【商業ギルド】というものが存在し、それに加入する事を推奨される。
しかし王都のお店で【王都出店許可証】を持つ公的なお店なんて半分にも満たないし、【商業ギルド】に加入している店なんて3割以下だ。
理由は単純で【王都出店許可証】を取得したり【商業ギルド】に加入するメリットが何も無いからだ。
寧ろ毎年のように店の売り上げの半分以上を国に持っていかれる事になるのでデメリットの方が遥かに大きい。
今の王都で【王都出店許可証】を持っているのは王族と直接取引出来る立場に居る者か――もしくは騙されて取得させられた者だけだ。
俺を勝手に召喚した上に、役に立たないと分かると即座に追放した国なので信用などしていなかったが――予想以上に酷い国だった。
そんなに酷い国なら何故【王都出店許可証】を全ての店に強制してこないのかって?
それは【王都出店許可証】を出している役人や【商業ギルド】に対抗する組織――【商人組合】の存在があるからだ。
この【商人組合】は王国が商人の店に理不尽な行動を取った場合、王国に対して流通を操作して財政を圧迫させる事を盾に対抗する組織であり、お店を護ってくれる組織だ。
無論、俺とユヒメの店もこの【商人組合】に加入している。
年会費は【金貨】1枚と結構割高だが、それでも【店を護ってくれる】という保証はありがたい。
金だけ取って行って何もしてくれない【王都出店許可証】や【商業ギルド】に比べたら雲泥の差だ。
「あ。これです! 私はこの書類にサインさせられて孤児院を潰されてしまったのです!」
で。ユリアナの孤児院が潰れた理由は【王都出店許可証】と【商業ギルド】に加入してしまった事が原因だった。
元々少なかった孤児院の資産を全て持って行かれた上に、孤児院を借金の型として潰されて別の施設が建てられてしまった。
「孤児院は【店】じゃないだろうに」
「一応、皆で奉仕活動をしてお金を稼いでいたので、それを理由に書類にサインさせられました」
「……最低なのです」
ユリアナはションボリして、ユヒメは憤慨している。
「本当。この国の上の奴はろくな事しないなぁ」
今更だが、この国で店を出した事は失敗だったかもしれない。
「こんにちは」
その日、俺達の店に1人の片眼鏡を掛けた老紳士がやってきた。
「これはシバリエ様。ようこそいらっしゃいました」
その老紳士こそ【商人組合】の元締めにして王都で最も大きな商店の支配人を勤めるシバリエ老人だった。
「なかなか繁盛しているようですな」
「お陰様で」
「ほほぉ、これは【ハイポーション】ですな。素晴らしい品質です」
「……店の品を片っ端から【鑑定】するのは勘弁してください」
通常、人だろうとアイテムだろうと鑑定する為には【鑑定石】が必要になる。
けれど、この老人が装備している片眼鏡は【鑑定の片眼鏡】と言って、そのレンズを通して見るだけで何でも鑑定出来てしまうレアアイテムだった。
ちなみに【鑑定石】は比較的安価で手に入るが、この【鑑定の片眼鏡】は金を出せば手に入るような代物じゃない。
何でも【オークション】に出品されていた物を相当な高額で落札したというのだから今の俺達には手も足も出ない。
「ところで【王家】や【商業ギルド】からは何かありませんでしたかな?」
「相変わらずちょっかいは掛けられていますが【商人組合】のお陰でどうにか追い返せています。【商人組合】様々ですよ」
「ほっほっほ。お役に立てているなら行幸ですな」
まぁ【商人組合】は兎も角、この爺さんは食えない奴なので油断は禁物だ。
「それより、そろそろ【例の件】は考えていただけましたかな?」
「何度も言いますがウチの主力商品は【ポーション】であって、その【容器】ではないのですよ」
「惜しいですな。あれほどの品なら貴族相手に相当な額で売れますのに」
「…………」
「入手経路だけでも教えていただければ私の方で取り持つ事も出来ますぞ」
「……【ポーション】をお買い上げいただければ、その容器もご自由にお調べください」
「それでは新作の【ハイポーション】を頂きましょう」
まぁ、この爺さんの片眼鏡には俺のステータスも表示されている訳だし、俺が膨大な【MP】を持っている事も【無属性魔法EX】なのもバレバレだ。
結果として【ポーションの容器】を作るには俺の膨大な【MP】と【無属性魔法EX】の両方が必要だとは分かっているのだろう。
だからこそ俺に対して幾度も打診しておいて、その内俺が窮地に陥って助けを求めた際に【対価】として俺の魔法で作った品の独占販売権を手に入れる気なのだ。
本当。食えない爺さんだ。
「ちなみに、この店の【ポーション】が人気なのは品質が良いだけではなく、味も良く飲みやすい事も上げられているのはご存知ですかな?」
「それは……知りませんでした。他の店の【ポーション】は飲みにくいのですか?」
「ハッキリ言って……不味いです」
「…………」
ユヒメの作る【ポーション】は何度か飲んだ事があるが、普通の飲み物として出しても問題ないくらい美味しかった。
それが普通だと思っていたが――そうか普通の【ポーション】って不味いのか。
「教えて頂きありがとうございました。早速宣伝の張り紙を表示しておく事にします」
「ほっほっほ。ところで、この【ハイポーション】のお値段なのですが……」
「……5本を【銀貨】15枚でどうでしょう?」
「良いお値段です」
通常1本【銀貨】5枚の【ハイポーション】を情報と引き換えに相当値引きさせられた。
え? 情報料なら只にすれば良いのにって?
この爺さんは【只より高いものは無い】って良く知っているんだよ。
値引きは兎も角、無料にされて借りを作る事だけは絶対にしない主義なのだ。
本気に食えない爺さんだなっ!
「組合長さん、相変わらずですね」
爺さんが帰った後、俺と爺さんのやりとりを見ていたユリアナがゲンナリしていた。
一応、あの爺さんにもユリアナの事は看板娘として紹介しておいたのだが、その時に色々あってユリアナは爺さんに苦手意識を持っているらしい。
あの爺さんに対して苦手意識を持たない奴なんて俺は1人も知らないけどな!
「でも店長の作る容器ってそんなに凄い物なんですか?」
「この世界だと硝子製品は高級品だからな。その代わりになる俺の魔法はさぞ魅力的に見えるんだろう」
しかも、この世界だとガラスの製造技術が未発達なので【透明なガラス】というのが作れない。
その為、基本的に【ポーション】の容器に使われるのは木製品か、良くても陶器になってしまうので外からは中身が見えない。
色々と工夫はしているが万が一混ざってしまった場合、中身を態々確認して仕分けしないといけないので大変な手間になる。
その点、俺の作る容器は透明で中身が一目瞭然なので、外から色だけで【ポーション】の種類を確認出来る大きな利点がある。
「ひょっとして……店長が魔法で作った容器の方が儲かるんじゃないでしょうか?」
「俺はユヒメの【ポーション】を売りやすくする為に容器を作っているのであって、俺の容器を売り物にする気は更々無いね」
俺はユヒメに命を助けて貰った恩に報いる為の手伝いをしているのであって、唯金を儲ける行為には興味がない。
「店長は意外と義理堅い人なのですね」
「お前は違うのか?」
「私ですか? 私は……弟達と妹達の生活が最優先ですが……助けて頂いた恩は必ずお返しします」
「だろ?」
ああ見えてユヒメは結構人望があるのだ。
「……私を助けてくれた人には店長も含まれるのですよ?」
「…………」
まぁ、そっちはユリアナの問題なので俺が考えるべき事じゃない。
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