異能狩り

美作為朝

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 2016/04/12火曜日、夕方、16:43、新宿駅、到着。相変わらず、昼夜逆転で朝は超苦手。というか、寝てる。しかも、生計を立てるための夜間バイトがそれに拍車をかけ更に進み、昼夜再逆転になることすらある。

 最近、どんどん日が長くなって、この時間でもまだ昼間の感覚。新宿はとにかく人が多い。平日とは思えいないぐらいだ。

 大学生なら、今頃家にかえるのかな、とか素朴に思う。


 "連絡レンラク"が俺に回ってきたのは、一週間ほど前のバイトの空き番の夜中。"共感キョウカン"は、一般人のみなさんが思っているほどおもしろかったり楽しいことではない。大体、ものすごい苦痛を補う刺激で始まることが多い。それも強烈なやつだ。

 小さい頃は、よくその刺激で家や学校で倒れ込んだものだ。担任の教師はあわてて保健室に俺を運ぶものの、数分も立たないうちにケロッとして治る俺に保健の先生は、精密検査を勧めるだけだった。

 おもしろくもなんともない深夜のバラエティと海外ドラマをパラレルにCMのたびにチャンネルを変えながらぼーっと眺めているときにそれはやってきた。

 頭を金属棒で貫くような痛みと刺激、目がチカチカした。

『ヒロカト、逃走、脱走、始末、確定』

 <異能抜け>が出たらしい。

 "連絡レンラク"から外れ呼び出しに答えない異能は全員残らず、<異能抜け>となる。

 <異能抜け>は、一人残らず、始末しないといけない、我らの眷属けんぞく、能力を同じくする異能の手よって。

 自らの意志で、望み<異能抜け>に成る者もいるが、ときには、躰の事情だけで、<異能抜け>になるもののいる。

 哀れの他極まりない。明らかに病んだ目でこちらを見て、怯え、歯噛みだけして睨みつけている。異能の中のある種、病気なのだ、治療が必要なのかもしれない。異能の中の医者によって。

 しかし、我ら異能は、そんなことは許されていない、そもそも我々など存在しない前提でこの世の中は回っているのだ、このまま異能などいないままにして置かなければいけない。


 新宿駅、人混みの中、南口へ回る。インベーダーのマークが大きく象られた"ダイトーゲーム・ワールド"地下二階、地上八階の大きな建物だ。

 昨日バイトの帰りに朝、10時頃寄って、実は"あたり"をつけておいたのだ。

 入店して、八階からずーっと地下二階まで一通り流すつもりだったが、あっという間に"あたり"はすぐにやってきた。

『$%ぎゃぎぐうごのひゃっけれまっれいる%$』

 馬鹿なやつだ。こんな大っぴらに"共感キョウカン"を使っているとは、、。皮肉なことに力の強いものほど、力の及ぶ範囲が大きく、見つけやすい。

 俺が自身がバイトで疲れていることもあり、中で鉢合せになっても事なので、その日は避けておいた。

 そして、今日。八階建てのゲームセンターの店に入る直前に軽く、パッシヴで共感を拾う。

『$%ぼうぎゃえあい%$』

 今日も<異能抜け>は居る。

『今、始末』

『了解』

 同じ異能の誰かが拾う。

 俺は、最後の共感を仲間の誰かへ流し、店の中へ。

 もう、共感は使えない。こちらの居場所を知られてしまうからだ。

 異能が異能を始末しに行くことを。

 建物の外からでも感じ取れるぐらいの力だ。店内の位置までだいたい分かる。

 店内に入ると、エスカレーターは使わず、店の奥の階段でざっと八階まで一度行ってワン・フロワーずつ流したい、そしていたら、共感を一度だけ流し、反応させ、できれば階段や人目のないところに異能抜けをもっていきたいが、そんな余裕はないかもしれない。

 そこで、始末する。

 ゲームセンターは、大体ゲーム機を置く方法が決まっている。広く大きな客層を挑める機器は、一階や表へ。

 コアなゲームほど、店の奥へと決まっている。

 それと、人目をはばかるスロットやメダルゲームも人目もはばかる醜い客が集まるので奥の奥へ。

 ゲームセンター開闢以来の永遠の法則。

 日本一の都市、東京。色々と性格のある小さなまちが寄り集まって東京という都市をかたどっているともいえるのだが、その中でも最大の歓楽地区、歓楽街の新宿のゲームセンターだ。中の人間も驚くほど雑多だ。

 外回りの営業と称して、早めに仕事をまとめたのかもしれないが、ネクタイを緩く締め、スーツのまま夕方5時前にゲーム機に向かうサラリーマン。

 年齢不詳、職業不詳の太め女性、躰がスナック菓子の袋に似ている。

 あまりにも厳しい現実にすべてを諦めたかのような、ゲーム機にそぐわない老人。

 幼児をかえりみずゲームに興じる髪の毛の色だけは若い母親。

 しかし、やはり一番多いのは、パチンコですってしまうほどの金は持っていない若い男性と若い女性。大学生に予備校生、制服のままの高校生。

 そして異能。

 自慢じゃないが、おれも、今までいろんな異能に会ってきた、異能に傾向があるかといえば、これが、まったくない。

 極々普通の人間が偶々たまたま異能な力をもっているにすぎない。

 三つ四つの幼児だったこともあれば、過度に過敏な中学生。フリーター。主婦。サラリーマン。キャバ嬢。スナックのママ。無職の中年。タクシー運転手。警察官。お薬手帳をもち補助歩行器を持った老人。化粧だけは一流の世田谷あたりの小富豪婦人。

 気をつけたほうがいい、どこにでもいるすぐ隣のそいつやあいつが、そのまま異能を使えるのだから。

 おれもそんな一人なのだ。

 だからこのことは、誰にもバレてはいけないし、このまま異能は異能のまま、マイノリティとして普通の人々の邪魔をせずにやっていかないといけない。

 今までの歴史の中で、権力者そのものやその近くに異能がいた事があったかもしれない。

 しかし、それは、この今からおこる異能狩りによって、同じ異能により的確に狩られてきたはずだ。だから、すくなくとも、いまのところ、歴史には記されていないし、これからも、、いや先のことなど知らないし、分からない。

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