第5章 萌えの未来
最後に萌えの未来を考える。
萌えの今後を考えるとき、参考になるのはロリコン漫画だろう。
80年代のロリコンブームを見ると、二つの流れが見える。
一つは実写のロリコン雑誌(未成人ヌード)である。
これも本来は自然主義的な美術目的だったものが、だんだんと性的な目的の雑誌に変わった。
これが規制を受け、淘汰されたために「レモンピープル」などの二次元のロリコン漫画に流れた。
もう一つはエロ劇画である。
当時のエロ漫画はほとんどが劇画調の濃いタッチばかりだったために、
淡いタッチのロリコン漫画がエロ漫画の新風となった。
今の萌えの源流もこのロリコンブームが背景にあると思える。
萌えはロリータに限定されたものではないため、より幅広いと言えるが、
ロリコンが本来性目的ではなかったのに徐々にエロに侵食されたように
萌えも同様にエロに侵食されている現状がある。
こうした現状を7年前の萌えオタの友人は危惧していたのだったが、
そんな彼もついにエロ同人を描くという。
「エロ過ぎるのは萌えではない」という考え方はもう古いのかも知れない。
オタク層が広がり、萌えの拡大解釈が広まった事で
皮肉にも萌えブームによって萌えオタが自滅しようとしているのだ。
これはSFオタクがガンダム以降拡大したSFに飲まれ消え去ったのとよく似ている。
規制を受けてもなお、実写がダメなら漫画で描くと言う人間のエロスへの探求心は底知れぬものがあるが、
2010年の青少年保護育成条例改正によって「非実在青少年」という言葉が盛んに報じられるようになった。
こうして実在しない未成年キャラの性描写も規制されることになった。
しかし、漫画において成人、未成年の区別は現実的に可能なのか疑問だ。
条例改正の影響は現状でさほど大きくなっていないが、
2020年東京五輪に向けて間違いなく再熱すると思われる。
また東京ビッグサイトが東京五輪の前後期間使用ができなくなり、コミケの開催が危ぶまれている問題もあり、やはり東京五輪が一つのターニングポイントと言える。
本来、日本の社会はエロに寛容ではあるが、オリンピックという国際的イベントを前にして欧米並みの規制を求められているのである。
一方で、政府が「クールジャパン」として海外市場向けに漫画やアニメをバックアップして売り込もうという姿勢もある。
「萌え」の輸出は政府を介さずともネットを通じて世界に広がっており、
他方では反日の中国に対する「日本鬼子」や日本人拘束のイスラム国に対する「ISISちゃん」など「描く兵器」として萌えが平和的な武器として使われている。
こうした中で、一般企業や自治体もビジネスとして萌えキャラを作ってきたが、
やはり「性」の部分が強調して世間に伝わり、「女性差別」などと意図しない反発を産んでおり、国内でもこの有様であるからして萌えの普及には限界が見える。
萌えの拡大がどこまで進むかは未知数だが、
ブームというのは一時的なものであるし、言葉も時代とともに移りゆく。
ここ最近を見ると日常系からある程度のテーマ性を持った作品が増えており、
萌えブーム自体は終息に向かう予感がする。
そのきっかけが2010年の青少年保護育成条例改正であり、
2011年の東日本大震災であり、2020年の東京オリンピックかも知れない。
しかし、漫画やアニメの歴史において今まで規制がなかったわけではない。
むしろサブカルチャーとは本来カウンターカルチャー(対抗文化)であり、
規制との戦いによって、生まれた文化である。
人々が創作物における情熱を忘れない限り、その本義は守られるだろう。
そして、一般に浸透して萌えが特別なものではなくなった時、
初めて「萌え」は「わび・さび」のような日本的美徳となるのかもしれない。
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