Log 99900-N 『オクリ花の断章:不明な世界線に関する調査記録』

【Log-99900 : 店内カウンター席に残されていたメモ】

一城の主は狂気と咬吧水仙ジャガタラスイセンの海の底

貧者に贈るは溢れるほどの蛇結茨ジャケツイバラ

流浪の民の黄泉路は馬酔木アセビの恋よ

代理子の行く道に雪柳ユキヤナギ鋸草ノコギリソウの祝福を

魔法使いが白撫子シロナデシコに匂い立てば

時を刻む娘の行く先を泰山木タイサンボクが飾る

なあそこの人足よ

お前は青き蝦夷菊エゾギクになりうるか


月桂樹ゲッケイジュを手折れ惨憺たる老探偵

糸繰草イトクリソウに報われぬ医者を見ゆ

吾亦紅ワレモコウの道に卜占の徒と柔弱な古強者は立ち

濁り雑る愛は連理の花に門出を謳う

少年の努力は筆の花に葉薊ハアザミを咲かせ

幸運の泣き虫は戦場の薄雪草ウスユキソウ

墓守たちの誓いは百日草ヒャクニチソウの花園で

血塗れた胸に抱く形見の風信子フウシンシ

勇気ある通信官よ、沈丁花ジンチョウゲの如くあれ

罪科の権化に溺れるほどの待雪草マツユキソウ

月夜の下で付き人の

棺桶には千寿菊センジュギクを一輪


娘の呪いは幾千夜を結び

欠けた魂が其と縁を繋ぐ

荒野に惑う手を取れ少女

太陽の墓地へ共にゆく時

断罪者は七竈ナナカマドの枝を断つ


二輪の紫苑に想うは誰ぞ?



 〔当店バーカウンターにて、ショットグラスの下敷きになっていたメモを回収したものです。メモは一般的なパルプ紙に手書きで書かれたものですが、メモの販売元・筆跡・指紋のいずれも手持ちのデータベースには該当がありませんでした。

 当ログが未知の世界線由来である場合、当店の出入りシステムに重大なエラーが発生している可能性があります。現在当ログに関するあらゆる情報を募集中です。お心当たりのある場合は私までお声掛け下さい。 :マスター〕

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