ヤバい金の斧銀の斧

「あっ、やべぇ」


 チャプン。


 男は手を滑らして何かを落としてしまった。

 すると、男の目の前にあった泉がまばゆい光を放ち、ゴボゴボと音を立てながら中から何かがせり上がってきた。


「えっ? マ、マジ?」


 それは人だった。

 それもこの世の者とは思えぬ程の美しい美女。

 同じくこの世の物とは思えぬ程の美しいシルクの布をその身にまとい、微かに光を放っているようにも見えた。

 男はあまりの驚きに瞬きするのも忘れて、その美女を凝視し続けた。

 その美女も度が過ぎる男の熱視線に一瞬たじろいだが、自らの使命を思い出し、ビジネスライクに言葉を語り出した。


「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?それともこの銀の斧ですか?」


 しかし、男はまだ美女そのものを凝視し続けるだけで、彼女が両手に持っている物には目もくれない。

 男はあまりの驚きに瞬きするのも忘れて、その美女を凝視し続けた。

 その美女も度が過ぎる男の熱視線に一瞬たじろいだが、自らの使命を思い出し、ビジネスライクに言葉を語り出した。


「あなたが落としたのはこの金の斧ですか?それともこの銀の斧ですか?」


 しかし、男はまだ美女そのものを凝視し続けるだけで、彼女が両手に持っている物には目もくれない。


「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それともこの銀の斧ですか!?」


 返事をする様子の無い男に向かい、同じ言葉を繰り返す美女。

 その語気も荒くなる。

 しかし、男はまだ惚けた様子で答えようとしない。

 何ならニヤついてるようにも見える男の態度に対して美女の苛立ちは高まっていく。


「ちょっと聞いてるのあなた!? どっちなの? 金なの? 銀なの? はっきりしなさい!」


 すると、美女の一喝にハッと我に返った男がついに口を開いた。


「いいえ、どちらでも無いっス。もっと大事な物を落としたっス。それはオレっちの心……とか言っちゃったりして。てへへ。お姉さん、メチャクチャかわいいっスねぇ~。どこ住み? いまヒマ? よかったらお茶でも……」


 バスッ。

 コロコロコロ。

 

 森に響き渡る鋭利な音。

 同時に何かが転がる音。

 そして、美女は金の斧についた血を拭き取りながら、静かに泉の中へと帰って行った。



 〈了〉

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