114話「異世界転生」

「光らないなぁ……」

 瑞輝が胡坐をかいて座りながら、透明な、黄色味を帯びた丸い珠玉を見ながら眉をひそめた。

 瑞輝は今、魔力を誰かに受け渡す練習をしているのだが、これも複合魔法と同じで普段はしないような魔力の使い方をするので、どうにも上手くいかない。

「ええと……やり方はいいんだよなぁ……」

 瑞輝が傍らに置いてある本を手に取り、ぺらりとめくりはじめる。そして、しおりとして使っている、大きくて比較的丈夫な木の葉が挟まっているページを開くと、そのページを端から読み始めた。

「んん……魔力の受け渡し方法……」

 ページの半分はなんとなく理解できるが、もう半分は、どうにも難解だ。


「うーん……冬城さんって、やっぱり勉強家だったんだな。ああやって本から知識を吸収して、どんどん色々な呪いを試していったんだろうなぁ……」

 瑞輝が首を傾げながら、更に本を読み進める。

「よく理解できるよなぁ。普段から勉強する習慣が付いてるからなんだろうな……髪とか、茶髪に染めちゃって、いかにも不良なのに、人は見かけによらないよなぁ……」

 しまいには、魔力の受け渡しにも、本にも関係の無い事をブツブツと言いながら、結局理解できずに木の葉のしおりを挟み直して本を閉じた。

「ああー……難しい」

 瑞輝が本を持ったまま、両腕を斜め上にピンと伸ばして背筋を立て、大きく背伸びをする。


「瑞輝ちゃん、胡坐、みっともないよ」

 後ろから話しかけてきたのはエミナだ。

「ああ、ごめん、女の子だもんね。スカートも履いてるし」

 瑞輝が下を見ると、スカートの横から自分の細いふとももが、かなり深い部分までちらりと見えている。

 この世界の日常にも、だいぶ慣れてきたと、瑞輝は実感した。最近、こうやって一人でいる時は、時々、元の男の部分が出てしまうくらいに自然に過ごせるようになったからだ。

「えと……どうだった?」

「うん……瑞輝ちゃんの言う通り、また少し退行してるね。また、無茶な魔力の使い方、したの?」

「ちょっと、切羽詰まってて……」

「なんだか大変なのね、あっちの世界も」

「普通はそんなことないんだけど……なんか、最近普通の時が、あんまり無いような……でも、これでまた振り出しなのかぁ……」

 魔力が回復してきては、また初心者みたいな魔力の量に戻る。瑞輝はどうも、それを繰り返し過ぎている気がしてならなかった。

 エミナさんの方は順調に回復しているので、今ではエミナさんに、かなり差を付けられてしまっている。……僕は本当に、補助はあったといっても恐ろしい力を持った邪神を倒し、この世界を救った勇者なのかと本気で疑問を抱いてしまう。無理をした後遺症といっても、もっと強さが残ってもいいだろうに。


「また、少しずつ取り戻せばいいよ。魔力はあって困ることもないけど、無くたってどうにかなるものだし」

「そう……だね。向こうじゃ、また魔法は使いづらくなるけどなぁ……うーん……ダブルキャストなんて夢のまた夢かも……」

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