19話「空来が見た少女」
「何? うわっ!」
たった今、ようやく二人に追いついてT字路を曲がった空来は思わず目を瞑り、手の平で目を覆った。
「眩しい……何なの……?」
まだ目が開けられない。この強烈な光は一体どこから沸いたのか。空来は、どうにか今の状況を整理しようと試みている。
瑞輝君から沸いたように見えたけど……こんな強力なライトを持っていたようには見えなかった。いや……そもそも、こんなに激しい光を放つライトを一般人が所持し、持ち歩けるの?
短時間で、今の状況を理解できるわけはなく、戸惑い続けた。
「ん……」
やっと光が収まってきた。空来は恐る恐る目を開け、手の平の隙間から前の様子を見た。
「え……何……」
空来が完全に目を開け、手の平も目から外したときには、辺りは既に通常に戻っていた。光源といえば、街灯が辛うじて目の前の人物を照らしだしているくらいだ。
「どういうこと……?」
目の前に居る異様な人物は瑞輝ではない。と、空来が思った。瑞輝の居た場所に、代わりに見知らぬ女の人が居る。薄ピンクの長い髪をリボンでツインテールに纏めあげ、耳の前に下ろした髪は金色の輪っかで纏めている。制服は……うちの学校の制服だ。
「えと……」
声をかけようにも、彼女が何をしているのか分からない。
顔はやや上を向き、口はぽかんと開いていて、視線は空中の一点を見つめて瞬きはしていない。手はだらりと力なく垂れている。足はWの字に開いていて、腰をぺたんと地面に付ける形で座っている。
「あの……」
恐る恐る、空来が薄ピンクの女の子に近寄る。
この女の子は放心状態なのだろうか。こちらに気付く気配は無い。ティムちゃんや瑞輝君は近くに居ないのか。状況は全く飲み込めないが……取り敢えず、勇気を出して話しかけてみよう。空来は腹を決めた。
「えっと……大丈夫……ですか?」
「え……あ……」
女の子は、はっとしたように、一回びくりと体を震わせると、表情にも生気を取り戻した。
「空来さん……ティム……そうだ、ティム!」
瑞輝は叫び、急いでティムの元に駆け寄った。
まだ半分放心しているせいか、足元がおぼつかずにバタバタと走ったが、ティムのそばまで近づくと膝をついて、ティムの体を起こした。
「ティム!」
瑞輝が横たわっているティムを仰向けにしつつ、上半身を抱え起こした。
「あ……ぐ……」
「ああ……」
瑞輝の目に入ったのは、袈裟懸けに深く斬られているティムの胴体と、絶え間なく血が流れ出しているティムの口だった。
「ティ……ティム……」
「あの……もしかして瑞輝君……?」
声に反応して後ろを向くと、恐る恐る近寄る空来さんの姿が見えた。
「あ……空来さん! 救急車!」
「えっ?」
「救急車呼んで! ティムが……ティムが大変なんだ!」
「ああ……えっ、ティムちゃん……わ、分かったわ!」
空来さんが慌てながらも携帯電話を取り出した。瑞輝はその様子を見て少し落ち着いたのか、次にやる事を思いついた。
「……傷つきし闘士に癒しの光を……トリート!」
瑞輝が唱えると、瑞輝の手が柔らかく光りだした。瑞輝はその手をティムの傷の上に、そっとかざした。
「う……何だ……お前……誰だ……」
「僕だよ、ティム」
「ああ……そうか、瑞輝だったか……すまんな、視界が暗くてよく見えないんだ……怪物は……?」
「ああ……どうにか……なったよ」
「そうなのか……? 一体、どうやって……ボクのパンチが完全に入ったのに……奴の体をすり抜けて……う……グフッ……!」
「ティム、あんまり喋らないで。傷が開くから」
「治療してくれてるのか? 少し……楽になった気がするな」
「えと……応急処置だけど」
「そうなのか……すまんな、手間をかけさせて……後れをとってしまったみたいだ……我ながら不甲斐ない……」
「そんなことないよ。あれはきっと人間じゃないんだよ、多分。でもどっかに行っちゃったから安心して休みなよ、話なら後でいいから。もう少しで救急車も付くからさ」
「ああ……そうだな……しかし……不気味な……奴だった……な……」
ティムがそう言いながら、目を閉じた。気が抜けて気絶したのだろう。
「ティム……僕は……」
魔法のおかげで助かったのか、それとも魔法のせいで傷ついたのか……瑞輝はティムを抱き、絶え間なくトリートをかけながら考えた。
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