ペネトラと12の記憶
アーモンド
第1部
第1話 序
ふわりと涼やかな風が吹いて、窓辺に吊るした鳥籠の中、ピチチと、ほんのり赤い羽が鳴いた。
・・・果実鳥(かじつちょう)、といわれるそれはその名が示す通り果物の芳香を体から放つ、大人しい鳥である。
普段鳴き声など聞かせてくれないのに。
ペネトラはそう思いつつも、また手元の厚い本に意識を戻した。
紙面に置かれた花弁(はなびら)が、はらはらと揺れる。
「ペネトラ」
と、凛とした女声が部屋に響いた。
花弁は何かあったのか、とでも言うように動きを止めた。
「何故力を使うの。人に見られたら、貴女を書き換えなければいけないのよ」
「・・・はい」
ペネトラは申し訳無さそうに本を閉じた。
バタン。大きな音と共に、彼女の物語はいつも終わってしまうのだ。
それはいつもと同じで、ほんの少し違った。
「・・・ママ」
「何?」
「私、旅したい」
ペネトラは絶対に『駄目』と言われると思っていた。
だが。
「・・・駄目よ」
だがその予想は、奇しくも当たってしまった。
「貴女が行ける訳無いでしょう。もし許したとして、何処へ行こうというの?」
どうせ世界を知らない、子供のくせに。
言われてこそいないが、いつもペネトラの母はそう心の中で思っているのだ。
産まれてからこの十年、一度とて外へ出してくれなかったのだから知らぬのは当然なのだが、それを仕向けている事に責任を感じていないのだから嫌になる。
「諦めなさい。貴女は外へ出ていけない。
・・・私は買い物に行くわ。留守番していなさい」
と言ってドアを乱暴に閉め、母は家を空けた。
ペネトラは、首の辺りに障る鉄の感触に憂鬱になりつつも、意思はより強固になっていった。
「・・・絶対、出るもん」
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