青春20きっぷ

那岐ヒロカ

第1話

今日も誰かが死んだ。

急行の電車が通過するタイミングでホームから誰かが飛び降りたらしい。

改札口の頭上にある電光掲示板が赤く光り、人身事故による運転見合わせを知らせるテロップが終始流れている。

月曜日の朝、出勤・通学ラッシュのピーク帯。

駅は多くの背広や制服を着た人々でごった返している。

携帯電話を取り出して連絡するサラリーマン、時計を見ながら舌打ちをするOL、友人同士で騒ぐ高校生、自主休講だと喜ぶ大学生。

人身事故が起きた時の光景に見慣れてしまった自分がいることに気づく。


九州から上京して二年が経ち、林田佑莉葉は大学三年生になった。

方言はすっかり取れ、二年前のようなあどけなさや田舎者感を大分拭い去った。

週の初めには人生に絶望しホームに飛び込んでいく者がいるということが日常の中で当たり前になった。


東京の人は冷たい。

自ら命を絶った者を気の毒に思う声が、駅のどこからも聞こえてこない。

今朝どんな思いで起きたのだろうか。

家族は知っているのだろうか。

なぜ死のうと思ったのだろうか。

ホームの黄色い線を越えて通過する電車に飛び込む瞬間の心境はどのようなものだったのだろうか。

そんなことを考えて生きている人がどれだけいるのだろうか。

沢山の人の命を吸い込んでいく東京が嫌いだ。


そんな綺麗事を頭の中で並べながら、今日も街の雑踏に埋もれていく。

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