弾数無限の射撃無双 ~ワンマンアーミーでエルフの里を救います
狐谷まどか
プロローグ
1 ヘリ墜落からはじまる異世界転移
その日、船坂弘太郎はとある新作ゲームを会社の帰りに購入した。
「ビール良し、おつまみ良し、ゲーム中に食べる食料の買い込み良し! ピースメイキングカンパニーの最新作、いつでもプレイ準備良し!!」
さっそく自宅に帰り着くと、パッケージの梱包を解いてパソコンデスクの前に座る。
以前からネットのゲームプレイ動画が人気になっていたFPSジャンルのゲームだった。
FPSとは、プレイヤー視点で主人公が銃火器を使いながら敵を倒していくタイプのゲームだ。
もともと船坂は軽くミリタリーオタクに足を突っ込んでいたり、サバイバルゲームなどには興味があって、トイガンと呼ばれる電動で動くアサルトライフルなどは船坂の自宅にもある。
このシリーズの最新作が発表されたのを契機に、俺もやってみようと体験版をダウンロードしたところ、船坂はこのゲームにアッサリとハマってしまった。
「まあちょうど今日から三連休だしな。いいタイミングで発売になったし、これも新しい事に挑戦するキッカケだ」
いそいそとパソコンを起動させながらスーツを脱いでハンガーラックにそれをかけると、船坂はパンツ一丁のまま改めてパソコンデスクに座り直した。
一兵士で戦う第二次世界大戦モノから特殊部隊が活躍する現代戦に、近未来のサイボーグ戦闘まで、このピースメイキングカンパニーのシリーズは様々なシチュエーションのものがあった。
キャンペーンモードではストーリーに沿ってソロプレイで複数シナリオを攻略する事ができる。
一方のマルチプレイモードでは、ネットの世界でつながったあらゆる地域のプレイヤーたちと、敵味方に分かれてチーム戦をする。
初心者の船坂が最初にやるのはストーリーを追いかけていくキャンペーンモードからだ。
「体験版の続きが気になるし、さっそくはじめるとするか……」
今作のキャンペーンモードは、最近流行りの特殊部隊の隊員が主人公となる現代不正規戦を扱った、アラビア半島や中央アジアを舞台に活躍するストーリーとは一線を画していた。
「異世界の魔法使いによって拉致された被害者を、政府の命令を受けた特殊部隊が救出奪還する任務、か……」
魔王復活を目指し、その世界の魔素によって汚染されていない魂を求めて、異世界人たちが魔法召喚術によって現代人を拉致していけにえに捧げようとしている。
主人公は特殊部隊の隊員となって、その異世界人を相手に銃火器を使って無双、拉致被害者を奪還するのだ。
激しい銃撃の行われるオープニングムービを眺めながら、船坂は缶ビールを一本取り出してプシュリとやった。
「最近アニメでも異世界と行き来したり、転生や転移する話が流行ってるもんな。いよいよFPSにもそういうシナリオが来たのも面白いぜ。よし! それじゃあイジーモード選択で予定通りキャンペーンシナリオ開始っと……」
ミリタリー系の趣味だけでなく、ラノベやアニメも大好きだった船坂だ。
両者のいいところが融合したピースメイキングカンパニー最新作をやろうと決断したのは、当然の流れだったのかも知れない。
選択画面を操作して、迷わず「異世界に拉致された被害者を奪還せよ」というシナリオを選択する。
そこでゲームはブリーフィング場面へと進んだのだった。
『お前たちタクスフォース・ジャンキーは、特殊拉致被害者の居場所を確認するために現地へ先行偵察に入る。場所はここ、エルフスタン北西部の地域だ。現地には敵勢力の他に少数民族たるエルフが生活をしているが、極力双方との接触は避ける様に。また強力なモンスターの存在も確認されている、これは相手にしたら確実に確実にこちらが負ける。相手はドラゴンというからな」
FPSにエルフやドラゴンという言葉が出てくるところがやはり新鮮だ!
船坂はパンイチでビールをグビリとやりながら、もう気分は高揚しっぱなしだった。
『現地調査には先行偵察チームの四人がCH-47で侵入し、ヘリボーンで降下する。リミットの三日以内に特殊拉致被害者の囚われた収容所を見つけ出し、タクスフォース・ジャンキー本隊の降下ポイントを確保しろ』
『大佐、連絡手段は?』
『二時間毎に無線で行え。二回続けて連絡が途絶えた場合は、作戦失敗とみなしてお前たちの救出のために即応部隊が強硬偵察を行う事になる』
暗がりのテント内部の風景が画面に映し出されている。
無言で食い入る様に見ていた船坂は、手だけでパソコンデスクにあったポテチの袋を漁って中身を口に運んだ。
『だがそうなれば特殊拉致被害者の奪還は永遠に不可能になるぜ』
『そういう事だ。だから慎重に収容所の位置を探り出して、迅速果断に拉致被害者を救い出す。情報提供をしてくれた現地協力者のコードネームは〝鱗裂き″だ。片目に眼帯をしていてノッポの女だから、見ればすぐにわかるはずだ。それから胸がでかい』
『ヒュウ~♪』
そんな説明を、迷彩服を着たヒグマみたいなヒゲ面マッチョの上官が行うと、つい船坂も登場キャラクターたちと一緒になって口笛を吹いてしまいそうになった。
しかし、気分は特殊部隊の一員のつもりだったが、船坂は急な睡魔に襲われる。
「やべえ、しばらく残業続きだったから疲れが出たのか。ビールを呑んだのは失敗だったかもな……」
意識が朦朧としはじめて、手に持ったゲームパッドを取りこぼしそうになる。
カクリ、カクリと頭が舟を漕ぎはじめたところで、船坂は意識を手放してしまったのである。
次に意識を取り戻した時は、船坂の体は激しい振動と騒音の中にいた。
重たい目蓋を持ち上げてみると、そこは何故かCH-47大型ヘリコプターのカーゴスペースだった。
後部ランプの半開きになっていて、目まぐるしく眼下の視界が遠くへ流れていくのが見える。
「あれ、俺もしかして寝落ちしちゃったのか? この振動と騒音がめっちゃ現実的なんですけど?!」
両手にはゲーム内で使用するメインウェポンのM-4カービン銃を抱いていて、隣には体験版でお馴染みのチームメイトが座っている。
船坂が混乱して独り言を口にしたところ、それに気が付いて彼の顔を覗き込んで来た。
「よう相棒、お目覚めかっ。まもなく降下三〇秒前だ、お前たち準備はいいな?!」
「大丈夫だ問題ない!」
チームメイトは荒々しく船坂のヘルメットを小突くと、立ち上がって仲間たちに合図を送った。
咄嗟に大丈夫だと返事をしてしまったが、体の感覚はちょっと夢とは思えないほどリアルである。
(夢の中でゲームの続きを体験するとか、俺はどんだけゲーム好きなんだよ!)
ヘリから見える風景は、暗闇の中の大森林地帯。
もしも夢の中でゲームの続きを体験しているのなら、このヘリは辺境の土地エルフスタン北西部を目指している事になる。
しかしこれがもし夢ならば、最高にリアルでやりたい放題だ。
初心者FPSプレイヤーがゲーム内で無双できる様になるのは時間がかかるし、まあ夢の中でイメージトレーニングだと思えばいい。
「降下三〇秒前、よし安全装具チェック!」
「「「了解!」」」
夢だとわかれば気楽なもので、仲間と一緒になって意味も無く船坂は応えてみる。
ヘリコプターの揺れに合わせて、緊張感がジワリと広がるのがわかった。
するとゲーム登場キャラたちがあわてた口調で何か言い合いを始める。
「おい、何か森の中で光ったぞ」
「どこだ、敵の攻撃か? まさか対戦車ロケット弾かよ」
「異世界にRPGなんてあるか、あれは魔法攻撃だぞ。ファイアボール!」
ゲーム登場キャラの誰かが力強く叫んだ瞬間に、視界の端に紅く燃える炎が迫るのが映り込む。
次の瞬間には一段と激しくヘリコプターが振動を繰り返し、夢のの臨場感を最高潮に誘導したのだ。
「おお、ここでヘリから振り落とされるところから始まるのか。ヘリは堕ちるもの、FPSの定番ですね」
知った風な口を利いて幸せ気分に浸っていられたのはここまでだ。
その直後には船坂自身の体にも恐ろしいほどの衝撃が発生して、そのまま激しく叩きつけられる様な感覚と、振り飛ばされる様な感覚が船坂を襲ったのだ。
「ちょ。いくらリアルな夢でも臨場感あり過ぎだろ?!」
ひゅんと体中に空気がぶち当たる妙な感触を覚えながら。
そのまま意識がブラックアウトした船坂弘太郎はゲーム画面の向こう側、異世界の大地に放り出されたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます