死にたがりアリスと不思議の国

アイキ

死にたがりアリスと不思議の国

 草木が生い茂る密林の奥深く。

 幼いアリスが一人佇んでいた。

 普段、綺麗に輝いているだろう緩くウェーブのかかった長い金髪は、土埃によって輝きを失わせ、寝癖のようにあらぬ方向に跳ね放題になっている。くりくりと可愛らしい瞳には涙を浮かばせ、今にも声をあげて泣き出してしまいそうな印象を見るものに与えていたのだった。

「ここは……?」

 その呟きは理性的な響きを孕んでいて、とても目の前にいる幼い少女から発せられたとは思えなかった。

 突然、アリスは怒ったような表情を浮かべたと思うと「だから、ここは何処と聞いているのよ? 案内人さん」と右の方を向きながら吐き捨てるように言った。

 すると、烏の顔をした三つ足のタキシード青年が驚きの表情を浮かべながら木々の隙間から出てきた。

「本当はあと一時間は出てきちゃいけないルールなんだけどね。なんで僕のことが分かったの?」

 アリスはその問いを聞いたとたんに怒りの表情を深め、岩を思いっきり投げつけるように答えた。

「二回目だからよ。なんでそんなに邪魔をするの」

「ああ、二回目だったか。じゃあ説明はいらないね……と言いたいところだけど、ルールで説明しないといけないって決まってるからさせてもらうよ」

「べつにいいわよ、ここは不思議の国。死にたかったら物語を終わらせ、でしょ?」

「そうアリス、君は選ばれたんだ」と八咫烏の青年は芝居がかったように両手を広げ近づいてきた。

「……なにが選ばれたよ? 人の邪魔ばかりして」

「しょうがないじゃないか、最近多いんだよ。君みたいな人間が」

 とてもとても僕たちだけじゃあ捌ききれないよ。とこれもまた芝居がかったように肩をすくませた。

「たしか地獄が一杯になったのよね?」

「そう。だからそう簡単に死なせられなくなったんだ」

 どうせ、死んでも生きても地獄なのだからね。

「ほら、また来たみたいだよ」

 アリスは慌てたように振り向いた。

 ──物語を終わらす上で同じ配役の人と会ってはいけない。

 物語の中で基本中の基本といっても良いルールだった。

「まずッ! 早く離れな……ッ!」

 アリスは素早くこの場から離れようとしたが「急に慌てて何処に行こうっていうんだ? まだチュートリアルは終わってないよ」と八咫烏が軽く指を鳴らすと、急に力が入らなくなったかのように倒れこんでしまった。

 そして、そのままアリスはアリスの目線に吸い込まれていき──

「残念、アリス。また待っているよ」

 ──目を覚ました。

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