異世界がこいっ!!!~日常での魔物の倒しかた教えます~

ねこざかな

プロローグ

平穏な日常。

その平穏が何なのかは人によって定義が異なる。

 例えば仕事終わりのビールを飲む瞬間

 例えば友人との遊びの時

 例えば定年をむかえ愛する妻と縁側で過ごす日々

どれも彼らにとっては平穏な日常に違いないのだ。

では僕にとっての平穏とは何だろうか?

僕にとっての平穏…それは…



「さて今日もブログの更新終わったぞ。」

 薄暗い部屋の中でパソコンをいじる男が一人。

 名を千田一夜せんだいちやという。年齢21歳、職業『自宅警備員』、天涯孤独。人生において負け組濃厚な生活をしていた。今は趣味で特技のゲームに関する知識と攻略情報をブログにまとめその広告収入でかろうじて食いつないでる始末だ。

「流石にブログで飯を食うのもそろそろ限界かぁ。ゲームは毎週数本は出てる。全部網羅したとしてもそのゲームを買うお金とそれに見合う記事を書いても割に合わないからなぁ…。」

 そう言いながらため息をつく。しかし高校中退の引きこもりである一夜にとって愚痴を聞いてくれるような友人はいない。お金を借りたりできる友人なんてもってのほかだった。


「考えても仕方ないか。飯食お、飯。」

 一夜はコンビニへ向かった。別に彼自身に料理スキルがないわけではない。ただ今日は作るのが億劫になっただけなのだ。

 もうすっかり夜も更けており街灯だけが薄気味悪く地面を照らしていた。都心部から少し外れているため車や人の通りはほぼなく犯罪に巻き込まれてもおかしくないような道通りだがコンビニに一番近い道だから一夜はこの道をよく通ってた。

「まぁ流石に僕が女だったらこんな道通りたくないけどね…。」

 そんなことを呟いてるうちにコンビニにたどり着いた。ここの店は店員の人相がとても悪く滅多と人が寄りつくことのない店なのだが一夜にとってはそれが逆にありがたいので愛用してる。


「おう兄ちゃん!いらっしゃい!」

「どうも。今日も相変わらず人がいませんね。」

「そうなんだよな…。なんでこんな人が来ないんだろうかねぇ。立地か!立地が悪いのか!?」

 どうやら自分のせいで客が来ないことに気づいていないらしい。

「頼むから潰れないでくださいよ。ここが一番近いんですから。」

 皮肉を言いながら一夜は店内を物色し始めた。

 いつも通りに陳列されてるいつもと同じ商品。その中にあるカップ麺とサイダーを適当にとるとレジへ向かう。

「いつもの貰えます?」

「はいよ、いつもの唐揚げ棒だぜ。」

そうしていつもと変わらない買い物をすませて一夜はコンビニを後にした。


 コンビニを出る瞬間。一夜は『違和感』を覚えた。それが何に対する違和感なのかはわからない、ひょっとしたら気のせいかもしれない。そんな些細な違和感を感じ取った。

「うん…?」

ひとまず辺りを見渡してみる。いつもと変わらない景色が一夜の視界に映っていた。

「気の…せい…か?」

 そう感じ一夜は自宅への道へと帰り始める。ただでさえ薄気味悪い街灯がより一層不気味にあかりをともしていた。行きと同じ道を通っているはずなのにまるで違う道を通っているようにも感じる。ここがファンタジーの世界ならクリーチャーが飛びかかってきそうな気配だ。


 どこからか遠吠えが聞こえる。普段なら気にも止めない一夜だったがこの日は何故か無性に気になって仕方がなかった。

「野良犬か?方向的に…通る道か…。」

一夜は身構えながら鳴き声の聞こえる方へ向かう。体を鍛えてたわけでもないため襲いかかる野良犬を追い返すほどの力など彼にはない。できれば何事もなく通りすぎたいと思った。

「確かこの辺りだったような…。」

 鳴き声のした辺りを通るがそれらしい影は見当たらない。どうやら移動したようだ、そう思い一夜は体の緊張を解す。

 その直後だった。辺りから轟音が響き渡る。

「な、なんだ!?」

大方この日本では聞くことのないような生物の鳴き声。そうそれはまるでサバンナにいるライオンのような…。

 轟音と共にこちらへ駆けてくる足音。今すぐここから離れなければ…、本能がそう告げる。しかし足はその場から動くことができなかった。

足音はどんどん近づく。まるで標的がそこにいるのがわかっているかのように迷いなくこちらに向かってきている。

「に、逃げなきゃ…!」

 一夜が逃げようとしたのと足音が消えたのはほぼ同時だった。それはどこかへいったのではなく目的地に着いて止まったのだと直感的に気づく。恐る恐る一夜はその方向を見る。

 そこには巨大な体躯と強靭な四肢、そして営利な爪と牙を備えた犬のような生き物がいた。もちろんこんな生物図鑑でも見たことがない。


 恐怖におののきながらも声を出す。

「えっと…SAN値チェックは入りますかね…?」

そんな場違いな台詞と共に一夜の日常は終わり、そして始まった。

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