筒六ルート15話 お仕置きと躾

「いない……」

翌日の昼休み、中庭のいつもの場所に来たが、筒六はそこにいなかった。

「おっかしいな、いつもならここにいるはずなんだけど……」

せっかくチケット見せてやろうと思ったけど、今から探して昼休み終了までに間に合うかな。

「あてっ!」

なんだ? 上から小石みたいなのが――

「あっ――」

見上げると屋上から鈴下が姿を見せていた。なにやら指差してるけど……。

「あ、そっか」

筒六のいる場所を教えてくれてるのか。方向は――プールか!

「さんきゅう、鈴下」

声は聞こえてないだろうけど、親指を立てて了解の意を示すと鈴下は姿を消した。もしかして、昼休みに俺と筒六が喋ってるの見てるのか? ま、今はそんなことどうでもいいか。プールに行くとしよう。


プール近くまで移動して、俺はあることに気づく。

「しまった……」

俺、プールに入れねえじゃん。どうしようかな……。

「あ、そうだ」

筒六に会うことは出来ないけど、いるかどうかはこの”覗きスポット”で確認出来るな。もし、まだいたらここで待っていよう。

「よし、では指定席へと――」

「せ、誠さん!」

「うわわっ!」

突然の声かけに尻餅をついてしまう。

「つ、筒六!?」

「なにやっているんですか、こんなところで?」

「いやなにって――それより、筒六こそなんでこんなところに? しかも水着で――」

「誠さんがこっちに向かってくるのがプールから見えたので、慌ててきたんです」

「なんで?」

「もう! 状況を考えてくださいよ! こんな時間にこんな場所に男の誠さんがいたら、プール目当てにしか見えませんよ!」

「そ、そうか……」

確かにプールへ行く以外、昼休みにこんな場所に来ることはない。

「とにかく、誰かが来る前にここから――」

「えー、そうなの?」

「そうそう」

「!?」

近くから女子の声!?

「この声、水泳部の先輩だ……」

「ど、どうしよう……」

ここにいたんじゃ怪しまれるのは必至だ、かといって今から引き返せば鉢合わせになって、どのみちお陀仏。

「仕方ありません……こっちです!」

「え、おい! ちょっと!」

筒六に強引に手を取られ、走らされる。

「誠さん、目つぶっててください」

「なんでだよ?」

「いいから!」

「わかった」

なんだかわかんねえけど、そうしろって言うならここは従うよ。

どれぐらいの距離を走ったのか、目を閉じていたらよくわからんがそこまで長くはないと思う。

「…………」

ドアの開く音とその数秒後に――カーテンか? ――特有のシャーって音が聞こえた。どっかの部屋に隠れるのか?

「足元、気をつけてください」

「あいて!」

「うわわっ!」

床が少し濡れていたせいで滑って倒れてしまう。

「いてー、頭打っちまった……」

「誠さん、しー!」

「ん?」

「ホントだって」

「!?」

さっきの女子たちの声が室内に入ってくる。筒六が言っていた水泳部の先輩なのだろう。

「…………」

「…………」

俺も筒六も息を殺す。俺に至っては目を閉じている状態でなぜかまぶたに力が入り、グッと目をつぶっている状態だ。

「てか、聞いてよー」

「なになに?」

これ大丈夫なのか? 今、大丈夫な状況なのか? 同じ室内にいるであろう女子2人が俺たちのことを気にせず会話してるってことは、バレてはないんだろうけど……。

「…………」

「告ってきたときは『お前の美しい筋肉に惚れた!』なんて言ってたのに、今じゃマッチョ女呼ばわりよ?」

「あんたに慣れてきたってことでしょ? 愛情の裏返しよ」

女子たちはどうやら彼氏の愚痴を言っているらしい。俺も筒六に裏でこんなこと言われないよう気を付けないと……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る