紗智ルート最終話 想いは永久に

「誠ちゃーん!」

「ん……」

「誠ちゃんってば!」

「んっむにゃ……」

「ひゃっ!」

なんだこの柔らかいものは? 紗智がマシュマロでも持ってきたのか?

「ちょっ、誠ちゃん! なんでいつも、んんっ!」

「紗智ー、さすがに布団の上でマシュマロを食いたくはないぞー……」

「この~、誠ちゃんのおバカチン!」

「もぐりっ!」

紗智の枕スマッシュは今日も快調で俺の頭はすぐさま冴えた。


「もう誠ちゃんは相変わらずなんだから」

紗智は朝食をテーブルに運びながら、ため息混じりにそう言う。

「なんであんなことしちゃうんだろうなあ」

「知らないよー」

「この際だから、もうあれが俺の目覚ましでいいんじゃねえか?」

すでに半分くらいそんな気でいる。

「嫌だよ、そんなの!」

「なんでだ? いつも夜に――」

「しっー! それ以上は言っちゃダメ!」

「なんで?」

「恥ずかしいでしょ」

「俺の他に誰もいないからいいじゃん。親父もお袋も夏まで帰ってこないんだし」

「あ、そういえば、おじさんの出張長引いたんだっけ?」

「そうそう、もう4月だっていうのに、2人とも全く帰ってこねえ。正月すら息子を1人きりにするなんて、ひでえよ」

「まあまあ、あたしと一緒にいれる時間が長くなるんだから、いいじゃない」

「それは喜ばしいんだがな」

「今日からあたしたちも3年生になるのかあ。この前、入学したばっかりだと思ってたのにね?」

「月日が経つのは早いもんだ」

「って、あれれ?!」

「ど、どうした紗智?」

「月日よりも時間! 時間!」

「あっ――!」

思ったよりも紗智との雑談が長かったようだ。このまま、ゆっくり朝食を食ってたら遅刻間違いなし!

「紗智、さっさと飯食って、出発するぞ!」

「うん!」


俺と紗智は高速で朝食を済ませ、家を飛び出し、学園へと急いだ。

「はあ、はあ、なあ紗智?」

「はあ、なに誠ちゃん?」

「途中で三原と会わなかったな?」

「あたしたちが遅いから、先に学園へ行ってるんだよ! ――ねえ、誠ちゃん?」

「どうした?」

「今日の約束、覚えてる?」

学園の校門が見えてきた辺りで紗智は俺に尋ねる。

「約束?」

「ほら、今日は始業式でお昼までだから、麻衣ちゃんと鈴ちゃんと筒六ちゃんとあたしたちでお昼一緒にって約束!」

「ああ、覚えてるぞ」

「それならよかったよ。ほーら! 麻衣ちゃん、先に学園で待ってるんだから、急がないと!」

「わかった! わかったから、引っ張るなって!」

学園の校門に立ち、挨拶していた生徒会長であろう女生徒に軽く会釈しつつ、紗智から強引に腕を引っ張られ校舎内へと入る。朝のHRまで残り5分だ。

「えへへ、やーだよー!」

「ったく……」

またいつもようにため息の1つでもつこうかと思ったが、俺の腕を引っ張る紗智の姿と紗智のカバンについてる天使猫を見てやめた。

変わらない日常。でも、俺たちは変わっていく。この町と一緒に変わっていく。俺はそれを紗智と一緒に守っていきたい。

「おろろ、誠ちゃん?」

少し速度を上げ、引っ張られていた方へ走り、紗智の隣で、同じ速度で走る。

「こっちのほうがいいだろ?」

「誠ちゃん……えへへ……うん!」

「遅れるといけないから、このまま走るぞ?」

「うん!」

俺たちは教室に向けて、同じ速度、同じ並びで走る。

「はあ、はあ、ねえ、誠ちゃん!」

「なんだ?」

とびっきりの笑顔を俺に向け、紗智は言う。

「だーいすきっ!」

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