18話 集結

「んん……?」

なんだここ?

「真っ暗で、なにもない」

テレビとかでよく見る宇宙空間みたい場所だ。

「変なところに来ちまったな」

ここから出られるのか?

「……願った」

「!?」

なんだ? 今の声……どこから?

「まだ満ちぬ……」

「だ、誰だ?!」

耳から聞こえてくる感じじゃない。頭に刷り込まれるような感覚だ。

「揃えよ……」

「さっきから何言ってるんだ!」

「さすれば救われん……」

「意味わからねえって!」

「…………」

「おい! なんとか言えよ!」

叫んだ瞬間、その空間にヒビが入り、割れ、眩い光に包まれる。

「――は待っている」


「誠ちゃん!」

「…………」

なんだ? 紗智か?

「誠ちゃんってば!」

「…………」

さっきの……夢? どんな夢だったっけ?

「起きてよ、誠ちゃん!」

「……うう」

「はあ、こりゃ全然起きないね。仕方ないか」

「なん……だ……?」

「あ、起きた?」

「ああ……」

「その様子だと、まだ起きれそうにないね」

「う……ん」

「起きたらちゃんと来てね。あたしは麻衣ちゃんと先に作業始めてるから教室に来るんだよ。後、朝ごはんは持っていくから学園で渡すね」

「ああー……」

「それじゃ、また後でね」

「…………」

「すごい寝ぼけてるけど、起きたとき覚えてるかな?」


「うう~ん……」

朝か……。紗智、ここに来てないのか? 先に行って校門で三原と合流してるのかな。

「俺も着替えて、行くか」

待たせたら悪いからな。そんなことをまだ働き始めの頭で考えながら。ハンガーにかけられた制服に着替える。


「いねえな」

校門に着いたが2人ともいない。なにしてんだ? もしかして、もう学園の中に入ってるのか?

「見に行ってみるか」


「日曜に来るなんて、いつ以来だ……」

休日の学園っていうのも、いつもと違った雰囲気があって嫌いじゃないな。ま、だからといって階段を上るのが楽ってわけじゃないが。

「ふあ~あ……」

「あ! 鈴ちゃん!」

「きゃあああ!」

「あ? なに――へ?」

声がしたと思ったら、突然の衝撃が上空から降ってくる。

「あ、あたたたた……」

なんなんだよ、朝っぱらから……。

「いったー!」

「鈴ちゃん、大丈夫!?」

この声……。

「鈴下ぁ!?」

それに少し離れて仲野まで!? どうしてこんなことになっているかわからんが、仰向けで倒れた俺の上に鈴下が乗っかって……ん?

「オウチッ!?」

鈴下の下着が丸見えだ。意外と可愛らしいじゃねえの。

「いちち――ん?」

「よ、よお」

鈴下はやっと俺に気づいたようでそれはそれはわかりやすいぐらい驚いてくれた。

「な、なんであんたがこんなとこに!?」

「それはこっちのセリフだっての。鈴下のほうから降ってきたんじゃねえか」

「え、あ、その、ごめん」

「ああ……」

「大丈夫だった……?」

「お、おう。平気だ」

「……よかった」

鈴下も心配することあるんだな。う~ん、それにしてもこの景色はなんとも……役得ってやつ?

「それで、なんで降ってきたんだよ」

「か、階段で滑って――」

「危ねえな」

「それよりも、あんたこそ本当に怪我してないでしょうね?」

「大丈夫だって言ったろ」

「あんたがポケーっとしてなきゃ、わたしぐらい受け止められたでしょうに」

あれ? いつの間にか俺が責められてる?

「無茶言うなよ。んなこと出来るか」

「それ、わたしの体重が重いって意味?」

「勝手に想像を膨らませるな。運良くキャッチなんて出来ないってことだ」

「ああ、そういうことね」

てか、なんでこいつは俺の上からどかねえの? それはそれで堪能出来て嬉しい限りだけどさ。

「ん? あんた、さっきからどこ見てんの?」

「うえ!? いや、別にドコも見てないぞ」

「鈴ちゃん」

「あ、筒六――」

「大丈夫だった?」

「あ、うん。下敷きがいてくれたおかげでね」

「誰が下敷きだ」

「うっさい」

「でもその下敷き、さっきから鈴ちゃんの下着覗いてるよ?」

非常に冷めた目つきと声で鈴下に現状を教えてあげる優しい仲野であった。って、そんな解説してる場合じゃねえ!

「え!?」

「なっ!?」

鈴下は赤面しつつ、跳躍して俺の上からどけてくれた。

「あ、あああ、あんた、どこ見てんのよ!? このド変態!!」

「ご、誤解だっての!? 俺は見てねえぞ!」

「うそ! さっき、あんたの目線がどうも怪しいと思ってたら、そういうことだったのね!?」

「鷲宮先輩……」

「おい、仲野! 冗談はやめてくれよ! 俺だって被害者なんだ。そんなことする余裕は――」

「ス・ケ・ベ」

「ぐわああー!」

仲野を頼ろうとした俺がバカだった。確かに楽しんでいた節はあったけど、俺から覗いたわけじゃねえんだぞ。

「さいってい! このアホ! ヘンタイ! ヘタクソギリー!」

「最後のは明らかにただのイヤミじゃねえか! 俺だって少しは痛かったんだぞ!」

「さっき大丈夫だって言ってたじゃん! もう無効よ!」

「ぐっ……!」

くそう、鈴下が妙にしおらしいから気にしないでおいたのが仇になった。

「それより鷲宮先輩。いつまで横になっている気ですか? まだ見足りないんですか?」

「こっのドスケベ! さっさと立ちなさいよ!」

「は、はい!」

冗談じゃねえ。これ以上、冤罪を増やされてたまるか!

「ほら、立ったぞ。これでいいだろ?」

「よかないわよ! あんたね――」

「あれ、誠ちゃん?」

「げっ!」

紗智、やっぱ学園にいたのか!? まずいときにきやがって!

「ゆっくり出来ましたか?」

「2人とも、待ちくたびれているよ」

しかもオプションで三原と会長が追加されてるし!

「というか誠ちゃん。なにやって――ん?」

「――んげっ!?」

紗智と三原を見て、固まる鈴下。

「あ……」

思わず、俺も声が漏れてしまう。鈴下、これは言い逃れできねえぞ。

「あなた……昨日の――」

「…………」

「知り合いか?」

顔を背ける鈴下を見て、会長は三原と紗智に尋ねる。

「昨日、昼食をとった喫茶店で働いていらっしゃった店員さんです」

「わあー、あたしたちと同じ学園生だったんだ!」

「は、はい、まあ……」

「奇遇だねー! 可愛い店員さんだったから、また会いたかったんだあ」

「か、かか、可愛い……。わたしなんかが……」

ハッキリとモノを言う鈴下がギクシャクしてる。

「なんかじゃないよ。可愛いよね?」

「はい、とても」

「え、あ……」

紗智の意見に同意する三原に対し、さらに鈍い反応をする鈴下。

「鈴下、もしかして照れてるのか?」

「うるさい!」

「はうっ!」

鈴下の蹴りで飛んできたシューズが俺の大事なとこに……。

「あれ、誠ちゃん、この子と知り合いなの?」

「ああ……それは……」

「教えてくれればよかったのに」

昨日は封じられてたんだよ。

「あの、少しいいですか?」

「君は1年生の仲野筒六さんだったかな?」

仲野の割り込みに会長が受け答えする。

「はい」

「どうした?」

「なんだかとても状況が混乱してますので、一度整理したほうがよろしいかと」

「ふむ、それもそうだな。立ち話もなんだし、どこかの空き教室を使おう」

「それがいいかと」

「よし、ついてきてくれ」

「ほら、いつまでダウンしてるの、誠ちゃん!」

「お、お前にこの痛みは一生わかるまい」

噂によると160人の子供を生んで、3200本の骨が同時に折れる程の痛みに匹敵するらしい。そんなもん俺にだって想像できるかよ。

「もうしょうがないな。引っ張ってってあげるから」

「手伝います」

「ありがとう、筒六ちゃん」

「うう……」

紗智と仲野に片腕ずつ引っ張られ、倒れたままズルズルと引きずられていく。俺は今、人間モップと化した。


「関係は理解出来た」

「鈴下は仲野と同じクラスで友達だったんだな」

会長の言葉に続いて、すっかり回復した俺もなんとか状況は掴めた。

「ええ、仲良しです」

「ちょ、やめてよ、筒六」

「私は鷲宮先輩と鈴ちゃんが知り合いのほうが驚きです」

「戦友みたいなもんだ」

拳で語り合ったからな、電脳世界だけど。

「あんた、戦友って呼べるほどの実力なの?」

「返す言葉もねえ……」

「あたしと麻衣ちゃんは昨日、喫茶店で鈴ちゃんと会いました」

「鈴ちゃん……」

紗智に名前を呼ばれたことに反応する鈴下。嫌なのかな。

「ダメかな? あたしのことも紗智でいいよ」

「ダメじゃない……。あっ、です」

「あはは、わざわざ敬語に直さなくても面倒なら使わなくていいよ」

「う、うん」

「そうだな。私たちは別に気にしないから、鈴さんの好きにするといい。その代わり、私も名前で呼ばせてもらうよ」

「わかった……」

許しをもらったとはいえ、会長にタメ口で話せるのはさすが鈴下だな。

「私もそうさせていただきますね、鈴さん」

「うん……」

「さて、お互いのことは理解できた。君たちはなにをしに来たのかな?」

会長は1年生2人に問いかけた。

「2人とも、部活やバイトがあるんじゃないのか?」

「今日の部活は学園祭準備のため、お休みです」

「バイトは夕方から」

「では、なぜ学園へ?」

「私は暇だったので水泳部の先輩たちのお手伝いをしようと思ったのですが、見事に断られました」

「私は……特に用事はないけど……」

「鈴ちゃんも暇だったってことで」

「家でゆっくりするって選択肢はねえのか?」

「…………」

ありゃ、そこ黙るとこなの?

「エッチなことしか考えてない鷲宮先輩と一緒にしないでください」

「な、仲野君! 根拠のない嘘はやめたまえ」

「いや、あながち間違えてないかもだよ」

「そう、ですね……」

「うむ……」

「確かに……」

「言わずもがなです」

「んな!?」

どれもこれも俺のせいじゃねえのに……なぜ……。

「鷲宮先輩、ハーレム完成まで目前ですね」

「勝手なこと言うな」

これ以上、埒があかん。俺から切り出すか。

「それでこれからどうするんだよ?」

「あ、忘れてた。少し作業はしてるから、誠ちゃんも手伝ってね」

「ああ、わかってるって」

「昨日、言ってたパズルですか?」

事情を知ってるだけに、仲野も気になってたようだ。

「はい。やってみたら、けっこう楽しいですよ」

「なんの話?」

鈴下は会長に疑問を投げかける。

「私もさきほど聞いたのだが、学園祭の出し物で創作パズルをするらしい」

「そのパズルの作成だよ」

「そうなんだ」

「もしよかったら、私と鈴ちゃんも参加していいですか?」

「え、ちょっと筒六――」

「どうせ暇だし、鈴ちゃんもやろうよ」

「……筒六がそう言うなら」

「いいですか?」

「あたしはいいけど、なんだか悪いよ」

「気にしないでください。興味ありますし」

「鈴さんもよろしいのですか?」

「……大丈夫」

「いいんじゃねえか、紗智? 人数多いほうが進みも早いしよ」

「うーん、なら手伝ってもらおうかな」

「ありがとうございます」

「よろしく」

「……紗智さん」

「なんですか、きぬさん?」

「私も参加していいかな?」

「え!? 会長がですか?」

俺は驚きのあまり少し大きめの声を出してしまう。

「ダメかな、紗智さん?」

「いえ、そんなことは――でもきぬさん、生徒会の仕事があるんじゃ」

紗智の疑問はもっともだ。

「今のところ落ち着いているから、気にしなくてもけっこうだ。私もその創作パズルとやらに興味がある」

まさか会長まで協力してくれようとは……しかし、こうなれば――

「紗智よ、こうなったら会長も巻き込んでやろうぜ」

「誠ちゃん?」

「会長が手伝ったとなったら、さすがにうちのクラスの連中もやる気になるだろ」

「鷲宮君……」

「むしろ会長のような人材なら、こっちからお願いしたいぐらいです」

「うん、ありがとう。よろしく頼む」

「決まりだな」

まさか俺たち6人が一堂に会して、こんなことをするなんて。

「よーし、こうなったらものすっごいもの作るぞー!」

「はい、頑張りましょう!」

「私も楽しみだよ」

「面白そうだね、鈴ちゃん」

「うん、そだね」

なんか変な糸にたぐり寄せられた気分だが、面白くなりそうだ。

「なら、俺たちの教室にレッツゴーだ!」

「鷲宮先輩が言うと、どうもしっくりこないですね」

「んがっ!」

「あはははは!」

紗智の笑い声と共に俺たちは教室に向かった。学園祭の準備がこんなにも楽しみに感じるとは思ってもみなかったな。

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