第11章 裏切り

第11章 裏切り(1)


 礼韻レイン涼香すずか優丸ひろまの3人はじっと朝を待ち、そして決戦は始まった。福島が宇喜田と槍を合わせたのをきっかけに、黒田・細川対石田、藤堂対大谷、田中・筒井対小西と、戦線が拡大していく。彼らは、その南宮山と天満山に挟まれた戦場をじっと見続けた。


 作り物の戦いなどではない。コロッセオでの奴隷剣士たちの真剣勝負のようなものが、平原全土で起こっているのだ。視線を右に振っても左に振っても、命を賭した戦いがあった。


 興奮の際で彼ら3人の体は、知らず硬直している。涼香は零れ落ちる涙を制御できず、礼韻は胸の奥が熱くなり土嚢の縁から嘔吐した。とにかく正常ではいられなかった。


 しかし優丸だけは、目に見えた変化がなかった。じっと戦場を見つめている。涼香はときおり視線を横に振り、優丸の冷静さに薄気味悪さを感じた。


 ただでさえ、謎の男だった。転校生で、孤高の礼韻とすぐに仲よくなり、今や、まるで双子かのような存在となっている。別段、外見でおかしなところはない。むしろ他人には、さわやかな好青年とイメージされることだろう。礼韻と極めて容姿が似ているが、目つきがちょっと違う。優丸の方がやさしかった。


 その物静かな優丸が唯一反応したのが、明石全登らしき者に福島正則が撃たれたときだった。


 もちろん史書にも載っていないことなので、目撃者が反応するのは当然といえた。しかし優丸のそれは驚きではなく、なにか、とてもよくないことが起こったというように顔色を失ったのだ。


 涼香は一瞬、優丸は福島正則贔屓だったのかと思った。礼韻が三成に心を奪われているように、優丸も福島正則に思いを強くしていたのかと。それであれば、不意を突かれた負傷に深く沈みこむことも分かる。


 しかし、どうもそれとも違うようだった。


 涼香は首を傾げたが、その後も続く数々の修羅場に気が行き、そのことは気持ちから流れてしまった。


 西軍の優勢は続く。涼香は自分の見ている場所が、ほとんど東軍の陣内だということに気づいた。福島だけでない、藤堂も田中も筒井も加藤も、全体的に東に押しやられているのだ。


 宇喜田、大谷、小西、石田の軍勢は怒涛の攻めを展開していた。

 

 


 

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