第8章 帷面権現(14)
3人で、小さな机を囲んで籠の中の食事を食べた。
その間、普段は滅多に自分から口を開かない優丸が、話し続けた。
「自分の郷里とはいっても、これからのことは何も分からない。誰が帷面権現の重要人物か、まるで分からないし見当も付かない。だから、一瞬も気を抜かないに越したことはない。自分たちの振舞いが、帷面に受け入れられるかどうかの決め手になるのだと考えて、行動しよう。もっとも、本当に時を渡りたいのだと思っているのなら、な」
優丸は涼香に視線を送った。
涼香の本音は、また礼韻に巻き込まれてしまったというものだった。しかも今回は、得体の知れない集団に囲まれ、超常現象を会得することだとくる。今の今まで、付き合っていられないと、何度帰ってしまおうとおもったことか。しかしこの状況では、そんなことできるわけがない。そしてまた、もしかしたらという気持ちも、実際にはあった。この地の持つ独特の雰囲気が重くのしかかり、一笑にふすことを押しとどめるのだ。
しかし仮に、本当に時超えができるのだとしたって、そんなもの、怖くて関わりたくなかった。礼韻の説明では、無事に戻れないこともあるという。付き合うレベルを超えている話だった。
しかしその一方で、礼韻にどこまでも付いて行きたいという気持ちも強かった。天与の才を持つこの男と、離れたくなかった。そしてまた、この男と一緒であれば、どんなことが起きても上手く捌いてくれるだろうと信頼もしていた。
その2つの相反する気持ちが、視線を泳がせ、言葉を詰まらせた。
混乱が、頬に涙を伝わせた。
いけない、と思った。パニックになって涙を流すなんて、礼韻が最も軽蔑することだ。毅然としていないと愛想をつかされてしまう。しかし抑制しようと思えば思うほど、涙は流れ出してしまう。堪えようとして顔が歪んでしまい、涼香は両の手のひらで覆った。
意外にも、礼韻は静かに、肩に手を置いてきた。
「考えがまとまらないのは、当然のことだ。それだけ大きなことだからな」
声が、優しかった。涼香は片方の手を、肩にかかる礼韻の手に合わせた。
その晩、涼香はそっと布団を抜け出し。礼韻の布団に入っていった。
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