第8章 帷面権現(11)
1時間ほど帷面のことを話していると、扉がノックされた。暗いなかに、涼香が立っていた。
「よくこんな時間に来られたな」
「案内してくれる人がいたから。あれ?」
振り向いて指さそうとしたが、すでに案内人は姿を消していて、涼香は戸惑いながら周囲を見回した。
「まぁとにかく入れよ」
「うん。でも、驚かないのね」
涼香はいつも、礼韻が感情を表面に浮きあがらせることを期待するくせがある。今も、突然の訪問にびっくりすることを心の底で望んでいた。ところが期待に反し、眉ひとつ動かさなかった。
逆に、部屋の隅に優丸がいて、涼香の方がハッとしてしまった。そして数秒のち、優丸が自分の来訪を告げたのかと納得した。
「ここがどこだか分からないけど、もう明日は学校に行けないわ。礼韻といると、どんどん世間一般からずれていっちゃう」
真顔で涼香が言う。それは本心でもあった。涼香は常々、わたしは礼韻と違って特権意識など持っていないと思っていた。
「おれが指示したわけじゃない。すべておじいちゃんの考えで動かされている」
「願坐韻さんの?」
「あぁ。この里にむかうときには、なにも聞かされてなかった」
長い付き合いで、涼香は礼韻の表情から考えをある程度読み取れる。じっと目を見て、この言葉に嘘がないことが分かった。
「そうみたいね。それで、わたしたちはこれからなにをするの?」
「さぁ、な」
「さぁ、って……。なにもないのにこんなところに来ることないでしょ?」
「本当に分からないんだ。正直に言って、目的は知っている。自分の望んでいることだからな。でも、その目的に向かって、なにをやらされるのかは知らない」
再び礼韻の目をじっと見て、真偽をさぐる。やはり嘘は感じられなかった。涼香は、わけの分からないことに巻き込まれた怒りを感じるが、それをどこに抗議していいか分からなかった。
「じゃあ、せめてその目的を教えてよ」
礼韻は優丸に顔を向け、こくりと頷いたのを確認して、涼香に向き直った。そしてスッと目を細め、
「時を超えて関ヶ原の合戦に行くんだ」
と言った。
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