おなら……シテマス

「くっ!」

 おのれの体の数倍はある螺旋状の風に包まれながら、ラクルムは背中の黄金の翼で自身を包み込みそれに耐える。


「【風の波動】は、こう放つんだぁ!」

 口を大きく開け、体内、喉、そして舌に乗せた【風の波動】は鳥のゴーレムの左の翼を直撃し、その一部を削り取る。


『なんの! こんなへなちょこに』

「破ああぁぁ!」


 蒼き空の中で、二羽の鳥が雌雄を決する為、破壊のげきを放ち、絡み合い、そして体でぶつかり合う。

 鳥のゴーレムから放たれる魔追弾をラクルムは己の拳や蹴り、黄金の羽根でたたき落とし、その勢いでこれら三つの武器を鳥のゴーレムに叩きつける。


 ラクルムの拳は鳥のゴーレムの翼を削り取り、

 鳥のゴーレムの【風の波動】はラクルムの装甲をみちぎる。

 ラクルムの蹴りは鳥のゴーレムの首をあらぬ方へ曲げ、

 鳥のゴーレムの蹴りは防御したラクルムの黄金の羽根をむしり取る。


 さらに二羽の鳥は互いの装甲と甲冑に向けて、破壊と波動の撃を相手の体に向けて放つ。

 鳥のゴーレムの翼は破壊の撃によって徐々に欠損し、その装甲も落城寸前の城壁のように崩壊が始まる

 ラクルムの甲冑も食いちぎられるようにはぎ取られ、所々肌が露出し、胸や太もも、臀部でんぶの膨らみが徐々にあらわになる。


『ふ~む。ウェントならまだしも、貴女ではあまりそそられる姿ではありませんね』

「や、やかましい!」


 口では強がっているラクルムではあったが、体に刻み込まれた傷は無視できるモノではなかった。

(やはりただの鳥のゴーレムではなかったか。マイトレーヤによって強化されている。これでは他のゴーレムもおそらく……)


 覚悟を決めたラクルムは再び詠唱する。

「『サ・リ・ガ・マ・パ・ダ・ニ』! 破ぁ!」

 口から放たれた【風の波動】はラクルムの体を包み込み、徐々にその姿を竜巻へと変化していく。


『最後のあがきですか? いいでしょう! ここで無様に散るがいい!』

「破アアアァァァー!」


 竜巻と化したラクルムと鳥のゴーレムがぶつかり合う!

 衝撃と波動! 激と豪! 粉砕と破壊! 

 はじき弾かれながら、尽きることがない衝突を繰り返す。


(堅い! 簡単には貫けない! どこか薄い、弱ったところは……あった!) 


 ラクルムの眼は、カタリーナが魔追槍で貫いた鳥のゴーレムの股間、消魔水が蓄えられていた部分をとらえる。


『いい加減! 楽になりなさい!』

 鳥のゴーレムの突進がラクルムを狙う。

 それに対して、ラクルムの体はまるで落ち葉のようにゆっくりと舞い落ちる。

『力尽きましたか? よくやったと褒めてあげましょう……ん? 下……気のせいか? ちょっと前にもこんなことがあったような?』


「『サ・リ・ガ・マ・パ・ダ・ニ』! いけぇ!」


 【風の波動】に包まれたラクルムの体は、カタリーナが放った魔追槍のように鳥のゴーレムの股間めがけて一気に空を貫く。

『何度も同じ手は! 翼で股間を防御すればすむこと! ……あれ? 翼が……届かない!!』

「愚か! 翼はすでにボロボロ! 戦場いくさばに出てこないで引きこもっているから不覚に気づかないのだぁ!」


”ズドゴォォーーン!”


 魔追槍と化したラクルムの体は、鳥のゴーレムの股間から首の後ろまで一気に貫いた!

「どうだぁーー!」

『ぎゃあぁーー!』    


 とどめとなった攻撃によって、鳥のゴーレムの体は徐々にその姿を維持できなくなり、一つ、また一つと朽ち果てるように体が崩れていく。


”ドォン!””ドガァ!””ズズン!”


 翼、胴体、脚、時折、体に残った魔追弾が崩れ落ちる破片に当たり爆発し、崩壊をより早めていった。


 呼吸を整えながら何とか体を浮かし、崩壊する鳥のゴーレムを眺めるラクルム。

 そして翼や胴体の破片に混じって、琵琶の海に向かって落ちてゆく鳥のゴーレムの頭部。

 頭部だけといえども、その大きさはラクルムの身長の数倍はあった。


 しかし! 正に海面に触れようとした瞬間! 頭部から翼が生え、首根っこから魔力の風を勢いよく吹き出し、ヤゴの街へ向けて海面すれすれに飛行していった!


「な、なんだと! くっ!」

 追いかけようにも魔力も生命力も限界に近い中、最後の力を振り絞って【ドエリャア飛声ひせい】の術を唱え、ウェントに声を送る。

「ウ、ウェント様、鳥のゴーレムの頭部が超高速でヤゴの街へと向かっています! ……も、申し訳ありま……せん」


『了解しました。ラクルム! 貴女は!?』 

「魔力と生命力が、か、からですが、なんとか生きています。さ、先に帰したカタリーナ達に指令を……」

「わかりました。道中気をつけて……」


『ウェントです。カタリーナ! 聞こえますか?』

「こちらカタリーナ。ウェント様、いかがなさりましたか?」

『鳥のゴーレムの頭部がヤゴの街へと向かっています! 発見次第撃墜してください!』

「了解しました! ……って、ゴーレムの頭部? そんなモンどこに……」

「隊長代理ぃ~。九時の方向、北の方をものすごい速さで何かが飛んでいるよ~」

「ってあれかぁ! そうか、帝都の上空を飛ぶと撃墜されるから北から大回りで……」


 そんな中、暴れ足りないかのようにビアンカが声を上げる。

「カタリーナ、いや、隊長代理殿! あたいが出張でばってもいいぜ!」

「無茶言うなビアンカ! 推進杖もないのにどうやって追いつくんだ?」

「こんな時のために、あたいの小隊で《連結かたぱると》の練習したんだ。行くなと言っても行かせてもらうぜ」

「わかった。無理するなよ。帰りの”駅馬車賃”だ。パーティーには遅刻するな」

 カタリーナは四つの魔力ポーションの小瓶をビアンカとその隊員に渡す。


「あいよ! さぁみんな! 『ケツの穴をさらけ出せ!』」

「「「おぉー!」」」

 ビアンカを先頭に、二番目を《リエル》、三番目を《ロザリ》、四番目を《デリア》が一直線に並ぶと、最後尾のリエルの飛行杖の先端が前のロザリの飛行杖の推進口へと刺さり、やがて全員の飛行杖が連結された。


『おっしゃ~! 盛大にをぶちかますぜ~!』


”ボウゥゥー!”

 ビアンカの咆吼を合図に、最後尾のデリアの飛行杖が勢いよく魔力の風を吹き出すと、連結された飛行杖はジャベリンのように一気にくうを貫いていった。


「第二救護隊! 残ったポーションをかき集めて追いかけろ! ……それにしても、もう少しまともなかけ声はなかったのかぁ~?」

 救護隊を見送りながら、カタリーナはあきれたように呟いた。

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